サオリさんの身体
<世界の初期化>。白藤の能力をもってすれば、不可能なことではない。
「それをやってしまうとこの星の設定が全て狂ってしまって、最悪消滅しちゃうけど」
「…冗談で言ったんですよね?」
白藤はどうでしょう、と意味有りげな顔をする。
「現実的に私ができることは…ないのよね」
(だったら最初から言わなければいいじゃないですか…)
思わず心の中で思ってしまう。色々言った末に、結局できることがないとは。
「…サオリさんを、普通の人間にすることはできないんですか」
白藤の能力なら、可能なのではないだろうか?人間になれれば、サオリが利用されることもない。
白藤は地面に横たわって寝ているサオリの側に座り込み、凝視する。そして、サオリの額に人差し指の先を当てて、瞑想するように目を瞑った。
10秒ほど黙っていると、白藤は指を離して立ち上がり、横に首を振った。
「この子は、人間にはなれない」
「どういう…ことですか?」
「この子は全ての細胞に因子を植え付けられているんだけど、その因子の力で生命活動をしているの。私の能力で因子を消滅させたら、彼女は生きることができなくなる」
能力者因子は元々、生命活動にも肉体構成的にも関係のないものである。だから50年前に因子を消しても、能力者は能力を失くすだけで済んでいる。
だが、サオリは違う。毎回微弱な感情を抱くことで、能力者因子が意思や肉体を動かすエネルギーのようなものになっているというのだ。
「サオリさんの能力と生命活動は、紙一重で切り離せないものなんですね」
「そういうこと。本当にこのエリアの偉い人たちはしょうもないことをするのね」
白藤は深くため息を吐いた。
「さて…少し話過ぎたかな。そろそろこの子も起きる。またどこかで会いましょう」
「あの」
「その子…ちゃんと守ってあげてね。それが上戸さんの本心でもあるから」
そう言い残して、白藤は詠斗が止めようとした刹那に粒子となって消えてしまった。
サオリが眠気眼を擦って、ムクッと起き上がる。
「あれ、ワタシ寝てた…。あのお姉ちゃんは?」
「サオリさんが寝ている間に、どこかに行ってしまいましたよ」
「お姉ちゃんに、ワタシ攻撃しちゃった」
能力を使って当ててしまったことに、サオリは罪悪感を感じているようだ。
「最初があの人で良かったですよ。普通のヒトなら、死んでしまいますからね」
「エイト、ごめんなさい。ワタシ、もう能力使わない」
「約束してくれますか?誰かを守るとき以外、使わないと」
<指切り>はしないことにした。側にいるのは、このサオリだけでいい。
「うん、約束する」
「じゃあ、帰りましょうか。今日も色々ありましたね」
詠斗はベンチから立ち上がり、サオリと一緒に崎下邸へ戻った。




