輝き
照らされた洞窟の中を、サオリが上機嫌に歩いていく。
「きっと綺麗なんだ~。ねえ、楽しみでしょう、エイト!」
「…」
「エイトが難しい顔しても、今日は引かないからねー!」
…一度でもサオリが引いたことがあっただろうか。
詠斗がいつもの仏頂面に近いが、何とも言えない顔をしているのが…どんな感情を抱いているのか分かっているのか、それとも本当に分かっていないのか判断がつかない。
空元気?本音?どちらにも取れるところが怖い。
何か言いたい。でも適切な言葉が見つからない。
そう詠斗が考えていると、何かが彼の目の横を、頬を横切った。
―——小さな小さな、透明な結晶を含んだ風だった。
サオリの左手の袖から、零れて流れてきたようだ。
「サオリさん…」
低く掠れた声が、喉元から漏れ出た。
(サオリさんは…俺をどこに連れて行こうとしているんだ?自分の時間と命を削ってまで見たかったもの…)
「ほら、光が見えてきたよ!」
サオリが振り向いて、左腕をブンブンと大きく振る。
数歩歩くと、オレンジ色の陽光が入り込み、詠斗の方へ振り向いたサオリを照らしていた。
黒曜石のように深い黒色の眼が、透明な水に沈められて取り出されたように光っている。
そして、サオリの屈託のない、嘘偽りのない純粋な笑顔が詠斗に向けられている。
どうしてそんなに、笑えるのだろう。
笑顔を見たとき、サオリの言葉でさえも嘘のないものだと感じた。
身体が崩れ行く中で、『景色が楽しみだ』というのも、『今日は引かない』という言葉を出したのは、彼女の本心であり、決意でもあったと。
「夢を、見せたかったの。終わらなくて、消えない夢を。これ、車で流れてた歌の言葉。素敵でしょう?」
「夢…。私に、夢なんて…私の夢は…」
まだ態度が煮え切らない詠斗の手を、サオリはぐっと掴んだ。
女性特有の、柔らかみのある手が、無骨な彼の手を包み込んだ。
「行こっ!エイト!」
「うわわ、サオリさん!」
「ここからは、お楽しみ!」
サオリはくるっと身体を翻し、詠斗の背中にあっという間に回り込むと服の袖で彼の目元を塞いでしまった。
陽射しは隠しきれず、詠斗の目元がオレンジ色の空間に代わる。
「押してあげるから、エイトは力まないでね!」
「そんなこといわれても…」
「もうちょっとだよ、三、二、いーち!」
サオリが詠斗のおぼつかない足をアシストするように押して、十歩ほど進ませる。
陽光が強くなったのか、薄めのオレンジだった視界が一気に濃くなる。
「じゃーん!ここだよ、エイト!」
「ッ、眩しい…」
目隠しを外した詠斗の目に飛び込んできたのは、子供時代に唯一崎下と話した光景だった。




