秘密
黄瀬は穏やかな笑みを抑え、最奥で実験を観察しているときと同じように真剣な目つきをする。
この顔は、おそらく黄瀬本人はサオリのことを知っている。
黄瀬のことは詠斗から見ても信頼できる人間だ。表向き政府には逆らわないが極秘書庫の話をするということは、政府に対する何かを画策しているのだろう。
「私が出会ったのは…」
詠斗がモゴモゴと言葉に詰まっていると、黄瀬はフッと笑った。
「君が流暢に言葉を紡がないところを見ると、本当のようだね」
試して悪かった、と黄瀬は言った。
「翼を持つ女性が確認されてね。映った映像を拡大してみれば、50年前の白藤さんと全く同じ顔をしている女性だったから。しかも抱かれて硬直しているのは、詠斗君だろう?」
黄瀬はストレスカウンターから、撮影された映像を映し出す。鮮明に、サオリと詠斗の顔が写っていた。
「バレてましたか、ハハハ…」
詠斗も流石に苦笑いをして、居たたまれなくなった。
「バレてましたか、じゃないよ詠斗君。このエリア、いや全世界は全てリアルタイムで監視されているのだから」
そうだった。黄瀬の言う通り二ホンエリア全域と人間が住む他地域は、全て衛星で監視されている。プライバシーなど在ったものではない。
「…流石の黄瀬さんにも、言いづらいのですが」
「大丈夫と言えることを、私からも言おう。君の父上である崎下さんから、私も頼まれたことがあるんだ」
「父が、黄瀬さんに?」
「<息子を助けてやってほしい>とね。渡すかどうか迷ったけど、これを詠斗君に渡すよ」
黄瀬は胸ポケットから、小さな黒いケースを取り出した。形はメモリーキューブを入れるものと同じだ。よく見ると二ホンエリア政府の印が金ラインで彫り込まれている。これは政府高官や司令官クラスの者しか扱えないレベルの物であることを表している。
「これは君が出会った女性に関すること、そして50年前のことが書庫より詳しくデータを残している…と思う。これを渡す代わりに、彼女のことを教えてほしい」
ケースを開けると、それは純黒のキューブだった。シリアルナンバーは『00000』。絶対に公に出さないものである。信憑性はありそうだ。
「彼女の名前は、サオリ。父のメモに、そう残されていました。私も経緯は不明ですが、彼女は培養液の中で眠っていた。左手のない、20代くらいの女性です。精神は極めて幼稚ですが、条件が整うと本来の人格?が出現することがあります。まだまだ分からないことが多いですが、好奇心から興奮したところ、あの翼が生え飛行することができました。興奮が収まると、翼は収納されました。今は普通の人間と変わりありません」
「なるほど。やはり、あの人は…」
「黄瀬さん?」
「サオリさんを創ったのは、君の父上である崎下灰理…彼の本当の名前は、上戸拝その人だよ」




