鳥、そして紙きれ
「この苦みが癖になる、のかな?」
ミノは口に含んだ水を味わい、飲み込んだ。
青い小鳥が好んだヤマネサシの葉を浮かべた水を部屋に持ち帰って改めて飲んでみたのだ。
植物特有の青臭さというか、渋みが水に染み出しているようだ。
ミノは、棚に隠してある細い紙きれを二枚取り出した。
赤いものが一枚、青いものが一枚。
高価なので、それを小指の爪くらいの大きさにちぎり、残りは片付ける。
それらを先ほどの水に少しつけてみると、赤い方の紙が少しだけ青く変色した。
青い紙の色は変わらない。
「そりゃ、苦いわけだ。」
ミノはつぶやいた。
この紙は、半年前に隣の国から来たという商人から買った。
酸味が強い水につけると、青い紙が赤くなる。
苦味が強い水だと、赤い紙が青くなるのだ。
例えば、果実の汁は青が赤になり、灰を溶かした水は赤が青くなる。
また、酸味や苦味の強さによって、色の変化の度合いが異なる。
赤が真っ青になる水は、人が飲むのに適さない場合が多いと商人が言っていた。
なんでも、錬金術師を志す人の中に、はこの紙を使って何かの研究をする人がいるらしい。
そして、赤と青が示すもので成果として知られているのが、赤い紙が真っ青になる水は苦い、ということだけのようだ。これから何かが発見されるのかもしれないが、期待しないで待っておこう、というのが外野の正直な意見である。
錬金術師になるために、新しい器具の購入で家財を投げ出す人もいると聞く。
ミノだって、趣味と割り切ってはいるが、この3年で貯めた小遣いの半分を使ってこの紙を買ったのだ。
そのため、小さく小さく千切って大切に使っている。
錬金術師たちは、この紙を買って、何に使うのだろう。
永遠の命と若さを得るために、水の苦味を飲まずして知る必要があるのだろうか。
実用性があるのかないのか、分からない。ご苦労なことだ、とミノは自分のことを棚に上げてつぶやいた。
話を戻すと、この水は森の新しい美食を発見した、というわけではないらしい。
まあ、人が飲めないものを小鳥が飲んでいたからといって悪いこともないだろう。
あの一個体の偏食かもしれないわけだし。
階下で父が呼ぶ声が聞こえる。別件の配達のようだ。
「父さん、次はどこの配達?」
父が桶を台車に積む手を止めて、ミノに注文票を手渡した。
「ここだ。真っすぐ言って、真っすぐ帰ってこい。すぐにだ」
注文票を見ると、町の診療所である。大きめの桶、というかたらいが10個。
この店では牛用の桶を多く扱っていたが、診療所とは珍しいお客様だ。
「診療所?牛はいないよね」
ミノが言うと、父は慌てて口の前に指を立てた。
「し、大きな声を出すな。母さんに聞こえたら騒ぐだろう」
「でも、どうしてこんな大きな桶がたくさん必要なの?」
ミノが声を抑えて尋ねると、父親は首を振った。
「客のことを詮索するのはいけないよ。彼らが望む商品をうちが用意した、それだけだ」
「分かった」
あとでワタルに聞くね、という言葉を飲み込んだ。
青い鳥とヤマネサシの葉の話もしたいし、今日の寄り道は少し長くなりそうだ。
真っすぐかえってこい、と繰り返す父の言葉は聞こえなかったことにした。
お気づきの方も多いでしょうが、この赤と青の紙は、リトマス試験紙、というやつです。
何に使うのか?と言われれば、小学校の実験くらいしか思いつかない。
今はpH試験紙やpHメーターが発明され、あまり姿を見ませんが、実はリトマス紙って1300年くらいに錬金術師によって発明されていたそう。
錬金術師たちが残した成果は、実は後世の技術発展の礎になっているようです。




