『新しい世界(幕開け)』
『我らの賢王は魔王に殺される最後の瞬間まで皆を案じ、一時期のご自身の行いを悔いておられた…私は、皆の王を守ることもできず…』
『平原』の会議室は重い空気に包まれていた。
武官、文官の責任者各3名、一時期は引退していた元重鎮達の代表者3名。
そして、俺だ…
武官、文官は俺に味方するのは間違いない、王が部屋に引篭もっていたときに国を動かしていた実績がある。
問題はご老人達だな…
『今後ですが、魔王が置いていった本の中に世界を調整する町の存在があります。王が心配されていたこの国の民の為、私はこの町に向かおうと思っています…』
『それでは誰がこの国の王となるのですか。ナセキ様以外には務まりません』
よく言った…
『私は、父であり、皆の王を守れなかった男です。それにセント姉様が生きておられれば姉様が皆の上に立つのは必然。姉様が戻られるまで全員の力を『平原』の為に使っていただきたい』
『キチィ王の忘れ形見よ。賢王の願いの為、我々も微力ながら協力しよう。安心して魔王の造った町へ向かうがいい…十分気をつけるのだぞ』
ちょろいな…ただでさえ出遅れている。急がねば…
『ありがとうございます。王の、いえ父の願いの為すぐに向かいます』
あらかじめ準備させておいた手駒と俺は町へ急ぎ向かった。
『何を悩んでいるのですか』
バブエ様は魔王から渡された本を見てはため息をついている…
『あたいはごちゃごちゃしたのは嫌いなんだよ。でもきっとあの町にはセントが居る…会いたいんだけどね…』
『いけません。今バブエ様にこの国を離れられては万が一がありますので…』
逢いたいなどと…私という者がありながらセントとか言う女め…
そうだ、私が行けばいい…バブエ様と離れるのは嫌ですけど。セントとか言う女を打ち倒さなければ…
『私がまいります。この国の…いや、貴女のために』
『そうかい。フランなら安心だ、頼むよ。セントに会ったらよろしく言っておいてくれ』
セント…許すまじ…
俺はまだ夢だと思いたい。
目を閉じるとあの光景が鮮明に浮かび上がる。
『不自由の象徴は消えねばならない。お前達に与えられた自由は魔王が与えたものではない。産まれでた時から自由であったのだ。それを皆に返そう』
ウォルン様は自らの胸に短剣を突き立てた。集められた国民の前で…
誰一人声をあげない。あげられない。
静かに、人々はウォルン様の倒れた高台に並び深く頭を下げ1人また1人日常に戻っていく。
その光景を3役はずっと見つめている。
『ゲンム様…王はなぜ死を選ばれたのでしょう…』
『皆、解っていたのだな…』
私とマス様の言葉にもゲンム様は何も答えない。
多くの国民が日常に戻ったころ、ゲンム様は口を開いた。
『孤高の王はお疲れだったのだ…』
王の座はマス様が当面座ることになった。実質はゲンム様との2人で国内の調整を行う方針だ。
『ゲン、お前は一番若い。これからの世界の変化はこの本に書いてあるように1つの町が握っている…正確には1人の少女だが。お前は中央に行け、そしてお前の正しいと思うことをせよ』
ウォルン様の言葉…
『まかせた』
マス様はそれを聞いたときに大きな手で俺の肩を叩きただ一言俺に伝えた。
そして俺はその町へ向かっていた。
やはり、ポント様の決断は正しかった…我々が一番乗り。
「クロネ、お前はセントと仲良くなるんだ。誰よりも早く誰よりも深く。それが荒野の為になる」
ポント様…
街の入り口は5つ。
中央にある大きな建物を取り囲むように大きな道があり、その道は5つの区画をそれぞれ分けるように設置されている。
広さ、設備は均等。
自分の国に一番近い入り口に国名が書かれている。
町の様子は本に書いてあった通り…
本には書いてないがおそらくは国名の入った入り口の区画をそれぞれの国が使うのだろう。
『私はこの町の主に会いに行ってきます。皆は設備や我々の区画の調査をお願いします』
誰も居ない町は作り物のよう、まるでおもちゃ。
大きな通りを中央に向かって歩く迷いようが無い造りに飾り気の無い大きな建物。
生き物の気配を感じない町を小走りに走る。
中央の建物は5区画からの通りの数と同じように大きな5つの入り口中は何も無くただただ広い空間があるだけ…いや、中央に大きな螺旋階段が高い天井に向かっている。
この階段を使っていい物か…
階段に近づき見上げる。
『私は荒野から来ました。クロネと申します。どなたかいらっしゃいませんか』
こんなに天井が高いと音も響かないわね…
『どうぞ、お上がりください』
どこからか分からないが1階全部に届いていそうな不思議な音量…
『では、お邪魔いたします』
聞こえているかどうか分からないが天井に向けて返事をして階段を登っていく。
幅の広い階段を上がること10分ほどで天井が近づいてきた。1階に比べればだいぶ狭い感じの広間にたどり着く。
扉が5つ、左右から伸びた階段の上に一回り大きな扉が1つ。
その扉がゆっくり開く…
『ようこそいらっしゃいました、私はセントと言います。クロネ様よろしくお願いします』
『こちらこそよろしくお願いいたします、セント様』
私より若いくらいかしら…何か気に障ったか…表情が暗い。
『私の事はセントと呼んでいただけないでしょうか…』
どちらが正解か、言葉の通りに受け取るか…それとも…
『では、私の事もクロネと呼んでもらえますか』
セントさんの表情はパッと明るくなった、素直で分かりやすい性格のようだ…
とにかく情報を手に入れなければ。
『セント、まだ他の国の方たちはお見えになっていないのでしょうか』
『ええ、魔王さんの話では皆さん明日以降でお見えになるかと思ってました。クロ…ネは早かったですね』
あまり人と接したことがないのだろうか、あまりこちらの顔を見ようとしないのね。
『ポント様…えっと、荒野の王ですが。急ぎ向かうようにとご命令がありまして。セントによろしく伝えてくれとも』
『そうでしたか。お元気そうで私も嬉しいです。案内しますのでと言ってもここにはたぶんそれぞれの国の方の控え室と円卓の部屋しか入れないですけど』
本にあった円卓の間か…
『みせてもらってもいいでしょうか』
セントは同じ造りの部屋から案内してくれた。
そして階段へ、ちょっと表情が暗い…
『何か気に病むことでもあるのですか』
私の問いかけに少し俯き円卓の部屋の扉を開ける。
『私は、ここで各国の皆様とお話しするのが怖いのです…』
『怖い…あなたはこの世界の行く先をある程度自由に変えられるのに』
『あの方は私に言いました。「世界で一番自由で、一番不自由な役目をやってもらう」と。自分が自由であることを望み、人の自由を奪うことが出来るようになった。どうすればいいのかまだ分からないのです』
悩み…こんな考えの人間が世界を左右する…
付け込む隙があるのはいいことだけれど、それは他の国から見ても同じ。
『あなたは分からないと言うけれど、時間は待ってくれないのよ。その時はすぐにくるわ』
不安そうな表情を隠しもしない…隙だらけ。
『セント、私はあなたを微力ならが助けるから。ゆっくり考えて行きましょう』
『はい、私一生懸命頑張ります』
一度戻った方が良さそうね。
『セント、国の者に話をしてくるから一度戻るわね。ここの一部屋を私達の国用にしていいかしら』
『まだ皆さん着てませんから好きなお部屋を選んでください。後から来た人たちにはお話しておきますから』
そう言うと5つの鍵を差し出した。
『鍵の予備はあるかしら、私そそっかしいところがあるから…』
『鍵は1つしか無いんです。当然、私もこの鍵以外で皆さんの部屋に入ることは出来ません』
『そうなの…では十分気をつけないとね。じゃあ一度戻るわ。そうだ、夕飯を一緒に食べましょう、みんなも喜ぶわ。迎えに来るわね』
『お邪魔じゃなければ是非…』
手を振りながら螺旋階段を降りていく。
張り切って準備しないとね、
あの子に『荒野』を好きになってもらわないと…




