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『賢王…』

「平原」のイマジニア前は負傷した者が暗い顔をして苦しそうにしている。

浅い階層以降進むことが出来ず、思ったように進まない現状は兵士達から気力と体力を奪っていった…


そこへ煌びやかな馬車が現れる。


誰もその馬車に見向きもしない…疲れ果てた者達に終わっている王の存在など何の意味があるのか。



『ナセキ様、やはりあの階層を越えることができません』


ナセキはその年でこの国屈指の実力を持っている。そしてイマジニア攻略を指揮しているのはナセキだ。


『心配するな。王が戻られた…』


兵士達は思った、今更何ができるのか。あんな者にと…



『ううわっ、何だ、なんだこれは』

負傷者の傷がみるみる癒えてくる、誰もが驚きの声をあげる。


『皆、無事か。時間が無い私に力を貸してくれ。頼むお願いだ』


その姿は異様…


肉を食いちぎり、口の横から飲み物を垂らし、その巨大な身体から溢れる光は負傷者の傷を治し、そんな姿で頭を下げている…



『ナセキ、作戦と指示は任せる』

短く指示を出し、キチィは飲み食いを続けながら負傷者の傷を治し続ける。

その体は膨張と収縮をくり返していた。



『王を先頭に奥へ入る。私を含む精鋭に続け、各階層を制圧しながら進んでいく。王に続け』


1人、また1人身体の調子を確かめるように兵士達は立ち上がる。



そして王の咆哮を合図に「平原」の本格的なイマジニア攻略、いや蹂躙が始まった。


その時の兵士達は後に語る。

我らの優しき賢王は光り輝く神の獣のようであったと。






魔王さんは、ヘルさんと熱い口づけを交わしている…人は慣れるものなのだろう、その光景を普通のこととして受け入れている自分がいる…


『』

『お前の香りがしない空間は虚無だよ。なるべく早く戻るから…』


そうしてまた口づけを交わす…



私にできることは無い。暫らく待つ…





『それじゃあ行ってくるから』

『』


『ついて来い』

さっきまでの甘い空気は消え去り、人々に恐れられる魔王といった雰囲気を纏っている。



黒い闇が口を開ける。そのまま躊躇無く進む背中についていく。




『何も無いですけど…』

『チッ…』


舌打ちした、今不機嫌最高潮で舌打ちした。


魔王さんは手をかざし、地面が揺れる…下から何かがせり上がってくる。家…砦…町…城…

眼下に広がる空間に思ったより驚いていないことに驚く。


きっとなんでもありなのだ、この魔王さんはそういうモノなのだ。


『こっちだ…』

かなり高い屋根のうえの私にどうしろと言うのか…

『チッ』

また舌打ちした、本当にヘルさんがいないと機嫌が悪い気がする。

私をひょいと片手で持ち上げて一番上の窓から最上階に入る。


色々なものが浮いている。

説明は要らない、ヘルさんに今まで習った知識で内容は解る…

壁の丸いのはそれぞれの国の資産価値を示していて、その下にある棒は資源別の保有量…だと思う。

その他、この部屋の壁には色々な色や光でこの世界の状態を表している。


チラッと魔王さんを見る。思ったとおり説明する気はない様子。


部屋の中央の階段に進み、あごで私を呼ぶ。階段を下りて小さな扉を開けて出る。

五国会議で見たような円卓と椅子が6脚。


『今通ってきた部屋へはお前以外は入れないようになっている。ここは別だ』


この円卓を私は怖いと感じていた。



『後は好きに見て回るといい。ここはお前のモノだ。明後日には各国から人が集まるだろう。それまで生きるに十分な物はさっきの部屋に置いておく』


黒い闇が口を開ける、その中へ消えて行こうとする背中に


『待って下さい…』

『お前は自由だ…』


私の声に振り向かず、片手を上げて闇に消えていった魔王さん。


そして円卓には先ほどまでは無かった一冊の厚い本が置かれていた…






『お前達は、なんで皆イマジニアに潜っているのかねぇ』

『魔王、貴方が意味無くこんなものを創ると考える人はいないでしょう』


『まあ、いいや。この瞬間5人同時にこれを渡しておく。今後の取説みたいなものだ。信じるも信じないも自由。どう考えるかも自由。じゃあな』


闇に消えていく魔王の背中…そろそろ次の準備かしら…


『一度上に戻ります。無理ない範囲で進めてください』


足早に上へ向かう。きっとホルダーは同じ動きをしているのでしょうね…




久しぶりの外は気持ちがいい…さてと。


『ユーロと源爺を私の部屋に呼んでください』


私の部屋の奥にある個人浴槽に浸かりながら2人を待つ…


『やっぱり、湯はいいわね』


『それは何より。おかえり』

『ユーロ、話しがあるから入るのは後にしてもらえるかしら』


腰の帯を外し一気に脱ごうとしているユーロを止める。

『残念…』

『源爺は』

『お風呂に入っているから部屋の外にいるって…湯に浸かりながら話す』

『駄目よ。すぐに出るから源爺を部屋に入れて頂戴な』


帯を直しながら浴室を出て行くユーロを見ながら私も薄い着物を羽織って服装を整えていく。



『エン様、無事のお戻りこの源爺心よりお喜びを…』

『話しってなに。早く終わらせて…湯に入る…』


源爺は渋い顔で頭を抱えている。ユーロに手を焼いているようですね。


『魔王が、各国にこれを配ったそうなのよ』

源爺が手に取り中を少し見ると静かに元の位置に戻した。


『数字や文字がたくさんで頭が痛くなりそうですぞ』

ユーロは興味無さ気に分厚い本を手にとって静かに紙をぺらぺらめくりだす。




『内容は理解した…私は中央へ行く』

『そう…お願いね』

『ん』


ユーロは1人で出て行った。


『代表がそんな簡単に…』

『この先の展開はあの娘の頭の中にある程度みえているのでしょう。一時的に代表に戻ります。中央にはここの代表よりも重要な何かがあるはずですから』


やさしくほほえむエンとは対照的に源爺はこの展開に頭を混乱させていた。






エンが魔王から本を受け取った同時刻。




『お前達は、なんで皆イマジニアに潜っているのかねぇ』

『魔王、私は今忙しい。要件は手短にお願いしたい』

『そっか。この本読んどきな。今後の取説みたいなものだ』

『ナセキ、お前が持っておいてくれ』

『はい、お父様…』


魔王がナセキに渡すのを渋っているようにみえた…時間が無いというのに。

魔王から本を受け取り、ナセキに渡す。


『すまないが魔王。私には時間が無いのだ…』

『悪かったな』


そういい残し魔王は暗い闇に消えていった。


他国との差はイマジニア以外でも大きくなっているはずだ、ここを攻略しながら国内の情報を聞くに動き出しは他より40日は遅い…すべて私の責任だ。

せめてもの救いはナセキが周囲に働きかけ遅蒔きながら国を動かしていたことだ。


セントは無事だが、残念ながら王の器ではない。それに魔王はあの子に自由を与える…

ならば、後はこの国の民のことだけ。


『ナセキ、すぐにその本の中身を読むのだ』

『供の兵士も数が少ない状況…』

『今ならば、私一人でも十分。今後の国の舵取りにきっと関わってくる、急げ…』


皮は弛み。


食べても肉が戻ることも無くなった。


消耗が激しすぎる、身体の中が鈍い痛みを絶えず与えてくる…目が覚めてちょうどよいわ…


このイマジニアとやらは一定期間で格段に格の違うモノがでてくる。

始めに壁になっていたのもそれが原因だ。

ホルダーでなければ、多大な犠牲を払う必要があるだろう。


一度完全に制圧してしまえば、異形の者の発生は強さ、数ともに減るようだ。


他のホルダーは皆、その壁になるモノの相手をしているのだろうな。



『お父様…今後世界は1つの町に調整を委ねられるようです…』


『なんだと』

目の前の壁ごと異形のモノをなぎ払う…


『通貨の流れ、物資の流れを見守り、各国のバランスをとりながら調整を行う町が作られたそうです。各国から代表を送り協議することと、細かなところはまだ読み込みが必要ですが…』


なるほど…


『ここから獲られるモノはきっとそこでも必要となるのであろうな。ナセキ、お前はすぐに上に上がり次に備えよ』

『いえ、私はお父様がなんと言われてもお供いたします』

『ならん、お前は国を背負う者…』

『セント姉様を支えるのが私の役目。お前達は中央の町の位置と行く準備をしてくれ』


兵士達は戸惑いながらも上へ引き上げていった。


2人で攻略を進める…言葉は無い…



時は過ぎる。




『そろそろ時間か…』

壁となるモノを打ち倒し、広いドーム状の位置でその時を迎える。


『お父様、魔王は本当に来るのでしょうか』

『来る。間違いなくな。あれはそういうモノだ』


不思議な気持ちだ、後悔ばかりだが久しく忘れていた感覚だ…


『ナセキ、ホルダーの力が無くなれば私の体は持たぬかも知れない』




『随分と姿が変わったな…時間だ』

魔王は私に声をかけると散歩でもするかのように気軽に近づき、荒い息をしている私の頭に手を置き、そして離す…


『内臓だけはサービスでやっといた。じゃあな』

それだけ言うと魔王はまた闇へ消えていった…動けないが体内の痛みは随分と軽くなった…あんな簡単にホルダーの力が消えるのか…



ぐっ…腹から剣が生える…


『お父様、ありがとうございました。賢王としてゆっくりお休みください』


ナセキ、何を…いや、これは当然の報い。私には相応しい最後ではないか…

折角魔王が直してくれたが、無駄になってしまったな…やはりあれとは合わんのだな。


『ナセキ…そうだな、ゆっくり休むとしよう。こんな男にはなるなよ』


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