03-魔法少年とお約束
「きゃー助けてー!」
「命が惜しければそれ以外おいていきなー!ひゃっはー!」
「その種籾は儂らの村の最後の希望なんじゃー!」
「ええとなにこれこの状況?」
前回からの引きです。ええ、開幕時に前回ラストの繰り返しは基本ですよね?バンク?なんですかそれ?ちゃんと追加しているからセーフです。
「モヒカン山賊が、貧しい農村の娘さんとそのお爺さんを襲っている?のかなぁ」パタンと降り立った外国製の赤いてんとう虫の様な車の扉を締めながら、さすがに首をかしげる少年のおかーさん。
「ここは日本ですよね、しかも人気がないといっても一応国道?だったはず?」同じく助手席から降りてくるゆーき少年。幸いというかなんというか、少し距離のあるところで、気がついて、止めているので、相手はまだ気がついていない状況です。
「というか、襲われている娘さん、モンゴロイドに見えないね?」
ちょっと美人なタイプで金髪、胸もこう大きめだし、着衣は田舎っぽいけどちょっと着崩れてセクシー?あー、服装も、縫製とかそいういうのも手造り感が溢れる、荒い感じですね。
「あーまあ、そんな感じ、とりあえず、魔法少女の出番かな?ちょっとツッコんできてよ」もしかすると199x年に降り立つ筋肉質な救世主のレジェンド的な展開かも?と内心思うおかーさんです。
……実に数十年前の古典ですね。
「だから僕は男の子です。どうして、僕が?」
「だって、なんだか、助け待ちというか、明らかに”正義のヒーロ”が登場するようにお膳立てされているし、ちょっとほっとけないような気がしない?」展開が痛々しいから。ぼそりと呟くおかーさんです。
「変身するのは恥ずかしいのだけど?」
「さんざん夢の中ではやってたでしょうに?」
「……それもそうか……夢の中では、なんか見慣れた光景ではあるんだよね。じゃあ……『武装解放転身無双愛神顕現』」と、呟いて、魔法少女の変身バンクは、省略して、コスチューム変化。
アスファルトの上で、逃げる時に、足をもつれさせたのか、倒れているお爺さんを必死に守るように、しかし腰砕けでかばう、年の頃はハイティーンくらいの少女(結構綺麗な、いわゆるヒロイン枠?)。それにいまにも襲いかかろうとする、モヒカンの山賊達。肩パットのトゲトゲに肉体を誇示しているのか、革ジャンを肌の上にそのまま羽織っています。たまに思うのですが、肩パットのトゲトゲとか動くときに頬に刺さりそうなんですが、しかも視界の端にちらちら写るのはうっとうしくないのでしょうか?
ちなみに彼らの武装は釘バットです。なぜに?
それでもそれによる、一撃は身体に悪い影響を与えかねないので、ちょっと早足で(本人感覚ですが、風のようなステップです)、ゆーき少年は間合いを詰めて、一人の山賊の前に移動します。で、ちょっと、視線をあわせて。
「こんなの振り回したら、あぶないでしょ?」ちょっと、微笑みます。ええ、瞬間、モヒカンの山賊はなんだか顔が真っ赤になります。でその、釘バットにちょっと指で一撃を加えるユーキ少年です
「は?」その一撃で粉々に崩れ落ちた釘バット、そのバットを確かに持っていたよなと、確認する間の抜けた表情の山賊さんです。
ゆーき少年はおなじように、しゅっ(間合いを詰めるステップ)と、にっこり、ちょん、ぼろぼろ(釘バットが崩れる音です)、で人数分の山賊その武器を、塵にしていきます。
「こんなことしたらダメですよ?」そのまま自然な足取りで、娘さんとお爺さんの側に立ち戻るゆーき少年です。
ポーとその姿に目を奪われている山賊ですが、なんとか立て直して、身構えます。
「……よく考えたら、さらに、後のお楽しみがいがありそうな獲物が増えただけじゃねーか」ひゃっはーと笑う口調が、ちょっとぎこちないのは、得体の知れない相手に尻込みしているからでしょうか。しかしそれにめげなく、下心満載で立ち向かうのは、さすが、下衆な雑魚根性の持ち主です。がんばって襲ってみて下さい。
「ええと?うん?なんだか意味がよく解らないけどまあいいや、よいしょ」どこらかとも無く取り出したピン色の大砲を両手で構えて、ためも無く、放ちます。
……もう少し、山賊さんたちに、見せ場をつくってあげたかったかな?
「”かいしんのいちげき”!」間の抜けた破裂音とこれまたピンク色の爆発、煙がおこり、モヒカンの山賊たちがまとめて吹き飛ばされます。
そしてアスファルトに倒れ伏す山賊さんたちが量産されます。ぴくぴくと痙攣しているのでお亡くなりにはなっていないようです。
「だいじょうぶだよ、目が覚めたら”いい人”になっているからね」にっこり笑う笑顔が綺麗です。なにこれこの子。この美少年の感性も大概怖い気がしますよ。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」金髪美人の村娘さんから、丁寧なお礼を頂きました。きらきらと輝く笑顔、そして少年の姿を見て、頬をそめていきます。
「本当に助かったのじゃ、おぬしはわしらの命の恩人じゃ、あいにくお礼にするようなものは何もないのじゃが……。そうざ、この孫のリンダはわしが言うのもなんじゃが、器量よしの良い娘じゃ、よければ……その、じゃな」そのまま、お礼に娘を差し出そうとするお爺さんが、ゆーき君を見て、はて、女の子だったら、お礼にならないかの?と小さく呟きます。
「……いりませんってば、もらっても困ります。というか、この状況を説明してください」ちょっと戸惑いながら、言うゆーき少年です。
「もらえるものはもらっていけば?減るもんでもないようだし」余計な助言をするのはおかーさんです。金髪オネーさんと、美少年の絡み、定番だけど構図資料としてはなかなか?とか思っている、作品のクオリティを上げるに対して貪欲なクリエーターです(ちょっとエッチな漫画を描いています)。
「だから僕、人なんかもらっても、飼えないし困るんですってば」ちょっと涙目の少年さんです。……言動がちょっとあれなのは、狼狽しているからですよね?
***
「今年、わしらの村は作物の出来が悪くての……次に植えるものの種籾にも困るありさまで」
「どこの世界の話!」盛大に丁寧に突っ込む少年です。
古典的な核戦争後のお話ですかね?
「苦労して、遠方の親族を頼って、これを手に入れたのじゃが、村に帰る途中で運悪く山賊に遭遇しての……」
「えーと?」そのままツッコミを無視して話を続ける老人です。
山賊の存在やら、貧しい農村やら、さらには、日本人離れした容姿やら、不自然きわまりない状況になんら疑問を持っていない老人たちの様子に、怖いものを感じる少年です。
ひと通り話して、丁寧にお礼の言葉をかけて、道を進んで離れようとしたあたりで、村娘と老人のすがたが、こう、画像の2重写しのような感じでぶれていきます。
同時に倒れ伏していた山賊さんの面々も同じように2重写しになって、ゆらゆらと起き上がり、道の脇、駐車スペースに置いてあった複数のバイクの側に立ちます。村娘とお爺さんは、姿が山菜採りに山に訪れたちょっと元気なお爺さんと、小学校高学年くらいのお孫さんに姿が変わり、道の端に仲良く立っています。
山賊さん達は、ツーリング途中のバイカーに成り代わっていて、ちょっと山道で休憩中といった体です。彼らの見た目の変化が、完了すると同時に、それぞれの人物から、一枚づつ手のひらより小さいくらいの大きさのカードが飛び出し、ゆーき君の手元に吸い込まれるようにおさまります。
魔法少年が、ちょっと、手元に来た、カードにビックリしていると、バイク乗りの一人の男の人、結構朴訥そうな青年風の方が、ユーキ君達に声をかけてきます。
「どうしたの?車、何かトラブル……」ゆーき君に視線を向けて、尋ねた瞬間、その朴訥な青年は雷に打たれたように、全身を震わせ、言葉に詰まります。
ゆーき少年は、?と首をかしげて見返します、その様子を見た青年の顔か真っ赤にそまり、そして、とっさに目を背けてしまいます。
「?あっ」そしてゆーき少年は自分の姿を思い出します。全身は薄いピンク色の半透明帯?のうようなもので覆われているけれども、透過素材の半ズボンをはいて、白く細い手足は露出しています。しかも、際どいあたりの直前までしか、隠されていないちょっと(かなり?)セクシーな姿であることを思い出して、とっさに体をひねって、手で胸とかを隠そうとします。さらに、恥ずかしさで、ほんのり赤くなった頬やら、白い肌やらが、少年が華奢な体をひねったことで、その扇情的な衣装から、ちらりと、見え隠れする、という、その筋の人にとっては……いえ、のんけ、と呼ばれる一般人にとっても、自然に顔を赤らめて、けれども、その凶悪な破壊力的な外見によって、視線が外し難い立ち姿となってしまっていて、もう、辛抱たまらんのですよこれが(よだれ!よだれ!)。
……失礼、若干取り乱しました。
「大丈夫ですよ、ちょっと虫がフロントガラスにまとわりついたので、取っていただけです」大人の笑顔で、対応するおかーさんです。最初に声をかけた朴訥青年は、少年の姿を盗み見て、さらにふるふると震えて、立ち尽くしています。
「……そうなんですか、いやあ、よい天気ですね。ツーリングには最適です、ところでどちらまでですか?」大丈夫かよとその青年を横目で見つつ、軽い感じの銀髪(染めているよう)青年が話をつなげます。
「ちょっとドライブに。これから帰るところですの」にっこりと笑いながら。
「そうですかー、ではお気をつけて……」
「将来の結婚を前提でお付き合いしてください!」その、社交辞令をさえぎるように、深い夏の山道(狭いけど国道)に響く朴訥青年の声です。何を言っているのかこれは。
「ひっ!」かわいい悲鳴ですねゆーき少年。そして少年に、近づいてきた朴訥青年の表情は真剣です。
「あらあら、ゆーき君もてもてー。でも最初の恋人は女の子のほうがいいんじゃないかな?」おもしろそうな笑顔のおかーさんです。
「もしかして……男の子さんですか?」今度はツーリング仲間の一人、女の方が話しかけます。ちょっと若干、頬が赤いですが。なにこれかわいいとかいう感じの視線を魔法少女に向けています。
「そのようだよ、でも、相手が女の子でもいきなりそれ(告白)はないわー」銀髪ちゃらおがおどけていいます。でもかわいい子だよなーとは思っているようです。
朴訥青年は相手が男の子であったことにショックを感じて、立ち尽くしています。しかし、真実の愛の前には性別なんて関係ない……むしろ同性のほうが純粋な愛を確かめられるかも?と真剣な表情で呟き初めてしまいます。
おいしっかりしろと、周囲の仲間が声をかけつつ、ごめんなさいね、この人いつもはもっと冷静な人なんですが……と、親子に微妙にフォローをいれている年配のひげ面親父さんです。
「じゃあ、失礼しますね」まだ固まっているゆーくんを助手席に誘導して、自身も運転席に乗って、十数人からなるツーリング中の一団から離れる親子でありました。
***
一方その時、村人親子から、山菜積みのお爺さんと小学生くらいの孫娘に戻った?彼らは、何をしていたかというと。
「おじーちゃんどうしよう?」ちょっと呆然としながら話しかけます。
「どうしたのか?」
「きれいな男の子が、真面目そうな大人の男の人に告白されてた」
「……まあ、恋愛は結構自由じゃがなぁ」
「なにかドキドキした……」
そっちの方向には腐った森しかないんじゃないかのう……孫娘が思わぬ方向へと進みかけているのをみて、心臓に悪いと、呟き、遠い目をする、けっこうサブカルに詳しいおじーさんでした。
***
さて、出会う人々の恋愛事情やら、趣味趣向やらを、結構な確率で正しく曲げてしまっている魔法少女の未来やいかに?!
「知らないよ!」車の中でちょっと切れ気味に突っ込んでいる少年と、けらけらと笑っているおかーさん。山道を走る赤いてんとう虫の車が、画面奥へと進んでいきます。
といった絵で、次回へと続きます。
「そういえば、このカードなんなんでしょうね?」ちょっと涙目の少年が村娘達さんから飛んで来たカードを見つめます。
「村娘、その祖父、それを襲う山賊、シチュエーションは”愛で空が落ちてくる”といったところだけど……でも、元の姿?に戻ったら覚えていないみたい。これは、なんなのかな~?」おかーさんも思案顔です。
そのような疑問もひっくるめて、次回へと続きます。