無双
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『d@t@ b@nk>データ、データ、データ、取らなきゃ取らなきゃ取らなきゃ』
激戦地となりつつある中央にいながらd@t@ b@nkは足を止めて、トロオドンとウンディーネの遺伝子を組み合わせたトロオディーネを操作して、周囲を見渡すことに集中する。d@t@ b@nkはディノゲノムリローデッドのディノトレーナーだった。
ディノトレーナーは恐竜と魔物の遺伝子によって生まれてくるディノモンスターを操って、ディノマスターを目指すモンスター育成型RPGのPCだ。特徴としてはいわゆるtxtファイルと呼ばれるものを読み込ませることでランダムにディノモンスターが生成されるため、かつて挫折してそのままの小説や設定をtxtファイルとして眠らせていた場合、それを瞬時にディノモンスターとして誕生させることができた。同じ文字の羅列ばかりのtxtファイルは誕生させても弱いという対策があるため、10000字書いたが公開しなかった、というような物語が書き込まれているtxtファイルのほうが強い傾向にあった。
そんなディノゲノムリローデッドのトロオディーネは地中に潜りながら周囲を探索する能力がある。その能力を使って、d@t@ b@nkは戦うのではなく、今後のために調査を始めていた。
この世界の情報は高い。何人ものPCが挑戦し敗れ未だ攻略できてない世界の一端に、召喚されたとはいえ関わっているのだ。
すぐに戦闘になったためPCたちは城の外を見ることはできない。もし外が見れたなら、その映像が取れたなら――高く売れる。
そんな打算があった。勝てばもちろん転生できるのだろうが、その確率がだんだん低くなっていくのも分かる。
だから自分だけでも得する方向にd@t@ b@nkは切り替えた。
こう見えても、頭だけは良いんだ――ほくそ笑んだ瞬間だった。
『Shr@vaka>直立不動、微動だ、無防備なのは良くないっぽいらしいな』
乱レ咲ク花ハ何処のメモドの姿をしたShr@vakaのツルウメモドキの蔓の腕が遠くからd@t@ b@nkを貫いていた。
リアンのとムジカの護衛をネイレスに任せて前線へと出てきていたShr@vakaが手始めにと、何もしていないように見えたd@t@ b@nkに狙いを定めていたのだ。
こうしてd@t@ b@nkの打算は知らぬ間に打ち砕かれた。
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『Mr.dribbler>抜くのか、抜かんのか、どっちなんだいっ!』
アルを目の前にしてMr.dribblerが問いかける。
アルの初回突入特典〔伝家の宝刀〕の存在感を前に、Mr.dribblerは気を抜けない。
『Mr.dribbler>でもどうせ抜かない』
『Megrez Literature>と彼は申してまして』
ふたりして軽口を叩いているようにも見えるが警戒は解けない。万が一抜くかもしれない、抜かれて当たれば確実に死ぬという緊張感がずっと付きまとっていた。
初回突入特典〔伝家の宝刀〕はもうそれだけで存在している意味がある。
抜かれたとしても避けられるという距離を計算に入れながら、確実に強者であるアルにも意識を割かなければならない。
本当はアルに100の意識を割きたいところだが、初回突入特典〔伝家の宝刀〕が邪魔をする。
20の意識を初回突入特典〔伝家の宝刀〕への警戒に使って残り80の意識をアルへと向ける。
アルへと意識を全集中させたいのに、〔伝家の宝刀〕がその意識を散らす。
Mr.dribblerもMegrez Literatureもある程度の時間をかけて自分の姿を育てているからそれを無駄にできないという思いが無謀になることを躊躇わせる。
抜くかもしれないという意識がずっと頭にしこりとして残る。
アルが透明の柄に何度か触る素振りをしているの見かけるたびに警戒心は少しずつ増していく。おそらくアルも分かってやっているのだろう。
実際、終極迷宮ではかつての初回突入特典〔伝家の宝刀〕所有者が抜いた記録も残っているらしい。
一度遭遇したNPCの特典は多くのPCが把握している。むしろそういう初回突入特典〔伝家の宝刀〕の知識を持っているPCのほうが抜かれたらやばい。当たれば死ぬ、とより警戒心を高めてしまう。
『Mr.dribbler>いや、やっぱ抜く』
アルの前進にびびって、Mr.dribblerは後退。
『Megrez Literature>これは厄介なことになってきたな、と僕は申してまして』
アルに80の意識、〔伝家の宝刀〕に20の意識だけで良かった現状が一変。
アルが攻めに転じたのは援軍によるドスコイソーサラー拳握の敗北と、Shr@vakaとB0DH1・5ATTAの増援が大きい。
ふたりの増援によって、アルに割いていた80の意識とさらに分割して、割かなければならない。
『Megrez Literature>あー、やだやだ、同じレクハの姿同士戦うのはやめないかい、と僕は申してまして』
『B0DH1・5ATTA>{無理}だなあ』
Megrez Literatureの提案をB0DH1・5ATTAは一蹴する。
乱レ咲ク花ハ何処――のカナタナのみを取り出した通称レクハの姿は頭に花を咲かせ、左右の腕にも花を咲かせている。腕は蔓であれば伸ばすことも可能で、さらには左右の腕の花を付け替えてカスタマイズすることが可能だが、同種の花であれば能力上昇ボーナスが見込めるため、同種の花でまとめていることが多い。
Mr.dribblerとMegrez Literatureはンデビという名前の姿で、頭と左右の腕にはマンデビラが咲いていた。
B0DH1・5ATTAのツボカの姿はウツボカヅラ。Shr@vakaのメモドの姿はツルウメモドキが咲いている。
レクハは一騎当千の爽快アクションのため、速度寄り、力寄りなどわずかに能力差はあれど、基本的に技量と必殺技で敵を倒す時間を競うのが主で対人戦闘は想定されてはいない。
それでも一騎当千の爽快アクションという種類のため、範囲技も多く、小回りも意外と利くため、数が少なくなりつつあるPCのなかでも生き残りが多い。
B0DH1・5ATTAとMegrez Literatureがお互いの腕で打ちあって、Mr.dribblerはShr@vakaと突撃。
Shr@vakaは先ほどのd@t@ b@nkへと必殺技を撃っているので、まだ装填には時間がかかるうえに、メモドの必殺技は遠距離のために近づかれると範囲外。それを知っていてMr.dribblerは突撃を選択していた。メモドにも近距離攻撃はあるが、ンデビよりは少なめ。逆にンデビは遠距離攻撃が少ないためにアルに近づく手段がなかなかなかったとも言える。
『Mr.dribbler>おらおらっ。攻撃すんのか、せんのか、どっちなんだいっ!』
防御一辺倒のShr@vakaへと怒鳴るMr.dribbler。少し強気だ。
『Shr@vaka>役目、役割、任務はもう終わってるっぽいらしい』
しばらく防御を続けていると、横から大きく口を開けたツボカの右腕が飛んでくる。
『Mr.dribbler>俺狙いなんかーい!』
攻撃に夢中でShr@vakaに全集中してしまっていたMr.dribblerはB0DH1・5ATTAへの警戒を忘れてしまっていた。
ウツボカヅラの右腕が肥大化し、周囲の敵を飲みこみ消化、それにより体力回復もするというツボカの必殺技をB0DH1・5ATTAはMegrez Literatureと戦いながらMr.dribblerに繰り出していた。
『B0DH1・5ATTA>{意外}と{器用}なんだよ』
『Megrez Literature>必殺技をそっちに使っていいの、と僕は疑問を申してまして』
ツボカの右腕がMr.dribblerが飲みこみ縮小し終わるまではB0DH1・5ATTAの右腕は使用不可能。そして近距離攻撃が豊富なメモドの必殺技を避けられはしない、とMegrez Literatureは判断。溜めていた必殺技ゲージを全部消費して、B0DH1・5ATTAへマンデビラの両腕をぶち込む。蔓が幾重にも伸びてそこから発火。無数の炎拳と化して強襲。
『B0DH1・5ATTA>ボクっちゃがキミっちゃに{必殺技}を{使}う{必要}はないよ』
炎拳が届く前にMegrez Literatureの疑問にそう答える。
意識はどれぐらい割いていたか。初めは80。今はいくつだったか。
無意識に意識が割く割合は変わっていなかったか。
Megrez Literatureはそう自問する。一度発動した必殺技は止めれない。
B0DH1・5ATTAが乱レ咲ク花ハ何処をプレイしていると知った時、Megrez Literatureは意識した。そして自分のほうが強いと思い知らせてやろうと勝手に思った。
敵対して、その思いが強くなっていた。だから意識配分を間違えた。注意すべきは当たり前に最初から――
「【新月流・――」
アルが放つのは、伝承者として最初に生み出した親友の名を刻んだ刀を使う剣技――
「――壊軌月蝕】」
Megrez Literatureを超絶な斬撃で斬り抜き、B0DH1・5ATTAに炎拳が届く直前に胴体を切断して、
『Megrez Literature>そっちが必殺技使うのかよ、と僕は申してまして……』
その後跳躍から屠殺刀を振り下ろし縦断。頭の花弁が舞い散り、消滅する。
その威力に周囲のPCが気後れし、何人かは腰を抜かした。




