屋敷
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「じゃ、見張りは頼んだよ。シッタ」
「おうよ。ってオレ見張りかよっ!!」
「……正直キミひとりじゃ見張りですら心許ない」
「そこはあんたも残るってことで解決じゃない?」
「……ですね。シッタもひとりじゃ嫌でしょう」
「おうよ。ってそんなわけあるかいっ! まあお前が居てくれたら……その、助かるが……」
「というわけで見張りはシッタと私にお任せです」
酷い話かもだけれど、シッタをここにつれてきた時点でそのつもりだった。
シッタがついてくるのを拒んでいたらその役目をコジロウに任せるしかなかった。
それだと大幅な戦力低下。シッタもそこそこ強いと思うけれどコジロウよりも連携ができるとは思えない。
それに忍士のシッタなら、オジャマーロの逃亡を見逃すなんてことはないはず。
「ジネーゼとリーネはシュキアの弟さんを救出して。何の毒か見極めて、リーネでも治せそうだったら治して欲しい。報酬は弾むよ」
「報酬なんて別に期待してないけど」
「そっか。まあそれは追々相談ってことで」
「それよりもレシュリーたちはどうする気じゃん?」
「どうもこうも何度も言ってる。救うんだよ」
いろんな意味を含んだ言葉を僕は紡いだ。
救うのはシュキアだけじゃない。オジャマーロに捕まっている弟さん他大勢を救う手立ても考えてあった。
救う。言葉を噛締めて僕はオジャマーロの屋敷へと侵入した。
扉を開けると待ち構えていたのは、シュキアだった。
長二叉捕縛棒を構え臨戦態勢。
「シュキア……」
目がつりあがり、怒りを露にするシュキアの唇から飛び出した言葉は当然、怒り。
「あんたたちのせいでっ、あちきの弟は助からないっ!」
それでも僕は言っていた。
「助かるよ。これから助けるんだ」
「信じれないっ。それは世迷言さっ。そうやって言うやつほど、あちきを裏切ってきた。オジャマーロもそうだ」
「のわりには裏切られた人間に従っているんだね」
「黙れっ! そうしなきゃ弟は返ってこないんだっ」
「そうしても弟さんは返ってこないよ。一度裏切った人間をまた信じている人間ほど、僕は騙しやすいと思うけど?」
「うるさい、黙れっ、黙れっ! だったらどうすればいいんだよっ……」
シュキアは言いながら、涙を零していた。
「一回だけ、僕を信じて欲しい。僕はまだ、キミを裏切ってないよね? 確かにキミの思惑通りには動いてない。だけど、弟さんを助けるって言葉をまだ嘘にはしていない。嘘にしない!」
「あちきはたくさん騙されてきたっ。だからそんな言葉は信用できないっ」
シュキアは言う。そう言うのも無理もない。
オジャマーロを信じて、何度も出来レースに加担して、けれども弟は解放されない。けれどいつか解放される、そう信じて何度も手伝ってきた。
そのたびに裏切られてきたのだ。
けど、そんなやつもう信じる価値なんてない。だからシュキアも分かっているんだろう。
逡巡がシュキアの攻撃の手を止めている。
「けどっ、もし本当に弟が助かるのなら、もうこれ以上は邪魔はしないよっ……」
僕の言葉を信じてくれたのかは分からない。けれどシュキアが長二叉捕縛棒を【収納】して道を譲ってくれた。
「そっか。まあそれだけでもありがたいよ。ところで弟さんがどこにいるか分かる?」
「知っているに決まっているさっ」
涙を拭って、シュキアは言う。
「ならジネーゼとリーネを案内して欲しい。これでいちいち探す手間が省けるよ」
「分かったっ。さっ、こっちだよっ」
「ジネーゼ、リーネ。頼んだよ」
「分かったじゃん。とりあえずいろいろやってみるけど、ジブンの手に負えないようなら悔しいけど連絡するじゃん」
「とりあえず私も試してみる……あんたのためじゃないけど」
「よろしく頼んだよ」
僕は力強く頷いた。
「問題はひとつ解決ね」
「だね、あとはオジャマーロが逃げてないことを祈ろう」




