猛者
40.
八つ当たり冒険者たちに襲いかかってきたのは赤き炎よりも強く紅の劫火よりも強い、燃え滾る地獄の王炎。
攻撃魔法階級9、10の魔法というのはそれこそ高位の魔法士系複合職ぐらいしか使えないが、それと同程度の炎が彼らの眼前に映し出されていた。
攻撃魔法階級7【憤怒炎帝】。ランク4魔道士シャアナ・ジジ・ヲンヴェが〈炎質〉を持ってして繰り出す、現時点での自身最強の炎魔法。
敵が待ち構えてくれるのならば詠唱時間などいくらでもあった。
そんな猛威がいきなり迫るなど思っても見なかっただろう、アッペッケはその炎に一瞬にして包まれ、ジリヒン、ロシュタインも巻き込まれる。コッケルペセルダが自慢の早口で祝詞を紡ぎ【耐熱壁】を高速展開。ジェロニモは【土人形】を何体も重ねることで壁を作り、その炎から身を守った。
もっとも他の冒険者の被害は甚大だ。おそらくその炎だけで四分の一はやられただろう。
「レシュリーが出てきたぞ」
劫火の後ろから出てきたレシュリーをあざとくも見つけたのは戦闘の技場にも参加していたジャン・スミス。
しかしジャンはレシュリーを一瞬にして見失ってしまう。おそらく転移したのだと気づいたジャンだが、その後ろから現れたモココルとアリーンによって一瞬にして気を失う。
「ビビデ、バビデ……」
逆恨みするビビデ・バビデ・ブーが祝詞の詠唱を始めるも、その詠唱の隙を狙ってアエイウが猛進。長大剣の大振りがビビデの集中力を掻き乱す。
「伸るか反るか、いってみましょうか」
ノルカ・ソルカ、ファンデ・ルージッヒ、ナシグ・イレバー、忍士たる素早い三人はビビデが狙われているのをいいことにアエイウを無視し、レシュリーに加担する冒険者の後方へと侵入する。
後方にいるのはシャアナにミチガ、ヨミガ、ヒックリカ、それにルルルカ、エミリー。ルルルカが卓越した技術で匕首を操り冒険者を翻弄するなか、シャアナと三つ子のエル三兄弟、エミリーが詠唱していた。シャアナの強力な炎魔法に三つ子にの三重風魔法。エミリーの捕縛魔法が決まれば相当の痛手だとノルカは見積もる。
ファンデとナシグに合図を送り、一斉に攻撃を目論むノルカだったが、シャアナたちを守るのはアロンドにモッコス、ミキヨシといった守りのエキスパート。
アロンドの超越した盾操作により攻撃は封じられ、モッコスの巨体が進路を封じる。
間を縫って進軍しようとすればミキヨシが順応してくる。その守りには死角はなかった。
魔法が展開される――ノルカが焦り始めた瞬間、彼の意識は闇へと消えた。
焦るあまり、横から襲いかかるエリマにまったく気づかなかったのだ。ファンデとナシグも同様だ。
「そういや飲んだくれどもがいねぇーよ」
戦いのさなか、パレコがそんなことに気づく。
「あったしが思うにいつものように飲んだくれていると思うよ、ゴンダは」
「やっぱりか。あいつは金より酒。戦いより酒だったな」
セレオーナと他愛のない会話をしながらパレコたちは八つ当たり冒険者どもを翻弄していく。
「だが断るっ!」
ウルクア・ニキサスは『デンジャラス・ベジタブル』リーダー、バイオレットが援護を頼んだところ、一瞬同意しそうになりながらもそう言った。
有り金を全部賭けた出来レースに負けたため無一文のウルクアはタダで援護をするつもりなどなかった。せめて金払えと思った。もっとも『デンジャラス・ベジタブル』も無一文だったが。
ウルキアは八つ当たり上等でレシュリーに加担するひとりの女アルルカに果敢にも挑んでいく。ウルクアはアルルカが見るからに弱いと判断していた。
「どいてくださいっ!」
アルルカはどいてくれれば危害は加えないと言わんばかりの慈悲を込めた声をウルクアに届ける。
しかしウルクアの答えはいつもひとつ。
「だが断るっ!」
その否定によってアルルカが一閃。致命傷ではないながらも深い傷を負ったウルクアはその場に倒れた。
その近く、『デンジャラス・ベジタブル』と対峙したのはセリージュとシメウォン、ヒルデにラインバルト。
ヒルデたちが繰り出す三人の連携攻撃に、セリージュの攻撃が加わると『デンジャラス・ベジタブル』は安全かつ簡単に崩壊した。戦い始めて五分にも満たない出来事だった。
圧倒的な数を誇っていた八つ当たり冒険者軍団だったが、トーナメントでそれなりの戦いを見せた歴戦の猛者にほとんど何もできずに総崩れしていた。
とどめと言わんばかりの【憤怒炎帝】と三重【風膨】はよもや八つ当たりをするどころではなく大勢がその場から逃げ出した。
「ふええーん、何もできませんでしたー!!!」
用意に手間取りすぎたエミリーだけがひとり嘆いた。




