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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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八当

 39


「で具体的にはどうする?」

 闘技場の入口へと向かうさなか、仕切りたがりのシッタが僕に尋ねてくる。

「待ち構えている冒険者を倒すのもそうだけど、オジャマーロは逃げる算段を整えているかもしれないから、早めに屋敷に攻め込む」

「だとしたら二班に分かれるのがベストだな」

 舌なめずりながらシッタが言う。

「キミは本当に仕切りたがりです……」

 呆れるフィスレに相反して、シッタは懲りずに仕切る。

「屋敷には少数精鋭が行くべきだが、どうするんだよ?」

 その様子にフィスレはため息をつき、申し訳ないと僕に目配せしていたが、僕は気にしていなかった。

「とりあえず僕たちはオジャマーロの屋敷に行かせてもらうよ。けどさすがに三人じゃ心許ない」

「じゃ他に誰が行くじゃんよ」

「とりあえずジネーゼは毒に関して知識があるからついてきてほしい」

「お、おぅ。そう言われるなら仕方ないじゃん」

「嬉しいくせに」

「リーネ! 何を言っているのじゃん!!」

「ついでにリーネもついてきてよ」

「なんでわたしが? 割とイヤなんだけど」

 続けてバカなの、死ぬの、と小言が聞こえてきた。

「いや見知った人のほうが動きやすいし」

「ならば俺さまも行こう」

「いやあんたはいいよ」

「うがー! なんでだー!?」

 作戦そっちのけでナンパとかしそうだし、っていうと怒りそうだ。

「その武器がどう見ても少数で動くには邪魔だよ」

「た……確かに……!」

 思わずパレコ他数人が納得していた。

「うがー! くそ、ならばこちらで大暴れしてやる。とくと見ろ!!」

「いや別行動するから見れないし」

「た……確かに……!」

 パレコたちが妙に納得する。

「五人でも心許ないなら俺もついていくぞ!」

 シッタが舌なめずりしながら立候補する。

「キミだけではむしろ迷惑だと思うのですが……」

 冷静なフィスレがそう判断を下す。シッタは雰囲気だけで言うとアクジロウと被るので実力が未だ分からない。

「ま、数合わせにはちょうど良さそうだし。フィスレさんもセットってことでついてきてよ」

「なんだよ、その数合わせって!」

「キミには大して期待できないってことです」

「フィスレまでなんなんだよ、そりゃあ。そりゃあねぇぜ!」

 と言って舌なめずりするシッタ。

「割と事実です」

 そんなフィスレの言葉に場が和む。緊張が解れてちょうど良かった。

「他の人たちは申し訳ありませんが、他の冒険者の足止めをお願いします」

 僕は頭を下げる。

「とんでもねぇよ。頭を上げろよ。オレたちのなかには出来レースを知っていたやつだっているんだよ。あわよくばそれに乗じて合格しようと企んでいたやつらもいたぐらいだよ。お前がそれを潰そうとしているのならそれをせめて手伝わせてくれよ。言っただろう、これは罪滅ぼしだよ」

 パレコが強く宣言して、頭を下げる。

「そだね。あったしらは古参のくせに何もしなかった。あったしらと同様の古参どもはほとんどその出来レースに染まっちまってる。楽に金が稼げるってね。冒険者の本分を忘れたバカどもの目を覚ますのもあったしらの仕事だ」

 続けてセレオーナもそう言ってくれる。

「とはいえ、集まったのはこんだけってのも、癪だな。今回のトーナメントに出ていたやつでも他の奴らはあちら側だ。あわよくば合格し、それが駄目でも金を儲けようって企んでやがったとは。冒険者の風上にもおけねぇ。おれなんかよ、このトーナメントのためにこの盾戦法を編み出したんだぜ」

 そう言うのはアロンドだ。

「とはいえ、この盾戦法、こういう場面でも役に立つからな。後衛たちの守りは任せてな」

 しっしっしとアロンドが笑った。

 歴戦の冒険者たちの言葉が妙に頼もしい。

 やがて闘技場の入口が見えてきた。

 

 ***


 差し込む光を遮るように、闘技場の入口には多くの冒険者たちが待ち構えていた。

 そこにいるのは大抵が有り金を全部失った冒険者と、賭けに負けた一般人たちに雇われた冒険者だった。

 ほとんどが大損した八つ当たりで集まった面子だろう。

 そのなかには『デンジャラスベジタブル』の姿も見える。

 さらにオジャマーロの傘下だと言われている冒険者もいた。それぞれが名の知れた冒険者らしい。

 八重歯をむき出しにするジェロニモ・アックスビークはランク4物操士で【土人形(クレイドール)】を操り、盗賊一味を殲滅させたことがあった。

 繋がり眉毛のランク4弓士ロシュタイン・セモナリーデはかつて十羽の鳥を連続で射抜き、人々を感嘆させたという。

 アッペッケ・ペーというランク4狂戦士の彼はおどけたような動きでかつて屈強な戦士を翻弄した。

 ジリヒン・ヂリビンというランク4剣盗士はかつて盗めない剣はないと噂されていたほどの実力者。

 コッケルペセルダ・アイオイ・ソンボルはランク4賢士で早口言葉が得意なことから詠唱が早く、高速詠唱のコッケルペセルダの異名を持っていた。

 それらは立派な功績だったが、かつての功績と言わざるをえない。今は出来レースの闘技場でお金を溜めるだけのゲスに成り下がっていた。

 それでも彼らはかつての功績を自慢し、かつての功績ゆえにオジャマーロに腕を買われていた。

 だから彼らは今ここにいる。

 オジャマーロの命令のもと、失った賭け金を取り返すために。

 レシュリーたちを見つけた八つ当たり冒険者たちはオジャマーロに雇われている五人を先頭にし、襲いかかる。

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