ペットは家族だけど
「あいつのことどう思う?」
「あいつって?」
「あの新入り」
現在、百祢と十佳と戯れている、というより弄ばれている白毛玉を指差して千那はそう言った。
十佳は犬派であると公言していたものの、猫の名状しがたい魅了の魔力には敵わないようだった。それもそのはずで十佳は女子高生。可愛いものには目がないお年頃なのである。
「別に可愛いなって……」
「違う。ちなたちとの関係の話」
「関係ぃー?」
「そう、関係」
「んーと……どういうこと?」
千那は一息ついた後、姿勢を正した。
「最近、ペットを自分の娘だとか息子だとか勘違いしている輩が大勢いる」
「はぁ。そうかなぁ」
「でもそれは人間のエゴだ。生まれた場所も違ければ、血も繋がっておらず、なんなら種も違う。それで何故自分の子と言える?」
「養子みたいな……?」
「人間同士の話と一緒にするな」
千那のいつもの淡々とした口調は興奮を帯びていた。
「えぇ?」
「ちなは怒っている。ペットは自分の相棒や兄弟姉妹であるべきだ」
「そうなの?」
「そうなの。人間の方が立場が上だなんて烏滸がましい。驕り。傲慢」
「まあみんな千那には言われたくないと思うけど……」
例のごとく自分に不都合なことは耳に入らない千那は続けて、
「で、どう思うんだ?」
「どうって……まあ単なるウチのペットとしか……」
「もっと深いところを聞いている」
一愛の返答は気に入らないようだった。
「じゃあ"ペット"というのは一愛にとってどんな存在なんだ?」
「ペット、ペットかぁ……初めてのペットだし、まだなんとも言えないけど、まあ庇護されるべき存在なんじゃない?」
「庇護?今まで野生で逞しく生きていたやつらをわざわざ人間社会に連れてきて弱体化させ、愛玩動物にしたというのに?それこそエゴだ。訂正を求む」
「えぇー、もう分かんないよー! ペットはペットだもん!」
「浅はかな……」
千那は姉との稚拙な論議に呆れ、落胆するように溜息を吐くと、視線を2人と1匹の方へと戻した。
「じゃあさ! 千那の言う通りサンを1人の姉妹だとしてどう思うのさ」
「平常時も姉妹への感情なんて口で表すことはないだろう」
「人間と猫を一緒にしないでよ」
千那は黙って白毛玉を見つめる。
「……」
その視線に気付いたのか、はたまた気まぐれか、サンは顔をすくっと上げ、辺りを見回すと、
「おろろ?」
百祢のそのひょうきんな声を背に、とてとてと歩き始めた。
そして目的地として設定した場所は──
「……」
2つの沈黙。それは1人と1匹のものだ。
彼女らは見つめ合っていた。サンの沈黙は猫派2人に撫でられ飽き、新たな刺激を求めているということを示すシグナルなのかもしれない。
千那の場合は、先に動いた方が負けだとでも思っているのか、無関心ゆえの態度なのか。どちらにせよ一方が動きを見せない限り、何も発生しそうにない。
「どうするのかな、千那」
「さぁ……」
「というかサンと千那ってなんか似てない?」
「どこが? まさか可愛いところ、なんて言うんじゃないでしょうね。あの小さい身体には無垢の悪意がたっぷり詰め込まれてるんだから」
「いや……なんかアパシーシンドロームみたいなところ?」
数秒経った後、サンは駆け引きに負けたと言っているように「にゃあ」と甘い声で鳴いて、千那の前でうずくまってみせた。
そしてその瞬間、
「あっ」
第一声を出したのは一愛である。
千那は白毛玉へ、ゆるりゆるりと手を伸ばしていた。
そして遂には毛皮へと至った。
「……」
他の3人は静かに動向を伺っている。
「か……」
そう小さく音を発したのはどうやら3人の内ではないらしく、千那の観察への集中力が増す。
視線を前に置いたまま、百祢は横の十佳に言う。
「小さい声だったが、"か"と聞こえたぞ?!もしや、かわいいと言おうとしているのではないか?!」
特に感情を表すことをしない千那にとって、そういった意思表示は記録に残しておく価値のあるほど貴重である。
ただ百祢の問いかけに十佳は何も答えない。先ほどから耳をよく澄ましていた結果かもしれない。
「家臣……お前はこれからちなの家臣」
千那は敗者に向けて、自分への服従を命令、宣言しただけだった。




