告白する時、なんで敬語?(いや、そんなことない)
「ふと思ったんだけどさ」
「うん」
「なんで告白する時って絶対敬語になるんだろ」
「その口ぶりだと常習的に告白しているように聞こえるけど」
「してないけどさ」
通常、想い人へ好意を伝える際、「好きです」と始まり、「付き合ってください」と続く。とフィクションの世界しか知らない2人は考える。
「後輩が先輩にするっていうシチュエーションなら分かるよ? でも普通に同級生同士でもそうじゃない?」
「そうじゃない? と聞かれても私にそういう風潮は分かんないよ。でも1つ分かるのはさ、『好き、付き合って』だと上から目線じゃない?」
「なるほど。下手に出ておいて、隙ができたところを一突きってわけね。流石だよ、我が妹」
「そんなことは言ってない」
「じゃあさ、あたしたちでテンプレを打ち破ろうよ」
「というと?」
「告白のフレーズを新しく考えよう」
「使う場面ないのに?」
「うるさい」
そうして2人は告白について考察を開始した。
しかし一愛が顎に指を置いて考える仕草をしてから数秒後、
「やっぱり、『好きです、付き合ってください』以外なくない?」
「それを言ったらもうおしまいだよ」
固定観念で頭が凝り固まっている姉に呆れを覚えるものの、かといって自分でも良いフレーズが思いつくわけでもなく、というかそもそも恋愛などに微塵も興味がない十佳は脊髄反射的にリアクションをした。
「だって告白する側って願いを聞き入れてもらうでしょ? だから絶対的に立場は下になるわけじゃん」
「当たり前でしょ」
「あ、でもでも」
一愛は何かを思い出したように人差し指をピンと立てて、
「例外として、両想い同士なら敬語にならないよね」
「どういうこと?」
「立場が一緒じゃん。どっちが告白してても成功するだろうし、というかどっちが告白したかなんて誤差みたいなもんじゃん? 時間の問題なの。つまり両想いっていうのはさ、なんだろう……ぱちぱちと弱火で燃えてる薪みたいなもんでさ、酸素が送られると燃え上がるじゃん? そういうことなんだよ。ああ、その酸素っていうのはここで言う告白のことね。刺激が与えられることによって双方のすれ違ってた矢印が重なり合うようになるんだよ」
「バーニングラブってこと?」
「そうそう」
「灰になっちゃったら再燃はできないけどね」
「分かってないね、燃え尽きてから本当の愛が始まるのに」
「経験ないくせによく言うよ……」
当然のごとく十佳にも経験はない。しかし2人を比べた時、心理的あるいは技術的な知識があるのは一愛の方である。ただしラブコメで培ったその乙女な知識は特に使用の機会がないため、形骸化し、脳内で行き場を失くして彷徨っている。
「ねぇ、こんな言葉知ってる?『焼け木杭に火がつく』って」
「ぼっくいなんてひょうきんな言葉初めて聞いた。それ日本語?」
「一度別れたカップルは復縁しやすいって意味なんだよ。ほら木炭ってあるじゃん」
「へー、興味深いね」
「どうでもよさそうなのやめて」
自分に即した事柄ではないため、十佳の感情は全く昂ぶりを見せなかった。
「さて、それで……何の話してたっけ? 木炭……? キャンプ? キャンプ行こうって話?」
「ギャグだよね?」
「……あ、そうそう! 敬語以外の告白のフレーズを考えてるんだった! えっとね……じゃあその場を再現してみよう。したらば何か降りてくるかも! 十佳は男役だから!」
「え? あぁ、うん」
どちらかというと男役は一愛が適任だろうと思いつつ、十佳は渋々引き受けた。
◇◇◇◇◇
「あ……ごめんなさい。急にこんなところに呼び出しちゃって……」
「別にいいよ。で、何? ……って、一姉」
「ねぇ! 折角役に入り込んでたのに引き戻さないでよ。また1から入り直しだよ、もう……」
「そうじゃなくて……最初っから敬語になっちゃってるよ」
一愛は考え込むように、一方十佳は返答を待つように沈黙。
「あぁ、ごめんなさいのとこ?」
まさかこんなことも分からなかったのか、とでも言いたげな嘲笑じみた顔を見せつける。
「あれはね、幼馴染なんだけどなかなか気持ちを伝えられないでいて、やっと呼び出すことには成功したけど迷惑じゃなかったかなって謙虚になってる気弱な眼鏡っ娘を演じてみたわけよ。十佳にゃ分かんないかなー」
「……まず形容が長いよ。というか他の人演じる必要がどこに? 一姉は一姉でいいのでは?」
「いや……あたしじゃあ告白するイメージ掴めないから……」
十佳は大いに納得した。
「次はどうでもいいことで止めないでよ」
一愛は両掌を上に向け、大仰に呆れのポーズを見せる。
こんな茶番に付き合ってやっているのにその態度はなんだ、と十佳は怒りを覚えたが、口に出すとまるで自分が”どうでもいいこと”を”どうでもいいこと”と認めておらず、茶番に熱くなってしまっているようで馬鹿馬鹿しくなり、憚られた。
「続けるよ?」
そう言って長く息を吐き、憂いを纏った瞳を顕現させる。
「どうしてもいいたいことがあって……でも他の人に聞かれちゃイヤで……」
「ほう、それで要件は?」
十佳の告白される側としての態度に落胆したのか、一愛は不満そうな目を向ける。
「あのね……ワタシ、あなたのことが……好き」
「……」
一愛は一瞬呆然とした様子になるが、すぐ自我を取り戻して騒ぎ立てる。
「あっ?! 待って! もしかして告白って『好き』だけでも良いのでは?! 極度の鈍感属性を持ってる人じゃなければ、『好き』だけで自然と『付き合ってほしい』という願望は導かれるんだよ! しかも『好き』の方が距離近い気がするし! ……いや、それはあたしが幼馴染を演じたから?!でも──」
一愛の考察は止まることを知らないような勢いであったので十佳は夕食の準備を始めた。




