初めてのおはぎ
「隣のおばちゃんからおはぎもらったー!」
「「「わーい」」」
隣のおばちゃんは西条家姉妹が小さい頃からの付き合いである。置き薬のおまけの紙風船をもらったり、実家の畑でとれたという野菜や庭に成っている柿をくれたり、いつも色々良くしてくれている。
またおばちゃんは何かと手作りをして、姉妹たちに食べてもらえるのも嬉しいらしく、今回は少し大きめの弁当箱におはぎを詰めて渡してくれたのだった。
「何個あるのだ?!」
「今回はちゃんと4個あるよ」
一愛は箱を開けて3人に披露した。
4姉妹のために作ってくれたものならともかくとして、作りすぎた、貰いすぎたという過剰分というのでくれる場合は、数がちょうど4個ではないという時も少なくない。
それでも渡してくるのは家での争いを知らず、4人を譲り合いのできる仲の良い姉妹だと勘違いしているからこそなのだろう。
「そういえば千那っておはぎ食べたことあるっけ?」
「ない」
千那は餡子が大の好物である。例えば、千那にとってどら焼きは餡子を食べるための円盤でしかないし、たい焼きは餡子を食べるためのランチャームのようなものだ。
ただし千那はあまりにも偏食家であり、ちょっとした食感や匂いで好き嫌いが判断される。エビはプリプリなのが気に食わず、魚卵は口の中でぷちぷちと潰されて1つの生臭い塊になるのが嫌であるらしい。
そういった性分のため、十佳はおはぎを食べることができるのか危惧した。
「しかし餡子で包まれたものというなら美味しいに決まっている」
「美味しいは美味しいんだけど……中にお米入ってるよ?」
「それが?」
「まあいいじゃん!食べてみれば!」
「未知への宣戦は祝福の序曲なのだ!」
「んー、まあ何事も挑戦か」
千那はおはぎを手で掴み、大きな口で半分ほど齧り取った。
「一口大きくない?!」
「そんな驚くこと?千那っていつもちっちゃい蒸しパンとかも一口じゃん」
「そ、そうだけどさ……」
千那が咀嚼していると、姉妹にしか分からないようなうっすらとした恍惚感から、次第にクッキーの缶箱を開けたら裁縫道具が入っていた時のような顔に変化していった。
「あぁ……やっぱり……」
「やっぱりって?」
「どう?美味しい、千那?」
その百祢の質問に答えるために飲み込むと、
「なんか変」
「変ってどういうこと?」
「お米というから餅米をイメージしてた。なのにこれはなんだ」
「うるち米なんだよ」
3人は頭の上にハテナマークを浮かべた。
「普通に白いご飯とかに使われてるお米」
「そんなのおにぎりを圧縮しただけの塊に餡子を塗っただけじゃないか」
「その言い方はどうかと思うけど……」
千那はおはぎとにらめっこを開始した。
「食べるのかな、あと半分」
「千那、隣のおばちゃんには懐いてるから……」
「食べないなら我が……」
するとその瞬間、
「ち、千那?!」
おはぎの周りの餡子だけを前歯で器用に、そして慎重にこそぎ取り始めた。
その姿はまるで業物を作ろうと執念に燃える刀工のようである。
「すごい!どんどんお米だけがあらわになってく!」
「闇に食まれし純白の宝石が今蘇る!」
「そこまでして食べたいかなぁ……」
そうして米だけの部分が残ると、
「ん」
「えっ」
それを百祢に手渡した。
「食べるんだろ」
「あ、いや……」
「いやじゃない。さあ、食え」
「いやあああああ」
千那は、その小さな身体のどこから湧いてくる力なのか4つも年が上の姉に襲いかかり、その口にかつておはぎだったものをねじ込む。
「やめてよ! なんでそんな酷いことするの!」
百祢は涙目になりつつ、姉2人に助けを求めるように視線を向けるが、
「千那は本当に隣のおばちゃん好きだよね」
「折角もらったものだから残さないようにって……健気だね、千那」
「お、おい!」
まるで子犬のじゃれあいを温かい目で見守るようにその場から動こうとはしなかった。




