トランプリベンジ
「トランプをやろう!」
「リベンジってわけ? どーせまたあんたが負けるよ」
「ふっふっふ、そんな傲慢な言葉が吐けるのも今のうち……せいぜい刹那の安寧を楽しむことだ……」
「はぁ?」
不運であるということと顔に出やすいという2つのトランプに向かない性質を併せ持っている百祢だが、今日はなにか特別に自信があるようだった。
「2人でババ抜きは興がないからページワンでどうだろうか」
「ババ抜きだと結局3枚になってジョーカーを巡る心理戦になるだけだもんね」
「うむ!戦略性こそゲームの醍醐味なのだ!」
「まあなんでもいいけどさ、何を賭けるわけ?」
「賭け……実に稚拙な頭だ。これから始まるのは単なる蹂躙。十佳のものを我が一方的に奪取することになるが、汝はそれでも契りを結ぶ愚者なのか?」
「今日なんか中二病の調子がいいね」
「戦いの先に我を待つのは祝宴だけなのだ!」
「そんな自信満々だとなんか怖いんだけど」
「では負けた方は腕立て100回にしよう。運動不足の十佳にはもってこいだろう?」
「あ、それいいね。まあ負ける気はないけど」
その言葉を承諾の意と解釈した百祢は自分のポケットからおもむろにトランプを取り出し、十佳に手渡した。
「混ぜろって?」
「公平を期すために十佳が混ぜるのだ!そして我がカードを配る!この戦い、イカサマはなしだぞ!正々堂々真向勝負なのだ!」
シャッフルをしている間、暇を与えられた視線は自然に百祢の方へと向けられた。
今日はやけにアクセサリーを着けている。首には黒のレースチョーカーに十字架が象られたネックレス。両手も賑やかな様子であり、黒い翼が指を覆う形になっているもの、梵語が刻み込まれた平打ちのもの、磨き上げられたように銀色に光る無刻印の印台型のもの、と多くの指輪が着けられている。
そういったものをどういうところで手に入れるのかと十佳は疑問に思いつつ、百祢の得意げな様子に警戒し、ヒンドゥーシャッフルに加えてマシンガンシャッフルまで行って念入りにトランプを混ぜた。
姉として何が何でも妹に負けることはできない。さらに相手はカードゲーム系最弱の特質を持つ百祢だ。もし負けたとなれば、これまで確立してきた地位が一瞬にして崩れ落ちていってしまう。
「はい、できたよ」
「あとは我が配ってしんぜよう!」
そう言うと百祢はゆっくりと配り始めた。
「……なんか配り方変じゃない?」
「そんなことはないぞ! 我は人間と隔絶された存在!なので十佳が変だと思うのは自然だ!」
「まあ百祢は確かに他の人と違う感じで変だけどさぁ……」
百祢は急に2枚ずつ配ったり、かと思えば1枚に戻ったりと不規則で不自然な配り方をしていた。
「1枚ずつちまちま配るよりこっちの方が早くていいでしょ?」
「まあそうかもしんないけど……」
「よし!これで完了!」
2人は配り終わった6枚の手札に手を伸ばす。
そして表を見た2人の反応は真逆だった。百祢は自分の手札を端から宝物でも見るかのような目で眺めているが、一方の十佳は唖然として固まってしまっている。
「イカサマだよ!」
「イカサマはなしだと最初に言っていただろう! これは全て運!もし十佳の手札が悪かったのなら、それは日頃の行いが悪かったという、まさに因果応報!ただそれだけの話だ! さあゲームを始めよう!」
「いやいやこれは絶対にイカサマだから!」
百祢は溜息をつき、まるで子供を諭すような口調で、
「あのね、十佳。イカサマはバレなきゃイカサマではないのだよ。さあゲームを始めよう!」
「ぐぬぬ……」
十佳は今までの百祢の違和感を全て思い出していった。不思議に自信満々であったこと、ページワンを提案してきたこと、中二病の調子がいいこと、やけにアクセサリーを多く着けていること、そしてカードの配り方が変であったこと。
全ての点を線で繋ぐように、十佳はある答えを導き出した。
「やっぱり百祢はイカサマをしてるよ」
「エビデンスはあるのかね」
十佳は推理小説の主人公になったかのような気分で、頭の中で百祢に口髭を生やし、不正を暴かれる悪徳政治家に見立てた。
「その指輪、イカサマの道具でしょ」
「な、なにをー?!」
百祢は分かりやすくも自分の両手を背中に隠した。
「最初から自信満々でなーんかおかしいと思ってたんだ。それに今日やけに機嫌が良い、というか中二病要素強めだなって」
「……」
「で、機嫌が良いからそうやってじゃらじゃらアクセサリー着けてると思っちゃった。でも違ったよ。百祢は別に機嫌がいいわけじゃなくてアクセサリーを着けてることを自然に見せるためにそう演じてたんでしょ?」
百祢は黙秘を続ける。
「そしてなんでアクセサリーを着けていることを自然に見せたかったか、それはイカサマ道具を隠すため。木を隠すなら森の中って言葉があるもんね」
「……どうやって手札を操作したかなんて分からないだろう! ならお手付きだぞ!」
「分かるよ。その右中指の鏡面みたいになってる指輪! それでしょ!」
またもや分かりやすくも百祢はそれが図星だと示すように後ずさった。
「い、いやこれはそういうアクセサリーでぇ……」
「他にもおかしい点はある。まずページワンを提案してきたこと。他にも2人でできるトランプゲームだったらスピードとか真剣衰弱とかぶたのしっぽとかあるのによりにもよってマイナー気味なページワン。手札を必要とするゲームを選んだわけだよね。自分が操作したいがために」
「そ、そんなことは……」
「それに私にシャッフルを要求してきたこと。これはあくまでこの戦いは公正だということの強調、自分がイカサマをしていることを疑わせないための保険だったんでしょ?あと、最後の決め手としてカードの配り方。指輪で表を確認しつつ、いいカードを自分に、悪いカードを私に押し付けた。そしてそれを誤魔化し、枚数の調整をするために急に2枚ずつ配ったりした。これが真実でしょ」
百祢は膝から崩れ落ちた。その落胆はイカサマがバレたことによるものなのか、十佳に犯行を完璧に暴かれてしまったことによるものなのか、はたまた他に勝てる秘策が見つけられず、もう自分はトランプでは人に勝てないと悟ったことによるものなのか分からないが、百祢はふと顔を上げて同情するような顔で十佳を見つめた。
「……若気の至りというものでぇ」
「情状酌量の余地なしだな」
そう言った後に続けて、
「じゃあ始めて」
百祢の顔は一面、困惑に塗り替えられた。
「お姉さま……恐れながらお聞きしますが、何を始めろと?」
「あんたが言ったんでしょーが」
その言葉に数分前の自分の失言を思い出してしまった。
◇◇◇◇◇
「ただいまー」
部活から帰ってきた一愛はリビングで不思議な光景を目にする。
「……何してんの?」
そこには腕立てをしている百祢とその両脇に十佳と千那がまるで狛犬のようにに体育座りで鎮座していた。
「何って……因果応報ってやつ? さあ、その醜態を全員に見てもらいなさい」
「人が苦しんでいるのを見るのは面白い」
「はぁ……」
百祢は2、3回続けるとすぐに床にへたり込む。それを咎めるため、そしてちゃんと契約を履行させるために2人は監視をしていた。
「あと何回!」
「んーあと10分くらい?」
「ちゃんと回数を数えててよ、十佳!」
「口答えするな、敗北者!」
「す、すいませんでしたぁ!」
翌日、百祢はトランプをシャッフルできないほどの筋肉痛になってしまったという。




