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17話 リチュアの隠し事

 ワンダーワールドの街やちょっと大きめの集落には、大衆浴場と言う施設が存在している。

 入る事でHP・MPが50パーセント回復、スタミナが全回復する施設だ。ただし状態異常は回復しない。それに関しては教会か病院で治さないとだめだ。

 宿屋に比べると料金も安いし、時間経過もないからスケジュール調整しつつコンディションを整える目的で使えるのだが、それはそれとしてやっぱり風呂はいい。今日も今日とてクエストをこなし、帰宅前にひとっぷろ浴びている所だ。

 小難しい事はどーでもいいや、日本人ならやっぱ風呂だろ。ビバノン万歳、体が溶けてなくなりそうだよ。

 ありがとう開発陣の皆さん、おかげでいー風呂堪能出来てます。


「おやコウスケ様、貴方も利用していたのですか」

「ワン支社長」


 人がリラックスしている時に面倒な奴が来たな。


「あんたもこういう所利用するんだな」

「ええ。自宅の風呂も悪くありませんが、やはりこうした場所はアミューズメント感が強くてわくわくしますから」

「常に腹で猛獣飼ってるその口で、おやつを前にした子供みたいな事言われても疑問しか浮かばないな」

「おやおや、そんなに怯えなくていいではありませんか。今は男同士裸の付き合い、隠し事等しませんよ」


 ちっ、やっぱりこいつにはバレているか。こうやって挑発めいた事を言う時、俺は本当は怯えている。これまでの畳みかけですっかり俺はワンに苦手意識を抱いてしまった。

 伊達に白月の支社を任されているわけじゃない。人を操作するのが圧倒的にうまいんだ。


「しかし、入浴中でも外さないのですね」

「これの事か。当然だろ、今の俺の根幹を支える物だからな」


 ゲームギアが無くなれば俺はこの世界で生きていけなくなる。うかつに外して盗まれでもしたらと思うと、ひと時も外せない。

 幸いこの世界じゃ防水仕様になっていて、入浴していても壊れたりはしないのが救いだな。


「やれやれ、うっ血して腕が取れても知りませんよ」

「たまには外しているさ。昨日なんかはリチュアがコーヒーを盛大に零してな、俺がシャワー浴びている間に服とこいつを処理してくれたよ」

「シャワー?」

「あの馬車についているんだよ。水を大量消費するから、しょっちゅうは使えないけどさ」

「それは大変便利ですね。あのような移動式拠点があれば効率よくクエストを処理できますし、弊社で量産したいくらいです」

「量産化、か。そしたら当然、俺が特許申請してもいいんだろうな。あれは元々俺の物だぞ」

「ほう、私を相手にもうけ話の交渉ですか」


 ワンの目がぎらっと光った。こっちも元営業職、こうした話を向けられて、燃えないわけがない。

 けん制しつつ、互いに自分が有利になる様話を続けたよ。営業マンの心意気をなめんな!

 そうして一時間が経ったけど、結局話はまとまらずじまいで……。


「ふ、ふふ……結局、両者水入りですか……」

「さすが……ワン支社長……一歩も引かぬ、ビジネスマンぶり……」


 ワン共々俺はぶっ倒れ、危うく溺死しそうになってしまった。

 やっぱり長風呂するとのぼせるな……今後は気をつけよう。


  ◇◇◇


 のぼせから回復して出て行くなり、待たせていた三人娘と合流する。情けない話だが、風呂で倒れて女を待たせるとかあほか俺は。


「あ、やっと来た。おじさん遅いよーって、げっ、ワン支社長……」

「おやおや、人の顔を見るなりご挨拶ですねアンナ様」


 ワンの姿を見るなり、アンナは露骨に嫌な顔をした。

 気持ちは分からないでもないが、この性悪眼鏡の前でその顔は止せ。


「コウスケ様とはもう少々お話ししたい事がございまして。食事でもご一緒にいかがですか?」

「それ支社長のおごり?」

「あからさまな要求で少々感心してしまいますね。ええいいですよ、たまには餌付けしておくのも利益があるでしょうからね」

「やた! そんじゃ行こ行こ!」


 変わり身の早い奴め、だけどアンナの明るさは見習わないといけないよな。……単にアホで頭空っぽなだけって気もしないではないんだが、そこは黙っておくか。

 しかし、ワンが奢るとは。明日は槍でも降ってくるのか?


「さぁ、行きましょう。ミコトも来なさい、リチュア様もどうぞ」

「は、はい」

「お相伴に預からせていただきます」


 いつも通りのミコトに、恐縮するリチュア。これだけ見ると普通の光景だ。

 ただ気になるのが、リチュアの反応。一瞬だがワンとアイコンタクトを取っていた。

 ワンの奴、彼女に何か吹き込んだんじゃないだろうな……?


  ◇◇◇


「って事だから、量産するとなるとまずクリエイト職の魔法使いが必要になる。高度な魔法を使用するから当然人件費も高くなるし」

「そこがネックとなりますね。でしたらもっと構造を簡易化して」


 レストランでも俺とワンは商談を始めてしまい、気が付いたら既に商品化へ向けてのプロジェクト段階まで来ていた。

 特許の件や取り分の件もまとまり、後はどう量産していくかの検討に入っている。ワンの奴は意外と話し上手の聞き上手で、見る間に話が進んでしまった。


「いやはや、中々商売の分かっている人だ。もしかして以前、このようなお仕事を経験された事が?」

「否定はしないけど、当たらずとも遠からずという事で」


 前世の営業職時代に関しては、当然ワンが知る余地はない。

 ただ割と嫌いじゃなかったからな、この手の話となるとつい首を突っ込んでしまう。


「ワン様とこうまで話し合える方は中々いません。もっと自分をほめるべきですよミスターコウスケ」

「ありがとう、と言うべきなのかな。俺さ、君からの言葉がいちいち裏含んでいるようで落ち着かないんだよね」


 根はいい奴だと分かっていても、やはり夜襲の事が頭をよぎる。ミコトの一挙一動が別の意味で怖すぎて目が離せなくなっていた。


「ともあれ、ここまでお話しできればあとは我々が調整いたしましょう。コウスケ様、大変貴重な意見ありがとうございます。量産化した暁には、約束通りの報酬をお支払いいたします」

「ありがとう。そのついでに一ついいかい?」

「なんなりと」

「あんたはどうして支社長なんて立場に落ち着いている? それだけの手腕があるなら、幹部とかの地位に立ってもいいんじゃないか?」


 ずっと気になっていた事だ。ワンほどの敏腕が、こんな場所で燻ぶっているなんて勿体ない。言いたくないがこいつは優秀だ、もっと上を目指すべきだろう。


「ふふ、人には人の事情があるのです。あまり深入りするべき事ではないのでは?」

「……確かにそうだな。変な事を聞いてすまなかった」


 ワンの目は本気だった。どうやら奴にも、何かしらの事情があるんだろうな。

 あまり深く取り入るのも機嫌を損ねかねない。この件に関してはもう言及しないようにしておこう。


「それでは、先に失礼いたしますよ。本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます」

「ああ、じゃあな」

「あの! ワン支社長!」


 急にリチュアが大声を上げた。急に声をあげたものだから俺も驚いてしまう。


「どうしたんだリチュア? 急に」

「いやその……なんでもありません」

「ふふ、どうやらお疲れのご様子ですね。本日は早めに休まれた方がよろしいでしょう、寝る前にハーブティーを飲むと気持ちが落ち着きますよ」

「あ、アドバイスありがとうございますっ」


 ワンとの会話がどこかぎこちない。リチュア、あいつになにか弱みでも握られたのか?


「ふふ、鈍い男ですこと」

「ミコト、俺に隠し事をしない方がいいぞ。後でこわくなるからな」

「あらいやだ、別に悪い事をしているわけじゃないのよ。うふふ」


 嘘だ、絶対嘘だこいつ。

 リチュア、俺に一体何を隠しているんだ?

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