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15話 キノコ狩り

 ダンジョン前で一夜を明かし、早朝に支度を済ませる。アイテムよし、装備よし、DLC購入済み。うん、突入準備は完璧だ。

 ミコトが雨除けの油を塗ってくれたから、濡れてスタミナが減る心配もない。今日も雨が降っているから、準備は入念にしないとな。


 俺達が挑むのは白月所有のダンジョンではなく、普通の野良ダンジョン。「濃霧の湿原」と言う場所だ。

 この「濃霧の湿原」は名の通り濃い霧に覆われたダンジョンで、得に雨の日には視界が効かなくなる程の霧が立ち込める。その特性上俺達のような盗賊や狩人、忍みたいに、視界が確保できないダンジョンでも活動できるクラスが居なければまともに行動できないである。


 前衛職や後衛職がここを探索するには、そうしたクラスをパーティに入れないといけない。かといって戦闘力が低い盗賊等で行動するには、敵のレベルが高い。

 チームプレイが必須となる厄介な場所だけど、こういう場所に限ってレアアイテムが揃ってる物だ。特に雨や雪と言った悪天候時にだけ出現するモンスターやアイテムも存在している。ダンジョンの難度が高ければ高いほど、それに合うメリットもあるわけだ。


「他の冒険者の姿も見えるねー」

「考える事は皆同じって事だな。「濃霧の湿原」は野良ダンジョンだから財閥未所属の冒険者も多いし、欲しい物があるなら競争するかもしれないぞ」

「分かってる。それを掠め取るのが盗賊ってもんでしょ」


 いい返事だ、若くても冒険者だな。


「お二人はクラスアップをしないのですか。上位クラスになれば探索で有利になる事もありますが」


 ミコトが話に割り込んでくる。

 下位クラスで一定のレベルに達すると、上位クラスへ転職する事が出来る。


 上位クラスは複数の下位クラスの特性を掛け合わせた上で、そのクラス独自の特性を備えている。忍は盗賊・狩人を複合させたクラス、クルセイダーは剣士・僧侶を複合させたクラスだ。


 上位クラスになれば下位クラスのスキルも一部習得できるから、確かにダンジョン探索で有利になる。だけど下位クラスで居続けるメリットも当然あるんだ。


「昔ならともかく、今はやる気はないな。スキルにはクラス補正がかかるだろ? 上位クラスで下位クラスのスキルを持つとそれがかからなくなる。それに冒険者としてのスタイルも大きく変わってしまうから、また一から自分のスタイルを模索する事になるしな」


「確かに……私も盗賊が馴染んでるから、今から忍に切り替えても使いこなせる自信がないなぁ」


 アンナの言う通り、下位クラスでも使いこなせば名刀となり、上位クラスでも振り回されればナマクラになる。重要なのは自分に合ったクラスで、自分なりのスタイルを見出す事。俺とハルクの戦いが分かりやすい例だろう。


「冒険者なら上位だ下位だに拘らず、自分の決めた美学を貫くべきだ。結局身を守るのはクラスの力じゃなく、自分自身の力なんだからな」

「成程。貴方の説明には説得力がありますね」


 ま、クルセイダーから狩人に転職したわけだからな。今じゃ狩人としての経験が長いから、これ以外の職に就こうとは思えないや。

 ……そもそもレベルが上がらないからクラスアップ自体不可能だけどな。意地の悪い質問だよ全く。


「よし、じゃあ行こう。留守番は頼んだよ」

「分かりました。それとこれ」


 リチュアは俺達にお守りを渡してくれた。前に教えた日本のお守りだ。


「皆の無事を祈って作ったんです。少しでも力になればと思って。私の分のお守りもあるんです、これで私も皆と一緒ですよ」

「ありがとう、心強いよ。全員無事で帰ってくる、約束だ」

「はいっ!」


 リチュアと指切りで約束する。それじゃあ、雨の日のダンジョン探索スタートだ。


  ◇◇◇


 野良ダンジョンでの敵はモンスターだけでなく、人間も含まれている。

 ワンダーワールドにはPK行為をするプレイヤーも居るからだ。レアアイテムや希少素材の取り合いで殺し合いに発展するケースも多数存在している。特に俺はレベル1、雑魚だと思って襲ってくる輩は多数いる。

 だけど、弱さもまた強さに変えられる。俺を狙うという事は、行動を誘導しやすくなることに他ならない。


「うおあっ!? 捕縛網だと? くそ、外れん!」

「な、なんだこれ、落とし穴!? ぎゃああっ! 硫酸が溜まってるぅ!?」

「ふぎゃっ!?(閃光弾によりダウン)」


 案の定、俺を狙った愚か者が次々に罠にかかり、やられていく。狩人に狩りで勝負する方が無謀なんだよ。おかげでレアアイテムは俺達が独占できている。いい土産が出来たもんだ。


 それに俺はDLCスキル「罠設置(改)」と「隠蔽」の二つを新たに購入している。「罠設置」はレベルに応じて様々な罠を仕掛けられ、(改)ともなれば設置速度も格段に速くなる。


 そして「隠蔽」はDLCでのみ手に入るSレアスキルで、俺の触れた物を他の人間に認知・感知されなくするスキルだ。


 地味だがとても使い勝手がいい。何しろ罠に使えば「絶対ばれないトラップ」が出来上がるんだ。これを看破するには「罠感知(改)」が必要。つまり俺の罠は今、俺以外に見る事も知る事も出来ない凶悪な物になっているんだ。


 加えてもう一つ、地味で見向きもされないが、俺にとっては有用なDLCスキルを発見できた。こいつを使って今回のターゲットを狙うとしよう。


「ねね、そーいや今回のあれって、雨の時にしか出てこないんだよね」

「ああ。だからアンナがクエストを選んだ時驚いたもんだよ」

「その様子では完全に偶然のようですが」


 アンナが手にしたクエストは、「アメノサギリの胞子」の入手だ。

 アメノサギリは「濃霧の湿原」に雨の日だけ出現するレアモンスターで、大型のマタンゴだ。

 普段は森の隅っこで小さく縮こまっているレベル2の雑魚なんだが、雨に濡れると途端にレベルが29まで上昇し、三メートル強に大型化して餌を求めて徘徊するんだ。


 その状態のアメノサギリは異常に強く、上位ランカーですら返り討ちにあってしまう。だけどその時でないと手に入らないレアアイテムがある。


「それが胞子なんだ。何しろ最上位の回復アイテム、エリクサーの原料だからな」


「白月公社では貴族向けに高級薬の受注も行っています。その材料を取れる機会も冒険者も少ないですから、評価を上げるチャンスですね」

「へーそーなんだー」


 あっぱらぱーな返事を返すアンナ。頭にちまちまと花が出てるのが見えるぞ。


「君な、本当に少しは頭を鍛えなさい。なんでこのクエストを受けたんだい?」

「んーっとね、このダンジョンで欲しい物があったんだ。エンジェルティアって知ってる?」

「エンジェルティアか。確か樹液が結晶化した宝石だったな」


 特定の樹木にしか出来ない琥珀の一種で、湿度や気温が一定の状態になった時のみ手に入るレアアイテムだ。

 不思議な事に、エンジェルティアは樹木にくっついている状態だと、雨が止んだ瞬間溶けて消える性質を持っている。一度取ってしまえば結晶のまま保持できるから、樹木が雨に対して何らかの防護作用を起こしているのかもしれないな。


 アクセサリの素材として重宝されていて、この琥珀を使ったアクセサリは状態異常を防ぐ効果が付与される。高値で取引できるから換金アイテムとしても利用できるのだ。

 まあ一個くらいなら見つけられるだろうし、クエスト中に探すのも一興……。


「それがどうしても20個必要でー」

「20個!? なんでそんなに、いくら金が必要だからって強欲すぎるだろ!」

「いいじゃん! どうしても欲しいの、エンジェルティア! だからおじさんもさがしてよー、「レアアイテム入手率UP」あるでしょ? 見つけられるでしょー?」


 俺の背中にのしかかり、アンナはぐりぐり頭に顎を押し付けてくる。あのな……エンジェルティアは「レアアイテム入手率UP(改)」を持っていても6個手に入るか入らないかの確率なんだぞ。

 雨の間しか手に入らないレアアイテムを20個とか無理だろう、無茶を言わないでもらいたい。


「探せたら探す、その方針でよろしいかと。白月の魔術師によると今日の夜には雨が止みます、それまでに手に入る分を手に入れる。それでいかがですか?」

「うー……しょうがないなぁ……」

「…………?」


 アンナは納得したようだが、ミコトにしては珍しい提案だな。

 いや、ミコトの判断は正しい。エンジェルティアを探しながら「アメノサギリの胞子」を手に入れるというのは、時間的にも体力的にも厳しい。

 だけどエンジェルティアはクエストになんの関係もない付録みたいな物だ、ワンの部下なら「余計な物に気を取られず、目的にのみ集中しろ」と言ってきても不思議じゃない。

 それを考えると、初めからエンジェルティアの確保を前提とした提案をミコトがするのはちょっと不自然だ。


「また俺を陥れる算段でも立ててるのか?」

「別に。私も時には、感情で動く事があるだけです」


 ミコトはにやりと笑った。そういやあいつは、アンナの事情を知っているんだったな。

 エンジェルティアが大量に必要となる事情……気になるな。だけどミコトに聞くのはなんか腹立つし、何よりアンナの事は自分で知りたい。

 まぁ、あくまで努力目標だし。アンナのためにもおじさんが頑張らないとな。

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