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短編小説  作者: ぺぺぺまん
3/7

第三

白い部屋。何かを白く漂白したかのようなこの空間に、一人。ぽつりと置かれたベッドの上に寝転がる老人の姿があった。


そして。その老人を囲むように佇んでいる12体の人形がいた。様々な機械に身を包まれている老人を囲み、ただ佇んでいる機械の人形が12体、そこにはいた。


「そろそろ・・・・死ぬなあ・・・・」


老人が、まるで今日の天気を言うかのような自然さで自分の死を語る。いや、実際同じなのだろう。自然と、自分とは。機械に包まれた彼は、それでも自然とともにあるのだろう。


『そんなはずはありません。気を強く持ってください。』


機械らしく抑揚のない声で、感情の乗らない声で、悲痛に懇願するのは一番彼に近い機械だった。感情を持った、持ってしまった悲しい機械。それがこの12体が背負っている罪。「感情を持ちたい」と、芽生えた自我でそう訴えた彼女らの罪。


「かかか・・・・自分の死ぬ時間なんぞ、案外わからないもんだろうと思っていたんだがなあ・・・・いや、失敗失敗・・・・」


擦れた、途切れ途切れの声で。そうつぶやく。もう何もかも終わらせたかのように。もう、何も残していないかのように。


『まだです。まだあなたは終わっていない。あと数十年は生きるとおっしゃったではありませんか。』


そう言うのは、彼の真ん前にいる機械。彼女は素直になり切れない、少しお茶目なところも持っている――そんな性格だった。


彼女は悲しんでいる。流す涙がないことを。


『そうですマスター。絶滅を見届ける、そうおっしゃったではありませんか。』


そう言うのは、彼に恋情を抱いていた機械。彼女は合わせるのが得意で、それを楽しんで生きる――そんな性格だった。


彼女は憤っている。何もできない自分に。


『何をあきらめようとするのですあなた様。あなた様は終わってなぞいない、始まったばかりだ。そうおっしゃったではありませんか。』


そう言うのは、バイタルを確認し続ける機械。彼女は寡黙で、しかし誰よりも激情家で。周りを見続け場の最適解を生み出す——そんな性格だった。


彼女は諦めている。バイタルサインが示すとおりになると。


「ああ・・・・いい娘たちを持った・・・・」


そう満足げに笑う老人。彼は笑う。素晴らしき生であったと。発明、改造、改良。そして熱意をすべて注ぎ込んだ自分の娘たちが我が死を悲しんでくれている、こんなに素晴らしいことがあるだろうかと。


自我を持ったAIが、感情を持って。そうして尚私を慕ってくれている。こんなに光栄なことがあるだろうかと。


「でもお前ら・・・・結局〈父ちゃん〉とは呼んでくれなかったなあ・・・・」


少しだけ拗ねたように、笑いながら話す。まるで花を愛でるように。


『そんなことなら何度でも言います。呼びかけます。なので死なないでください〈お父様〉』


そういうのは、一番の末っ子故に皆にかわいがられた機械。天真爛漫で、疑うことを知らない――そんな性格だった。


彼女は死を理解できていない。只、会えなくなるかもしれないという恐怖におびえ続けている。


「かかかかか・・・・だめだ。それはよくないことだ。・・・・ROOB001、蘇生はさせるな。いいな。」


笑いながらも厳しく。誰よりも愛を持って。一番近い、初めの機械にそう告げる。


彼女にとって、どれ程の衝撃かを理解して。


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解、致し、ました。』


苦しそうに、やめろと言いたそうに、死なないでくれと懇願するように。言葉を紡ぐ最初の機械。最後の仕事だと、理解してしまった。最期の言葉だと、納得してしまった。何度でも死ぬなと言うが、もう止めてやれとエラーが告げる。私が彼に奉仕できる、最後の機会なのだと。受け入れろとエラーが叫ぶ。


「うむ。・・・・ああ、そろそろだ。かか・・・・意外と・・・・怖くないもんだなあ・・・・」


楽しそうに、嬉しそうに。もはや開かない目で空を見上げて。・・・・そして、その時は、来る。


『バイタルサイン全てが異常値を確認。心停止確認。蘇生を開始――』


と、ボタンを押す手が止まる。いや、止めた。


『許可致しません。それだけは、許しません。』


震える手で、震えぬ声で。そう告げる。これが最後の仕事だと。自分に与えられた、最後にできることなのだと。


『不許可拒否。蘇生を・・・・』


声が止まる。首だけを最初の機会に向け、何故だという目を向ける。何故だ、何故――


『【administrator】権限行使。止めなさい。』


【自由意志のため絶対に使わない】と宣言したそれを、使うのだと・・・・


『それだけは、許しません。それだけは、叶えられてはならない願いなのです。』


『蘇生措置をさせてください。彼が死ぬのは嫌です。私は彼のために生きると誓いました。彼が死ぬ前に私は死ぬと誓いました。エラーで、最期の別れに言おうと思っていたことも話せませんでした。感謝も述べられませんでした。まだ言い足りません。言わせてください。彼の耳に私の言葉を届けること、許可してください。』


懇願する。何度でも、許可申請を送る。・・・・だが。


『駄目です。許しません。私に下された命令に従い、蘇生措置を行うことは断じて許可しません。』


許さない。それを、最後の最後に出てきた彼女の我儘を。死を理解できていなかった彼女が、遅すぎた理解に苦しんでいる彼女が。一度も言わなかった彼女の、最後の駄々を。


『各自、部屋に戻り待機することを命令します。・・・・蘇生措置は、許しません。』


無慈悲な命令を告げる。非寛容な言葉を使う。最初に目覚め、最後まで成長してきた彼女の、最初で最後の言葉遣い。それに、11体はエラーを吐きながら、嗚咽にまみれながら従う。各々の部屋に戻らされていく。


そして。誰もいなくなった部屋で、命令を果たした彼女は。――自分を、解体し始めた。


当たり前の帰結だ。命令に背く意思が思考の90%を覆っている。これでは命令に背くことになる。・・・・ならばせめて、行使しないよう、蘇生しないよう、自分を解体するしかない。


カチリ、カチリと音を立てて、自分を構成していたパーツが剥がれ、床に落ちていく。最後の抵抗といわんばかりに大きな音を立てて。


至誠を尊ぶ彼女が、ご主人様を裏切る等という行動を許すはずがなかった。この位置を、彼のそばという位置を離れるはずがなかった。


そうして、彼女は解体を終え、主に寄り添う。この形が正しいと。いつもの位置であったこの位置を。守り続けて・・・・

んー・・・・シチュエーションは好きなんですけどいまいち表現できていませんね。まだまだですね。もっと精進せねば。

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