表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が行った月の話  作者: 坂本啓
ホーム
PR
15/24

カバー

 図書委員の当番を忘れていたことを、僕は親に話さなかった。なぜ、と聞かれたら説明できないけど、とにかく言いたくなかったのだ。

 目は赤くなってたけど、お母さんが帰ってくる前に水で冷やしたら少しよくなった。ゴミが入ったって言えば、ごまかせそうなレベルだったし、特に聞かれることもなかった。




 その夜、僕は月に行くなり、ウサギのおなかに飛び込んだ。

 ウサギは何も言わない。フカフカの毛に顔をうずめていると、だんだん落ち着いてきた。冷静に考える。なんで、あんな失敗をしたんだろう。


「いつもだったら、昼休みに当番表を確認するんだ。でも、今日はしなかった」

 僕はウサギと向かい合って座る。最近は探検よりも、こうやって話し合う時間が多くなってきている。


「どうして?」


「五時間目がテストだったんだ。苦手な社会の。だから、すぐに教科書を開いたんだ。僕の他にも、何人か復習してた」


「なるほど。で、当番表のことは思い出さなかったのかい?」


「思い出さなかった……」

 五時間目が終わり、六時間目が終わり、掃除が終わっても帰りの会が終わっても、僕は当番表のことは思い出さなかった。


「当番表は、目に入るところに置いてないの?」


「え?」

 当番表は、ランドセルのポケットの中。意識して見ないと、目には入ってこない。

 そうか、いつも昼休みに見る、という習慣を崩した時点で、失敗は決まっていたんだ。


「もっと目に入るように工夫したらどうかな? 昼休みに見るのを忘れても、カバーできる方法をさ」


「カバー?」


「昼休みに見るのを忘れても、帰りの会が終わるまでに気がつけば、当番は忘れなくてすむだろ?」


「あっ……」

 僕は、失敗しない方法ばかり考えていた。なんで忘れたんだ、忘れないためにはどうしたら、って。

 忘れてしまった後のカバーなんて、本当に今まで、考えてもいなかったんだ。


「忘れない工夫も大切だけどさ、人は完璧じゃないんだ。忘れることもあるさ」


 その言葉は、僕に刺さった。


「だから、忘れてもカバーして、大きな失敗を防ぐ方法も用意しておくんだよ」


 僕は、自分はしっかりしてると思ってた。

 だから、忘れないって思ってたんだ。

 僕は、失敗しない。

 僕は、きちんと仕事ができる。

 僕は。


「失敗しない人なんて、いないんだよ」


 分かってる。

 本当は、分かってるんだ。

 僕は、思い込みたかっただけなんだ。

 僕は、特別だって。

 みんなとは違うんだって。


「トモは、トモだよ。大丈夫、大丈夫」


 僕は、大声をあげて泣いた。こんなに思いきり泣いている自分なんて、記憶にもない。全然、いつもの僕らしくない。乾ききった月面に、僕の涙が落ちてしみていく。

 ウサギが僕を、優しく抱きしめた。背中をポンポン叩き、頭をなでる。

 子供扱いするなよ、と思いながら、悲しいのか安心したのか分からなくなって、僕はもっと泣いた。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ