カバー
図書委員の当番を忘れていたことを、僕は親に話さなかった。なぜ、と聞かれたら説明できないけど、とにかく言いたくなかったのだ。
目は赤くなってたけど、お母さんが帰ってくる前に水で冷やしたら少しよくなった。ゴミが入ったって言えば、ごまかせそうなレベルだったし、特に聞かれることもなかった。
その夜、僕は月に行くなり、ウサギのおなかに飛び込んだ。
ウサギは何も言わない。フカフカの毛に顔をうずめていると、だんだん落ち着いてきた。冷静に考える。なんで、あんな失敗をしたんだろう。
「いつもだったら、昼休みに当番表を確認するんだ。でも、今日はしなかった」
僕はウサギと向かい合って座る。最近は探検よりも、こうやって話し合う時間が多くなってきている。
「どうして?」
「五時間目がテストだったんだ。苦手な社会の。だから、すぐに教科書を開いたんだ。僕の他にも、何人か復習してた」
「なるほど。で、当番表のことは思い出さなかったのかい?」
「思い出さなかった……」
五時間目が終わり、六時間目が終わり、掃除が終わっても帰りの会が終わっても、僕は当番表のことは思い出さなかった。
「当番表は、目に入るところに置いてないの?」
「え?」
当番表は、ランドセルのポケットの中。意識して見ないと、目には入ってこない。
そうか、いつも昼休みに見る、という習慣を崩した時点で、失敗は決まっていたんだ。
「もっと目に入るように工夫したらどうかな? 昼休みに見るのを忘れても、カバーできる方法をさ」
「カバー?」
「昼休みに見るのを忘れても、帰りの会が終わるまでに気がつけば、当番は忘れなくてすむだろ?」
「あっ……」
僕は、失敗しない方法ばかり考えていた。なんで忘れたんだ、忘れないためにはどうしたら、って。
忘れてしまった後のカバーなんて、本当に今まで、考えてもいなかったんだ。
「忘れない工夫も大切だけどさ、人は完璧じゃないんだ。忘れることもあるさ」
その言葉は、僕に刺さった。
「だから、忘れてもカバーして、大きな失敗を防ぐ方法も用意しておくんだよ」
僕は、自分はしっかりしてると思ってた。
だから、忘れないって思ってたんだ。
僕は、失敗しない。
僕は、きちんと仕事ができる。
僕は。
「失敗しない人なんて、いないんだよ」
分かってる。
本当は、分かってるんだ。
僕は、思い込みたかっただけなんだ。
僕は、特別だって。
みんなとは違うんだって。
「トモは、トモだよ。大丈夫、大丈夫」
僕は、大声をあげて泣いた。こんなに思いきり泣いている自分なんて、記憶にもない。全然、いつもの僕らしくない。乾ききった月面に、僕の涙が落ちてしみていく。
ウサギが僕を、優しく抱きしめた。背中をポンポン叩き、頭をなでる。
子供扱いするなよ、と思いながら、悲しいのか安心したのか分からなくなって、僕はもっと泣いた。




