表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の異世界戦国奇譚  作者: 浅月
6/42

もげた翼の羽撃き

 斬撃に焼け付く空気。一撃一撃が、速い!!


 学生時代、武術なんてものには縁遠い生活だった私は、なんとかすべての攻撃をギリギリで避けていた。

 相手はその道を極めた者。本当に避けるのが精一杯。


 …ん?ちょっと待って!!避けるので精一杯?ありえない!!なんで私避けられてるの!?


 そう感じた途端、さっき感じた余裕を私は思い出した。うん、なんかいけそう…!

 

「さすが、宵闇を名乗るだけはあるな。だが、避けているだけではこの俺は倒せんぞ!!」

 

 距離を取ったトキワが横薙ぎに刀を振るった。その瞬間、刃の軌跡が形を成し、衝撃波として私に向かって飛んでくる!!こういうときは…あの魔術だ!!私は前方に掌を突き出して叫ぶ。

 

「レジストウォール!!」

 

 以前スペックウィンドウで検索した、防御魔術。

掌に瞬時に魔方陣が現れ、それを中心に青い八角形の壁が形成される。

 

 

          バァァァン!!

 

 

 直後、壁は衝撃波を弾きそして分解させた。


 …出来た!!よし、次は攻撃魔術もやってみよう。ゲームとかそうだよね。攻撃直後は最大のチャンスなはず。


 「シルフィ・ペイン!!」

 

 即座に攻撃用の魔術の名前を叫ぶ。唱えたのは熱魔術に分類される風を操る魔術。

 私の両肩あたりに魔方陣が二つ現れ、真空の刃が形成される。そしてそれは私の前方で✕の形となりトキワに向かって飛んでゆく。


「甘い!!」


 トキワは防御の構えを取り、真空の刃を受け止めそして受け流した。


「俺の斬撃を真似たようだが、その程度の飛び道具、受け流す事など容易いわ!!さあ、こんなものではないだろう。宵闇よ!!」


 心底楽しそうに嗤う。闘いが好きだ、そんな顔をしていた。それを見て不意に私の頬も緩む。



 そこで気が付いた。


 

 体中の血が沸騰したかのように体が熱い。でも不快じゃない。寧ろ心地よく感じる。

 

 そうだ。私も闘いを楽しんでいるんだ!!


「やっぱり受け流されちゃったな。効かないかな、と思っていても簡単に受け流されたのはちょっと悔しいな…。やっぱりこの程度じゃ駄目か…よし!」


 軽くジャンプしながら私は足に魔力を集める。瞬時に靴の下に魔方陣が現れ私の体は空中に留まった。

 飛翔魔術、エアフォース。要は空を飛ぶ魔術だ。空に浮く不思議な感覚に少し戸惑いを覚えたけど、これはこれで中々楽しい。

 空中に浮いた私はそのまま空の高い所まで上がっていった。










 空に浮かび上がった宵闇の魔女と名乗る女を見上げ、ウルミは一抹の不安を覚える。

 

 あれはきっと本当に宵闇の魔女だ。

 

 御伽噺だとばかり、そう思っていた。

この世界に生ける者なら一度は聞いた事のある、伝説。子供の頃、私の悪戯を叱る父上に良く聞かされたものだ。『宵闇の魔女が来るぞ』と。


 きっと勝てない。


 さっき魔術を使った所を見て、そう思う。

初級とはいえあれ程安定した魔術を詠唱無しで何度も使っているのだ。飛翔魔術なんか術名すら宣言していない。技術も魔力も圧倒的だ。


 空に浮かんだのはきっと挑発。


 私達翼人族は空を飛べる。それなのに攻撃の為にわざわざ空に浮いたのだ。トキワ様の性格を見抜き、追いかけて来ない事を承知の上で。しかも浮いている場所はトキワ様の斬撃がギリギリ届かない高さであった。恐らく自分の魔術と真っ向から勝負させる為。


 私の氷結魔術、クリスタル・ゲイボルグならばあるいは届くかもしれないが…。


 空を見上げながら掌に魔力を集中させ始める。だがその時彼女の肩にそっと手が置かれた。


「余計な事は考えるな、ウルミ。殿から手出し無用とのお下知が下っただろう」


 隣に立つツルバミが、空を見上げる目線を外さずウルミを制した。


「でも、ツル!このままじゃトキワ様が!!」


「分かっている。だが、主君を信じ、主君の命を遵守する。それが真の忠臣だ」


 言葉ではそう言い切ったツルバミだが、その手に握る槍の柄から鮮血が滴り落ちていた。


 今直ぐにでもその隣に並び、共に闘いたい。


 彼の本当の叫びが、ウルミの胸に響きわたる。

幼き頃から側に仕え、トキワの事をずっと見てきたが故の彼への理解と忠義の狭間に心が締め付けられているのだ。


  

 どうかご無事で…!!




 願う事しか出来なかった。



 



 


 

 


 私は心の中でスペックウィンドウと念じた。すると目の前にあの画面が現れる。魔術の項目を手早く表示し、少しばかり思案する。どの魔術が効果的か…。初級程度はトキワには通用しないかもしれない。だったら広範囲攻撃の中級魔術が有効かも。

 …よし、これにしよう。私は突き出した掌を握った後、人差し指と中指だけをのばし、そしてその二本の指で複雑な幾何学模様を空中に描いた。

 

 

「星の涙に爆ぜる風。金色の弓は謳い黒雲の草原を招来せん。幾千の嘆きの贄、割れんばかりの牙の咆哮。太陽と月を飲み込む獣に今望まん。我の願いを聞き入れよ。来たれ、その暴食と共に」

 

 

 不思議な事にスラスラと言霊を詠唱できた。この魔術を使いたい、そう考えたら言霊が頭の中に勝手に現れたのだ。

 私の足元から光が溢れ、そして前方には巨大な魔方陣が形成されてゆく。そう、これは完全詠唱の実験も兼ねている。

 

 完全詠唱をするとどうなるのか。

 

 バースさんが言うには完全詠唱は魔方陣の形成を安定させ魔術の精度を上げる効果があるという。

 相手は相当の手練。これ位が丁度いいはずだ。

 

 

「…ハティ・ライトニング・スコル・ファング!!」

 

 詠唱完了を意味する術名の宣言直後、私を中心にして金色の雷光の矢が複数本発生する。そしてその光の矢は魔方陣に吸い込まれ、収束してゆく。 

 獣の雄叫びのようなけたたましい轟音が鳴り響き、魔方陣が一際激しく輝く。

 現れたのは電撃で形成された狼の巨大な頭部。そして凄まじい勢いで贄を喰らわんと一直線にトキワに向かってゆく!!


 

………あ、しまった。

…どうしよう、やりすぎちゃったかも!!



 思ったより威力が大きすぎる!!これじゃトキワが黒焦げどころの騒ぎじゃない。辺り一面を吹き飛ばしてしまう!!

 

「逃げて!!」

 

 私は咄嗟に叫んでいた。対するトキワは逃げるどころか防御の構えを取っている。


 あ、当たる!!

 

「…来い…!!」



 

 

          ゴォォォン!!



 

 

 狼の牙が、その電撃が、トキワを捉える。その瞬間、あたりには激震と共に爆風と目を貫く激しい光で溢れかえる。

 

 

 


 …静寂。

 

 

 


 風と光が止んだ頃、私はゆっくりと目を開いた。

 

 そこには刀を地面に突き刺し膝をつき、プスプスと煙を上げるトキワが佇んでいた。彼の周りの地面は抉れ、例えるならまるで隕石でも落ちてきたかのようなクレーターが形成されていた。


 ゆったりとした速度で地面に私は降り立った。


 …なんだかあの有名な金髪の宇宙人の漫画みたい…。

なんとも気の抜けた感想しか出て来ない自分に少々嫌悪感を覚えつつも内心ホッとする。よかった。どうやら、なんとか私の魔術に耐えたらしい。だが、トキワは肩を上下に揺らし、正に満身創痍の状態だった。


 想像以上の破壊力。


 …もしかして、完全詠唱すると威力まであがるの?…そりゃそうか。精度が上がるんだもん。

 中級以上の完全詠唱はよっぽどじゃない限り、ちょっと止めておこう。

 

「…まさか、本当に宵闇の魔女なのか…?はっはっは、…どうやら俺に勝ち目は無さそうだ」

 

 乾いた笑いをあげた後、トキワはその場にどかっと座った。

 

「…さぁ、止めをさせ!!俺の首をやる!その代わり」

 

 トキワは真っ直ぐに私の目を見つめてきた。


 ウソ、何でそうなっちゃうの?勝負には私、勝ったけど命のやり取りなんて考えてない!!

 でも、トキワはそうは思ってないみたい。もしかしたら、いや、この場にいる私以外はいつだって命懸けなんだ。曇りのない、澄んだ真っ直ぐな瞳。死を覚悟しても揺るがない決意を、その瞳に感じた。

 

「…あいつらの、ウルミとツルバミの命だけは助けてやってくれ。…ウルミ、ツルバミ」

 

 後ろを振り向き二人の名を呼ぶ。

 

「良く仕えてくれた。俺の敵などと考えるな。お前らを守りきれなかったのは無念だが、…どうか生き延びてくれ。…さぁ、宵闇よ、俺を武人として介錯せよ!!」

 

 トキワは目を瞑るとそっと頭を垂れる。

後ろのウルミとツルバミは唇を噛み締めていた。一言も発さずに。

レイちゃんとバースさんも遠くで息を呑んでいるのを感じた。

 

「ちょ、ちょっと待って!!私、そんな事しないよ!!」

 

 驚き、そして困惑の瞳がそこにあった。死を覚悟した武士に、私は何という酷な事を言い放ったのだろう。だが、私にはそれはできない。私はただのOLで、ただの女の子だ。


 覚悟はしたはず。だけど、私の心はこの一線を越えることを戸惑っている。

 

「何故だ!?全てを失った俺にこれ以上生き恥を晒せというのか…!!」

 

 トキワのその瞳から涙が溢れた。その瞬間、私の頭の中に映像が次々と再生される。






 …裏切り…焼き尽くされる田畑、家々…累々と横たわる亡骸…


 これは、トキワの記憶?その哀しみが、怒りが、屈辱が、覚悟が、私の胸を締め付ける。気が付けば、私の頬は濡れていた。




 

「…なぜ、貴公が涙する」

 

「…ごめんね、私にはあなた程の覚悟なんてなかった。でも、…私は人でありたいの。甘ったれなのかもしれないけど、命を簡単には奪えない。それじゃシャクジョさんやネリさん…あなたの大切な人達の敵と一緒だもん!!」

 

 私はもう号泣していた。涙が止まらない。でも、それでも。

 

      私は人であり続けたいのだ。

 

「っ!!なぜ、シャクジョとネリの名を貴公が発する!?」

 

 目を見開いてトキワは驚愕の表情を浮かべる。無理もない。今日初めて会った相手に、自分の大事な人の名を出されたのだから。

 

「そうだよね、びっくりするよね。私だって、突然あなたの記憶が頭に流れてきてびっくりしてるんだ。…とりあえず、皆で少し話そう。私があなたに勝ったんだからちょっとくらいいいよね」

 

 涙を拭いながら何とか笑顔を繕い、トキワに提案してみた。

ちょっとイジワルな提案のし方かも知れないけど、こうしたほうが良いような気がした。


 そろそろ日も暮れてきた。異世界の空も私が知ってる空と同じ、綺麗な茜色。だけど何だか物悲しい。

 赤く染まる草原に烏の叫ぶような鳴き声が、聞こえた気がした。

 

 

 

エル対トキワ。戦闘描写が気に入らず、何回も訂正しておりました。

術名は大体思い付きです。(笑)






7月28日加筆訂正致しました。あんまり変わってないかも知れませんが(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ