復讐の誓い
「取りあえず、座るがよいルーナ。」
「……はぁ、」
俺はドリスに促されるまま革のソファに座る。
学園長室は意外にもアンティークの家具がおかれ、高級感がでている。このソファもかなりの高級品であろうな。
「それで、話とは?」
「まず、お主は今日の授業で先生たちですら気がつかなかった魔法陣や詠唱のミスを気がついたしゃな。どうして気がついたのじゃ?」
ドリスの質問に俺は頭に手を添え、目を瞑り深く考える。
それか……オレガノ父さんに渡された本に書かれていたから、だけどそれは俺の前世に気がつかれる可能性がある。言わない方が良いだろう。
となれば言えるのはただ一つ。
「偶然だよ。俺は冒険者と生活してきたから様々な魔法陣や詠唱を見たり聞いたりする機会が多かったんだよ。」
「ふむ……そうじゃな、それもあり得るか……。」
(半分嘘だけどな。)
ドリスは首肯しながら俺の意見を肯定し、俺は内心ほくそ笑む。
確かに俺は様々な冒険者たちと仕事を一緒にし、様々な魔法陣と詠唱の知識を入れ、精霊魔法の詠唱短縮を目指したから半分は真実だ。
だが、俺の魔法の多くはオレガノ父さんの本の知識から生まれたのだから半分は嘘である。
人は嘘をつくとき真実を少し混ぜたら騙しやすいものだからな。
「次に、お主はこれを知っているか?」
ドリスが懐から緑色のボール状の物が入った小さなビンを取り出した。
俺はそのビンの中身を確認し、首を振る。
個人的には少し興味が湧いたが、僅かながら恐ろしい物を直感で感じ取れたからだ。
「これは『ウッド』じゃ。お主のような闇の世界の住人なら聞いたことはあるじゃろ。」
「『ウッド』だと!?どこでそれを手にいれた!?」
俺はドリスが言った言葉に驚き、身を乗り出す。
『ウッド』とはここ数年裏社会に蔓延っている覚醒剤のことだ。一つ飲めば凄まじい快楽を手に入れれるが、強力な依存性を持ち、飲み続ければやがて中毒症状で腐敗して死ぬのだ。
裏でも問題になっていて様々な組織が密輸ルートを探っているがこれを取り扱っている商店や生産方法、材料さえも不明な代物だ。
「お主も聞いたことがあるじゃろうし、細かい説明は省く。お主にはこの『ウッド』について探って欲しいのじゃ。」
「無茶を言うな。俺でも足取りを追えていない物をどうやって探すんだよ。」
「ヒントはあるのじゃ。」
そう言ってドリスは地図を取り出す。
この世界は国家間の戦争が絶えないから地図はかなり貴重な軍事機密でもある。
「ここ、剣魔祭の開催地である都市『ガジェット』の何処かに『地下闘技場』に『ウッド』中毒者が大量に輸入されているという情報が入っているのじゃ。」
「……なるほどな。おおよその検討はついたな。」
ドリスの目的は俺にその『地下闘技場』の実態を調べてこい、と言うところか。
「調べてくるのは問題ないが、潰しても問題ないだろ?」
「う、うむ。じゃが、なるべく潰すじゃないぞ。」
それと、これらを言っておかないとな。
「あと、幾つか条件を加えさせてもらう。一つ、剣魔祭よりも四日よりも前に現地入りさせろ。二つ、依頼料は前払いで金貨10枚、依頼に成功してこれば金貨20枚追加だ。三つ、絶対に俺の仲間に危害を加えさせるな。」
「う、うむ……。分かった、何とかしてみよう。」
よし、これで交渉成立だ。
一つ目は単純に時間稼ぎだ。幾らなんでも一日二日じゃ少し足りないからな。
二つ目は更に単純、お金がないからだ。金は結構大事だしな。
三つ目は俺の仲間……ケネスやアビー、アースリアたちが『サラマンダー』の奴らからの報復を防ぐためだ。
この三つで俺の不安材料を取り除ける。
「最後に……お主の父親たちは壮健かのう」
「………。」
俺はドリスの最後の質問に口を塞ぐ。
あまり言いたくない。何せ、あの時の記憶が甦り、怒り狂うかもしれない。だが、いつかバレることでもあろう。なら、今言っておいた方が良いだろう。
「親父たちは……全員死んだ。」
「……なん、じゃと?」
「親父たちだけじゃない。村の皆も、俺以外は全員死んだ。」
「……悪かった。」
俺の怒りを堪えた冷淡な言葉にドリスは謝罪した。その目には涙が溜まっていた。
「別にいい。それじゃあ、俺は寮に帰らせてもらう。」
「……良いじゃろう。」
俺は扉を開け、学園長室から出ていった。
さて、これで眠れるぞ~!
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「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
誰もいない部屋、儂は大粒の涙を流す。
耐えれて良かった。あの子の前じゃこのような醜態、晒せる筈がなかろう。
「何故じゃ!?何故セレナやオレガノ程の者たちが死んだのじゃ!?」
儂は悲しみのあまり、抑えきれない魔力を暴走させ、部屋の中に高密度の魔力の暴風が吹き荒れる。
幾ら元Aランクだとしても彼女らなら生きながらえることも可能じゃろう。なのに、何故!?
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼなのじゃ!?
「……ルーナはまだ何か隠しておるはずじゃ。」
何故の中、儂は一つの仮説にたどり着いた。
もし、ルーナが父親たちといたのなら確実に殺した犯人も知っているはずじゃ。なのに、言わんかった。何故じゃ?
「……覚えておれ、犯人……!見つけたら、確実に儂がこの手で……殺してやる。」
儂は仮説を脳の片隅に置き、一つに誓いを立てる。
絶妙に……殺してやるのじゃ……!!




