閑話 月の始まり 中前編
「ふう……。」
俺は喧嘩を売って来た同業者たちを殴り倒し、その一人の背中に腰を掛ける。
登録してから数ヶ月が経過したが、このように喧嘩を売ってくる冒険者や俺を半端者だと言って報酬を少なくする依頼者が後を経たない。正直に言って面倒でしかない。
「ルーナ君、いくらなんでもここまでやらなくても……。」
「いや、攻撃してくる敵に話し合いで解決しようとする馬鹿はいないだろ。」
俺の状況を見かねたラルは注意するが、俺は簡単に反論する。
俺にとっても喧嘩なんて面倒だからやりたくないが、相手から喧嘩を売ってくるのなら話は別だ。問答無用で喧嘩を買う。
「それに、こうでもしなきゃ実力の差がわからんからな、こいつらは。」
俺をハーフ・エルフだからだと言って差別してくる奴は多い。そんな奴らから身を守る為には実力の差を思い知らせる必要がある。
「それはそうだけど……。」
ラルの奴、正しい理屈だと知っているのに思いがそれを認めていないようだな。そんな複雑な顔をしている。
……まぁ、俺から見ても、こいつは優しい性格をしているし、当然か。優しい性格をしている奴ほど戦いを拒む癖みたいなものがあるからな。拒む奴は戦いをする人を拒絶していまう。だから戦いを戒める言葉を口からだすことができる。
(……前世の俺も同じだったな。)
昔は穏やかな性格だったせいか喧嘩をしている人を見ると仲裁に入ったことも多かったな。
今では喧嘩をする側だけどな。
『緊急依頼発令、緊急依頼発令。全冒険者、職員に次ぐ。緊急依頼発令したり。』
突如、ギルドの室内にある音の魔道具から大音量のサイレンと緊急依頼の情報が流された。
緊急依頼……?確か、通常の依頼とは違って都市、または国家存亡の危機にのみ発令される特殊な依頼だったな。
「ルーナ君、ちょっといってくるね。」
ラルは俺を置いて受付の方に戻っていった。恐らく緊急依頼の内容を知るためだろう。
取りあえず、他の冒険者に聞いてみるか。
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失敗した。
誰一人として緊急依頼について話してくれなかった。
俺は予想以上に嫌われているようだな……。
『全冒険者に通達。今回の緊急依頼は大規模なゴブリンの巣の排除です。』
この声は……ラルか。
それにしてもゴブリンの巣?確かゴブリンはランクに表すと『E』。最低ランクの魔物だぞ?いや、大規模と言っているくらいだし、何か理由があるのか?
『斥候によりますと数は最低でも八千体。そして、統率者として『ゴブリンロード』、またはそれ以上の存在がいる可能性が高いです。』
おいおい、まじかよ……。
ゴブリンロードと言えばBランクの魔物じゃないかよ……。確か、特殊な能力があったはず。確か……。
「ゴブリンロード……確か他のゴブリンの能力を一段階上昇させる特殊能力があったはずですが……。」
「……同じ事を考えていたやつがやつがいたようだな。」
俺の隣の同じ事を考えた奴の方を見た。
栗髪の髪に尖った耳。そしてマントにローブを羽織り、手には杖を持っている俺と同じくらいの年の少女がいた。
「では、君も?」
「まぁな。」
「ふーん……。あ、僕の名前はエリカ。よろしく。」
「……俺はルーナだ。」
「ルーナ……月か……。うん、よろしく。」
『これより、パーティーを分けます。街の広場にお待ち下さい。』
広場……ここから少し離れた場所にあるところだな。
「一緒に行かない?」
「……わかった。」
満面の笑みを浮かべてくるエリカに俺は渋々ながらついていくことにした。
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「凄い人だかりだね……。」
「……あぁ。」
俺とエリカが広場についた時には既に多くの冒険者がいた。
おっ、よく見たら街の至るところにあの魔道具があるな。まぁ、あのサイレンと音声は街にいた冒険者全員が聞く必要があるし当然か。
「全員こちらを向けぇ!!」
うわっ!?なんだこの大声は!?つい、声の聞こえた方向を向いてしまったぞ!?
向いた方向にはドワーフのおっさんがいた。
フルプレートの鎧に、長い髭を束ね、大きな斧を二本携えていて、見るからに強そうな気配を出している。
「誰だ、あれ。」
「元Sランク冒険者で、この街のギルドマスター……ジョセフ・ロアだよ。」
ナイス解説、エリカ。
それにしてもギルドマスターが出てくるほどの事態なのか……。いや、それほどの危機でなければ緊急依頼なんて出ることもないか。
「うるさいですよ、ギルマス。」
「う、うむ……そうじゃったのか……すまんかったな、皆の衆。」
隣の綺麗なスーツを着たヒューマンの麗人に怒られているな。あの人は一体だ
「あの人はこの街のギルドのサブマスター。レディス・カルミアだよ。」
「……心読むなよ。」
「予想できるよ。」
否定できない。
『それでは、パーティーを編成する。』
ジョセフがマイクのような魔道具を使って話し始めた。まぁ、あの大声で話されても困るしな。
パーティーを編成?何でだ?普通ならこの中で最も強い冒険者たちのパーティーをぶつければ勝てるだろうに……。
いや、もしかして……
「「ギルドは全員の相性を理解しているのか?」」
どうやらエリカも同じ事を考えていたようだな……。
エリカの奴、本当に頭が良いな。俺は転生者だったから頭は良いが、エリカは現地人だ。普通なら経験を少しずつ経験を積み始める歳だ。それなのに異常なまでに聡明だ。何でだろう……。
「……僕は故郷から追い出されたんだ。異常なまでに頭が良かったからね。」
また心を読んだよ……。
「それに……故郷で禁忌とされている精霊魔法に適正があったからね……。僕の村はヒューマン至上主義の村だったから。」
エリカは少し悲しそうな顔をして話した。恐らく両親とも離ればなれになったからだろう……。
それにしても、精霊魔法が禁忌、ねぇ……。それはなんて窮屈な村なんだろうな。
『えー、それでは職員が手渡す紙の指示に従ってくれ。』
「あ、ルーナ君とエリカちゃんはこれね。」
丁度ラルが来たな。
「なぁ、ラル。何で手が震えているんだ?」
紙を持ったラルの手が異様なまでに震えていた。ラルはあんな感じになることは数ヶ月の付き合いだけど見たことがない。何かあるのか?
「し、失礼します!」
ラルは何も言わず、俺らから走って立ち去っていった。
それよりも、俺のパーティーは誰なんだ?
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パーティー10
リーダー
・ルーナ
サブリーダー
・エリカ
メンバー
・エラ
・アルン
・ジャスミン
役割:先鋒
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……うん、ふざけているのかな?
「何で俺がリーダーなんだ!?」
「ま、まぁ落ち着いて落ち着いて。」
「そうだぞ。落ち着けよ、我らのリーダーさん。」
エリカと違う声が聞こえたのでそっちの方向を見ると少し年上そうなヒューマンの少年がいた。
ボサボサのくすんだ灰色の髪にそれとは違って爛々と赤く輝く瞳、そして腰に一本の長剣を携えていた。
「……誰だ?」
「誰ですか?」
「俺っちの名前はアルン。よろしくな。」
「あら、私たちもいますよ。」
「……うん。」
アルンの後ろからドワーフの少女と兎の獣人の少女が歩いてきた。どちらも見た感じ俺らとそう大差のないほどの年齢ばかりだ。
ドワーフの少女はドワーフ特有の低身長と褐色の肌、腰まである長い黒髪|エメラルド色の右目と空色の左目、そして神官のような服装と杖を持っている。
兎の獣人は、兎の獣人にしては珍しい切り揃えられた黒髪と黒い軽装の鎧に、ぼろきれのような黒いマントを羽織っている。
総合して見た感じ、アルンは前衛、ドワーフは回復役、兎の獣人は斥候、エリカは魔法使い俺は遊撃手と言ったところか。実にバランスの良いパーティーだな。
「あ、私の名前はジャスミン。回復魔法の魔法使いですが、棒術も使えます。よろしくですね、ルーナさん、エリカさん、アルンさん。」
「……エラ。戦いかたはナイフ。」
「よろしくな。」
「よろしくね。」
「おう、よろしくな。」
『えー、全員が揃いましたら北門に馬車の用意がされているから乗り込んで下さい。』
「それじゃあいくか。」
「おい、リーダー。リーダーとして一つ聞きたい。……俺っちら全員が生き残れる可能性はあるか?」
俺らが向かおうした矢先、アルンが目が笑ってない笑みを浮かべながら質問をしてきた。
「……それを掴むには俺たち全員の力が必要だ。」
単純な話だが、戦いにおいて真の勝者になれるのは勝つ心意気があるものだけだ。もし、なかったら勝てるものも勝てない。
「…ならいいや。」
「さっさと行くぞ。」
「おう!」
俺たちは再び馬車の方に歩き出した。
……これがこのパーティーの始まりだった。
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「……行ったか。」
「ええ、全員行きました。」
儂は馬車に乗った冒険者全員を見送った。無論、隣にはレディスがいる。
「ギルドマスター!」
……この声はたしか。
「……何のようだ、ラル。」
「何故……何故ルーナ君たち『異端者』を先鋒に出したのですか!?」
ラルは今にでも泣きそうな顔をしながら訴えてきた。
異端者、それは普通の冒険者としては異質であり異常なステータスを持った存在たちのことだ。
ルーナ・ムーマは圧倒的な魔力量や体力、異質な魔法適正、特殊な加護。
エリカは国家の重鎮のみ知られている加護『叡智』と『賢者』、『多重演算』そしてルーナを越える魔力量。
アルンは特殊な魔法適正『混沌』と『創造』。
ジャスミンもアルン同様特殊な魔法適正の『治癒』と『死霊』。
エラは最高位の加護である『毒姫』や『虚構の仮面』、『時間時計』。
ラルが言うパーティーのメンバーは全員が異端者で構成されている。
「決まっておるだろ……殺すためだよ。」
「なっ……!?」
ラルは儂の言葉に絶句しておるがそこまでか?
異端者たちは恐ろしい力を使う怪物そのもの。人間ではない。そんな奴らが人と一緒に過ごすなんてあり得ん。
「今すぐ彼らを返して下さい!そうしないと彼らが
「……レディス。」
「はい。」
絶句しているラルの腹にレディスは拳を叩き込み、気絶させてギルドの方につれていく。
儂らに逆らうとどうなるかたっぷりと教え込まなければならないからな。
「ぐふっ、ぐふふふ。」
いかん、つい笑みを浮かべてしまった。
だが、良いだろう。しっかりと楽しませてもらうぞ。




