入学
「さて、今日は合格発表の日だったな。」
「はい、そうです。ルーナ様。」
俺とアースリアは朝ごはんの変わりに携帯食糧の干し肉を食べながら学校の方に向かって歩いている。
干し肉は固くて噛み千切りにくいし、何より味が全くしない。ま、干し肉とはいえ食べれるだけマシなんだけれど。ねぇ……。
「前のオーク肉の方が美味しかったです……。」
アースリアですらオーク肉が恋しがっているほどこの肉は不味い。
「仕方ないだろ?携帯食糧は大体こんなものだし、これでも美味しい方だぞ?」
「これで……ですか……。」
俺の言葉を聞いたアースリアは顔をしかめた。
(うわっ、露骨に嫌そうな顔をしている。けど、これは本当なんだよな。)
昔、俺が冒険者になって最初の頃に立ち寄った町で買った干し肉なんて不味さのあまりに路肩で吐いてしまった程だぞ?食べれるのならまだマシだよ。
「お、どんどん人が多くなってきたな。」
「そうですね。……少々隠れます。『私を見れるのはあなただけ。貴方は私をみれるただ一人の者[六分儀の瞳』」
学園に近づくにつれ、此方を見てくる受験者が多くなってきた為アースリアは魔法を使った。
アースリアは俺のように影を薄くする技術を持ち合わせているわけではない。かと言ってそのままで行くと確実に目立つ。その為、この魔法[六分儀の瞳]を使用したのだろう。
アースリアの話しではこの魔法は『対象以外からの視覚からは見えなくする』という主に護衛や暗殺、諜報などに使える魔法らしい。
実際、先ほどまで此方を見ていた奴らはアースリアの姿が見えなくなって顎が落ちるのかと思うほど口を開けている。
『ルーナ様、私の姿が見えますか?』
「(ああ。)」
アースリアが話しかけてきたから小声で返す。
端から見れば何もないところに話しかけている痛い奴だからな、俺。
「(取りあえず、さっさといくぞ。)」
『はい!』
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学園についた俺は正門の前にある合否のボードを見に行った。
「あ、ルーナさん!」
「やっときたの?ルーナ。」
丁度俺と同じタイミングでアビーとシルクがきた。てか、俺は今、影を薄くする技術を使っているはずなんだが……まあ、あくまで影を薄くするだけ、アースリアのように実際に姿を消しているわけではないし、見つかることもあるだろう。
「二人は合格したのか?」
「あ、はい!」
「もちろんよ。あ、ルーナも見に行ったら?」
何故かニヤニヤとしているアビーに言われた通りにボードを見に行く。
「俺の番号は……あ、あった。」
『ありましたね……。一番上に。』
俺の番号は何故かボードの一番上にあった。しかも、特待生枠という訳のわからない括りの中でも一番だな。
「おめでとう、ルーナ。君は主席合格をしたんだ。」
「………。」
後ろから手を肩にかけてくるケネスの言葉を聞き、取りあえず肺の中に名一杯空気を入れ……
「はあああああああああああああああああああああああああ!?」
大絶叫した。
はあっ!?何で俺が主席合格!?確かにテストであっさりと答えを書いているし、模擬戦でもケネスを秒殺しているし、確かに主席合格するだけの実績はある。あるけれど……!
「本来、こういう時は身分が高い奴がやった方が皆が纏まるんじゃないか?」
「確かにそうだけど、これはこの学校の仕来たりなんだ。」
「それに、ハーフエルフの平民が主席だというのは大きなメリットも存在するのじゃよ。」
ん?なんだ?ケネスの言葉を付け加えるように誰かが説明したようだが……?どこにいるんだ?
「おい、わっぱ。こっちじゃこっち。」
下の方から声が聞こえたきたから見てみると白髪で緑色の目をした小学生位の少女がいた。
「おい、何でこんなところにガキがいるんだ?」
「ムッキイーー!誰がガキじゃ!儂の名前はドリス・ホワイト、この学園の学園長じゃ。この学園で最も長寿なのじゃ、オレガノの息子よ!」
「は、はあ……。て、何でオレガノ……父さんのことを知ってるんだ!?」
「当たり前じゃ!何だってあやつはこの学園の教員じゃったし、お主の母、セレナも見たこともある。お主はセレナたちとは似つかない銀髪じゃが、その顔立ちは若かりし頃のセレナそっくりじゃ。」
そう言えばオレガノはここの教員だったな……。すっかり忘れてた。てか、母さんよりも年上なのか……こんなにちっさいのに。
「そう言えば、オレガノやセレナ、カイやクリオラは元気にしておるのかい?」
「そんなことよりも、俺はこの後どうすればいいんだ?ドリス。」
ドリスの質問に俺は今は答えない。こんな幸せが溢れている場所で言うのは少々気が引ける。
「ぬ……?取りあえず、入学式の際に壇上に上がり入学証書を渡すだけじゃ。」
なんだ、ならよかった。
「取りあえず、俺は会場に行っているで。」
淡白な言い方だが、ドリスを突き放しておかないと俺やアースリアの目標を悟ってしまう気がする。それは困る。俺は無駄に人を殺すのは気にくわない。そんな事をすれば俺はあの糞勇者たちと同じになってしまう。そんなのは俺もアースリアも望んでいないはずだし、復讐者は誰よりも誇り高くなければならない。一線を越えてしまえばただの殺戮者だ。
『ルーナ様、先ほどのお方は一体……。』
「(俺の母さんたちの知り合い。)」
『………消しましょうか?』
「(……おい、それは駄目だろ。)」
アースリアがドリスを殺そうとするのをとめる。嫌々、それは駄目だろ。
『…わかりました。』
「ルーナ、だれと話しているんだ?」
「ん?ああ、アースリア、もう解いてもいいよ。」
『分かりました。』
俺の言葉に従い、アースリアは魔法を解き、深い礼をした。
「初めて、私の名前はアースリア・リーン、ルーナ様の奴隷です。」
「アースリア?家のディアナが言っていた名前だな。そうか、ルーナ君が主だったのか。」
「家のツバキを相手に圧勝した奴隷の?ルーナ、あんたの奴隷だったなんて知らなかった。」
「ええ。ツバキさんはとても強かったです。」
アースリアのことを知っているんだ、まぁ、彼らの奴隷たち経由で知られているか。
「おい、そろそろいく
「何故貴様のようなハーフが主席なのだ!!」
………行こうとしたらオークと見間違えるような巨体が喚いて来やがった。
「誰だ?」
「……ヘイスティングズ・ナイト。僕の家と同じ悪徳貴族だよ。しかも、僕たちよりも残酷で卑劣、その上悪辣な手口で裏社会でも有名なんだ。」
ナイス解説、ケネス。
てか、俺はそんな貴族に目をつけられたのか。本音を言えばどうでもいいし、興味を持つ価値もないほど低俗で矮小な存在だと見ただけでわかるが、こんなのもこの学園に入るのか……。面倒な。
「貴様のような半端者は我のような高潔な存在と一緒に学ぼうなど片腹痛いは!」
高潔?下劣の間違いでは?
「その上、下等な獣である魔族の人のなりそこないを連れているとはまさに人以下の存在よ!」
「……あ?」
つい、俺はブタ男の胸ぐらを左手で掴み
「[夜風・常闇穿ち]」
「ぐぴゅう!?」
もう一つの手でピッグマンの腹に拳を叩き込んだら、ピッグマンは気持ち悪い声を出して校舎に突き刺さった。
常闇穿ち、俺の『夜風』の魔法の一つで本来は殴った物を貫通するほどの威力を誇る魔法だが、今回は威力を抑えてただ吹き飛ばしただけだ。
「ルーナさん!?」
「ルーナ君、いくらなんでもやり過ぎだ!」
「生憎、俺はあそこまで馬鹿にされて怒りを押さえ込んでおくほどお人好しじゃないし……何より、あいつは俺の兄さんや母さん、妹を馬鹿にした。許す理由も道理もない。」
シルクとケネスの言葉を俺は首を振って否定する。
人のなりそこない。それは獣人やエルフといったヒューマン以外の種族につけられた蔑称だ。人……ヒューマンとは違うと言うことは人間ではないと言うヒューマンたちの歪んだ思想。その結果多くの獣人やエルフ、ドワーフたちが死んでいった。そんな環境で生まれた今では殆どないが閉鎖的な村や貴族には言う奴がいる排他的な言葉だ。
「それはそうだけど……。」
「この……ハーフの癖に……!この我の美しい顔に傷がついたではないか!」
突き刺さった校舎から出てきたピッグマンが戯れ言を言いながらこちらに近付いてくる。
(美しい?何処をどう見ても醜悪と言う言葉しか浮かんでこないが。)
オークみたいに太っている上、顔は脂汗と傷から流れ出た血液で元々醜い顔が更に醜くなっている。
「よせ、お主ら。[蜘蛛糸の女王]。」
突如、俺とピッグマンの間に入ってきたドリスは赤い糸でできた結界を作り上げた。
(……動きにくい。行動阻害系の魔法か。)
だとしたら別にどうと言うことではない。この程度の魔法……恐らく呪詛ならすぐに解ける。
「お主ら、頭を冷やすまでここからでる
「生憎、そんな暇はないので出させてもらいます。[紙破り]」
ドリスが言葉を言い切る前に、紙が破れるような音と共に結界が解除された。
「なっ!?まさかルーナ、お主が!?」
「ああ。俺は呪詛には嫌な思い出があるからな、呪詛の対策は怠っていない。」
クリオラを間接的に殺したのはあの糞魔法使いコーレナの呪詛が付与された武器が原因だ。
それなら、もし呪詛をかけられたとしても解除する方法や回復させる方法を作り出しておくのは当然だ。
「お主……まあ、喧嘩を売ってきたのはあそこのヘイスティングズの坊主が原因だし、今回はおとがめなしじゃ。」
「ありがとうございます。」
「ただし、もし次問題行動を起こしたら……許さんぞ。儂の呪詛によってきっちりと罰するからの。」
「無理ですよ。だって俺は呪詛を解除する方法ならいくらでももっているからな。」
「ふっ、ぬかせ。」
立ち去り際に捨て言葉のようなことを言ってドリスは立ち去っていった。
「ルーナ、あんたあんなに強かったの!?」
「ルーナさん、どうやってあの元Sランク冒険者『黒魔導師』ドリス・ホワイト様の魔法を解除したのですか!?」
ドリスの後ろ姿を見送った俺にアビーとシルクが全速力で近づいてきて、興奮しながら質問してきた。
てか、ドリスはSランク冒険者だったのか。確かにあれほどの呪詛を使うのなら確かにSランクに等しいだろうな。でも、俺たちのようなAランク……の中でもSランクに届くとされていながらも様々なものが足りずにSランクになれない奴らもいるわけだがな。
ちなみに俺の場合は『年齢が足りない』とのこと。
「あー、企業秘密だ。それに、早く行かないと入学式が始まるぞ。」
「えっ!?た、確かに。」
「ちょっと、先に言いなさいよ!」
「ルーナ君、アースリアさんも急いでください!」
「あー、わかってる。」
「のんびりしてないで早くして下さいルーナ様!」
話しを変えたらアビーたちや俺らの周りにいた入学者が慌てて入学式をやる講堂に向けて走りだした。
「かっか!お主には今回は罰をくださない本当の理由は入学式に間に合わせるためじゃ。……あ、セレナやオレガノ、カイやクリオラの今の状況について聞くのを忘れておったな。また今度聞いてみるか。」
因みに、ヘイスティングズは講堂には行かず、お抱えの回復魔法を使える従者に顔を回復させてもらっていた。




