狂人との激突
「どうし……」
予想にもしなかった。いや、勇者たちでは予想することすら出来なかった裏切りに抗議の声を上げようとした瞬間、ユウヤは白い光に変わり、消えた。
これに関しては俺も予想外だったが……でも、これでわかった。こいつこそがあの魔道具を売った外道だ。
「……お前、何をしたのか分かってるのか?」
「くひひっ!分かっているとも。邪魔者を排除した、それだけだよ。」
俺は無表情で二本の刀を構え、スズネは銃を突きつけながら心底楽しそうに俺に狂気に満ちた笑顔を浮かべる。
こいつ……一体何の目的があってやったんだ?このタイミングで味方を消す理由なんてないのに。
「僕は君を消すために他の人が消えるのを待ったのさ。」
「……何故だ。」
「そりゃあ勿論、この世界で生きやすくするためさ!ここでこの大会で最高レベルの実力者である君を消せば金も、地位も、女も他の勇者どもよりも越えれるからな!」
「……なるほどな。」
狂気の笑みを張り付けながらスズネは楽しそうに話す。その隙に俺は簡単な瞑想を行い魔力を回復させる。
こいつも俺も同じだ。『復讐』と『名誉』という傍目から見たら理解の出来ないもの自己のためだけに戦っている。まさに、狂人だ。
けどな、お前と俺は明確な違いがある。
「お前がどんなエゴを持っているかはどうでもいい。けどな、そのエゴのためだけに関係ない人間を巻き込んだのは許すつもりはない。」
「ッ!!」
俺の白い刀が振られるのと同時に打ち出される風の刃をスズネはギリギリのところで避ける。
こいつは多くの人を巻き込んだ。カスミやセチア、ユウヤ、タクヤ、リリカ、カガリ。俺が知る知らない問わず多くの人がこいつのせいで悲劇に出会ってしまった。
それは…………看過できない。するつもりもない。悲劇は何があっても避けなければいけないものだ。それを与える存在を……許されるとでも思ってるのか?
「くっ……!こい、『ゲオルギウス』!!」
「ッ!!」
突如、スズネの真上から超高密度の魔力が降りそそぎ、その光の塔から避けるために後ろに回転する。
このエネルギー……感じたことがある。セチアが囚われていたあの魔道具か……!しかも、このエネルギー、あの模造品ではなく原典か……!
『く、くひひひひひひひっ!これで、これでお前を殺してやるよおおおおおお!』
「ちっ!![夜風・『剣式』夜刀」
スズネを取り込んだ『ゲオルギウス』の両腕に取り付けられたマシンガンから放たれる魔力の弾を黒い風を纏わせた双刀で最低限切り裂き防ぐ。
だが、あくまで最低限。頭を掠め、脚を掠め、肺に当たり、腕を穿つ。俺は一瞬で満身創痍の状態になってしまった。
『死ねえええええええええええええ!!』
「死んでたまるかあぁぁぁぁ![夜風・夜刀]!」
巨大な両肩に取り付けられた三対六門の砲台から放たれた高密度のエネルギーの主砲を辺りに散らばる風の刃を白い刀に集め、円の描くように凪ぎ払う。
全ての砲台から放たれた高密度のエネルギーの主砲に当たった瞬間、爆発。辺り一体に凄まじい衝撃と轟音が響きわたる。
これは千載一遇のチャンスだ……!
「[暴虐なる精霊よ」
『来させるかああああああぁぁぁぁ!』
最後の特攻に走る俺を迎え撃つために全ての武装から攻撃を放つが、俺はそれを最低限に防ぎ、精霊魔法の詠唱を始める。
これは『平行詠唱』。詠唱をしながら他の戦闘行動をする高等技術だ。これは俺以外にも使え、だいたいBランクの魔法専門の冒険者ならほぼ全員が使える技術だ。
最も、この技術は今の俺には危険だけどな……!
「[荒ぶる激情よ」
『こっちに来るなああああぁぁぁぁ!!』
自分の持てる最高速度で近づく俺に恐怖したスズネは自分の持てる魔力全てをつぎ込み迎撃する。
俺も持てる力を最大限に振り絞る。
「[憎悪を糧に燃え上がれ『タイラント・スカーレット』]!!」
加速と比例して更にボロボロとなる体が崩れるギリギリのところで魔法の詠唱が終わり、この山全てを焼き尽くす赤い恒星が生まれた。
この魔法は俺が持つ『憎悪』に比例して攻撃の火力が増幅する。まさに、『暴虐』の『赤』、か。
『ふざけるなああああああ!』
「消し飛べええええええええええええ!」
黒い刀を振り下ろすのと同時に赤い恒星が絶望の顔をしたスズネとそれを取り込んだ『ゲオルギウス』の真上に堕ち、迎撃の向きを俺から赤い恒星に変えたものの、あっさりと呑み込まれる。
呑み込まれた瞬間、赤い恒星は核爆弾を優に超えるエネルギーを辺りに撒き散らす。それに俺は巻き込まれ、魔力を取り戻す。
この魔法、衝撃や熱まで全て俺の魔力で出来ているからその多くを自分の魔力に再び戻すことは造作でもない。
「さて、まずは傷の手当てでもしようか。」
岩盤まで抉られた場所の隣で俺は傷に『アビス』から取り出した包帯を巻く。
さて、巻き終えたらまた闘いの始まりだ。




