0.5 一方その頃現場では
なに今頃続きを投稿しておるのか、というカンジでございますが、まことに申し訳ありません<(_ _)>
一度パソコンのHDDが吹っ飛んだショックで設定などを書いていたデータもろもろ道連れにお釈迦になってしまいまして;;。
しかし書きかけの文章がなろうのマイページに残ってましたので、2年の時を経てその続きを多少の手直しと共に書かせて頂きました。…ですが、相変わらず設定あぼんで次話の目処は立っておりません;;
時は8月29日の午後20時過ぎに巻き戻る。
「俺はよぉ、うちのオヤジみてぇに客にヘコヘコ頭下げなきゃなんねぇ仕事には就きたくねぇんだよな」
「分かるわーそれ。頭下げるなんざダセぇ真似できっかよなぁ?
…なぁ新入り、てめぇもそう思うだろ??」
「そ…そっスねー…」
ギャハハハ!倉庫に轟くバカ笑いを聞きつつ、新入りと呼ばれた少年……に見えるけど実は当年とって30歳の超童顔、斎藤雅哉はこめかみに青スジを立てて奥歯をギリリと食いしばっていた…。
(…このクソガキどもを一人残らずぶん殴りてぇ……っ!!)
世の大人はだいたい、人様に頭を下げねばならない仕事に就いている。
斎藤雅哉は声を大にして叫びたかった。
(世の中ナメくさったガキどもなんか全部滅びればいいのに…!!!)
社会に出るということは厳しいことだ。
彼もまた、日々上司、顧客に頭を下げて、涙を飲み込みながら生きている。
さて、この斎藤であるが実は嵯峨傘下の調査会社に勤務しているれっきとした社会人である。
その異常過ぎる童顔を買われて【ローカダートゥ】の本拠地である港南地区の廃物流倉庫への潜入を上司に命じられたのだ。本人の名誉の為にも敢えて特筆するが、けして30歳を過ぎてもまだグレている痛い青年というわけではない。
彼は尚も絡んで来ようとする少年たちを交わしながら、ふらりと倉庫を出るとすぐさま人気のない建物外のパレット置き場へ入り込んだ。(※注:パレット=荷物を運ぶ際下敷きにする板。だいたい正方形)
そして捨てるしかないボロボロの木製パレットが積み上がっているその陰でしゃがみ込むや、ポケットからスマホサイズの無線機を取りだしインカムを装着する。
「CQ CQ……こちらBabyFace、応答願います」
『…こちらGang、BabyFace、聴こえている』
「ターゲット、1分程前にキング及び従者数名と共に出発。恐らく帰宅の模様。尚、乗車しているのはシルバーのセドリック2.5 250L」
『了解。直ちにこちらで追尾する』
連絡を終えた斎藤は、何気ない顔を装いながら、パレット置き場から屋外のトイレのある方向へのんびりと歩いて行った。
その道中、原付が大量に停めてある一角に覚えのある顔を見つけて、咄嗟にドラム缶の影に身を屈める。
(…ちょっと遠いか…)
彼が潜む場所から原付の傍にたむろする3人の少年達までは、離れ過ぎていて声を拾うのが難しい。
やむなく斎藤は、ブルゾンのポケットから集音器を取りだすと、マイク部分を彼らに向け片耳イヤホンを装着し、更には録音スイッチをオンにした。
3人の少年は、時折人気を気にしながら、顔を突き合わせてひそひそと話をしている。その様子から密談の類であるのは明らかだったが、イヤホン越しに聴こえてくる内容は斎藤の顔を思わずニヤケさせる程の、望んでいた情報だった。
(…所詮ガキだな…、こんな場所で大事な情報洩らすなんてなぁ…)
というか、こんな迂闊なガキ相手に警察は二の足を踏んでいるのか…。
斎藤はちょっと遠い目をした。
いくら【ローカダートゥ】が天童の圧力で暗黙の不可侵地帯になってるからといって、これ程穴だらけのガキどもにいまだたどり着けないのが信じられない。
(税金ドロボーって言われても仕方ねぇぞ…、てか、俺の税金返しやがれ…)
前回のボーナスで所得税と住民税を容赦なく差っ引かれた男は、そっと眦を拭ったのであった…。
一方、斎藤からの無線を受けてすぐに、微かな音と共に路肩からアスファルトを滑り出した一台の黒い小型車がある。
嵯峨の調査会社で最近導入されたばかりの日●リーフ。
主に尾行業務で使用されるそれは、今も車内に二人の男が着座しており運転席と助手席でそれぞれナビ画面を凝視していた。
「報告どおりに、ターゲットの自宅に向かってるっぽいな」
「姫様が仰るには今夜辺り動くだろうってことだったけど、どうだろうなぁこれ。今夜もこのままおやすみなさいなんじゃないのか?」
暫しセドリックのテールを追いかけた後、見なれた一軒家の前で停まったのを見届けた彼らは、見つからない程度の車間を開けて近隣の家の植え込みに潜むように車を停止した。
夜ではあるが、丁度街灯が目標の家の向かいに設置されているので光源には不自由しない。そしてまたそのお陰で今停車している場所が暗がりとなって、ターゲット達からはこちらを察知しづらいという好条件が出来上がっている。
それを利用して車内から様子を伺う二人の前で、セドリックかが一人の小柄な少女が降りてきた。
彼女は一度車内を振り返り軽く手を振ると、そのまま門扉を潜って自宅内へと入っていった。それを見届けるかのように、玄関のドアが閉まった後でセドリックもまた発車する。
「…いつも通りだな」
小さくため息をついて、助手席の男が手首に巻いた腕時計に視線を落とした。
「ターゲット、20時32分に帰宅。キングの車もターゲットを送り届けた後、同時刻に再び移動。恐らく本拠地に戻ると思われる」
運転席の男がダッシュボードから用紙を挟んだバインダーを取り出し、男の言った内容を手早く書き入れる。
「さて…今夜も退屈な監視業務かねぇ…」
記入を終えたバインダーを元の場所に戻しつつ、運転席の男が疲れたように呟いた。
「姫様の予想が当たれば退屈じゃなくなるけどな」
「だったらいいけどよ…」
「俺たちはまだマシだぜ?」やや不満げな同僚に、助手席の男がなだめるように言う。「斎藤なんか童顔ってだけでガキどもの相手しなきゃなんねーんだ。この間も人生ナメくさった態度が癪に障ってしょうがねーって俺に愚痴ってたしよ」
「あー…、童顔のせいでナメられっぱなしの人生だもんな、アイツ…」
今なお少年たちが屯する場所に潜んでいるであろう同僚の顔を思い浮かべ、少しだけ可哀想と思う。
そりゃ、30過ぎてるのにコンビニでタバコを買う度に身分証明書の提示を求められる人生なぞ、男なら嫌気がさして仕方ないだろう。
「そういや斎藤のヤツ、別件の調査については何か言ってたか?」
「あ?ああ…」
不意に尋ねられて助手席の男は一瞬目を見開いた後、頷いた。
「アレな、俺らの担当じゃねぇから詳しくは聞いてないが、どうやら姫様の予想通りだったみたいだぞ」
「マジか」
運転手の男はアチャーと大げさに天を仰いで額を手で押さえた。
「つーか、ホントうちの姫様何者だよ。ターゲットがどの男に近づくとか自分に冤罪かけてくるだろうとか、悉くあの人の予言通りになってるじゃないか」
「ターゲットに関しては行動があまりにも分かりやすい人物だからとか仰ってたそうだけどな」
「だけど、別件のことはそれじゃ説明つかないだろ」
「…嵯峨の血は1000年以上続いてるらしいから…何か俺たちには理解できん未知の力が宿ってても不思議はないよなぁ…」
突然非現実的な事を口にする同僚を、運転手の男は気味悪げに見つめた。
「やめろよ…ホントにその通りな気がしてくるじゃねーか…」
実際には環にゲームの知識が有っただけの話であるから、彼らの不安はまったくの杞憂である。
しかしそれを知らない二人の男は、示し合わせたように背筋を悪寒で震わせた。
その時である。
「…おい!」
フロントガラスの向こうで先程閉まったのを確認したドアが再び開いたのが見えた。
男たちの顔が瞬時に引き締まる中で、ドアの影から一人の小柄な少女の姿が現れる。それは先ほど見た制服姿ではなく、とても暴走族とつきあっているとは思えない原宿系の可愛らしい私服姿。
間違いなくターゲットの松本みらいである。
「…動いたのか、まさか…」
半信半疑だったのに環の予想がまたしても的中したのである。男二人は彼らが車を止めているのとは逆の方向へと歩いていく後姿を驚きと共に見送った。
「…っと、ボケっとしてる場合じゃねぇ!」
助手席の男はすぐさま腕時計で時間を確認すると、運転席の男の肩をバシっと軽く叩いた。
「おい!21時02分、ターゲット外出だ!後追うぞ!!」
「…っ!!」
運転席の男が我に返ったのを確認してから、助手席の男はドアを開けて外に飛び出す。
「おまえは車を頼む。俺が徒歩でターゲットを追うから時間を置いて後をついてこい」
「わかった」
助手席の男が少女の後を追って車から遠ざかっていく。
運転席の男はバインダーの報告書に再び記入してから、カーナビの地図上を動く二つのポイントを目で追いつつきっかり5分後にアクセルを踏んだのである。




