第4話「バックス」
“バックス”——それは、イカロス亡き今もLUNAS FACTORYで量産され続けている、完全無人型の宇宙用SD。
元々は、イカロスが提唱していた人類宇宙進出計画である“スペリオル計画”のために開発された宇宙作業用SD。
しかし、当然ながら戦闘能力も備えている。
バックスは、その両手に武器を携えていた。
◆
「一体何機出てやがるんだ……!」
烈は思わず声を上げた。
バックスは、ざっと見ただけでも優に40機以上。
そして、フレアⅢ級の兵器を護衛するのであれば、それ以上の数が投入されるのは間違いないだろう。
「予定通り、あれは俺と怜がやる!2人は引き続きジャマーを頼む!」
閃が指示を飛ばす。
「おう!」
「わかった!」
烈と音が即座に応えた。
「怜、行くぞ!」
「うん!」
閃の呼びかけに、怜が短く返す。
そして——
バサラヲとシラユキは、先行してバックスの大群へと向かっていった。
◆
バサラヲは標的をバックスへと切り替え、両手のガトリングガンを連射した。
シラユキも《氷弾》を広範囲に放つ。
数機のバックスは、瞬く間に破壊された。
だが、即座に反撃を開始。
複数のバックスが、手に持ったENライフルを一斉に発射した。
Pジャマー発生下であっても、味方兵器同士で周波数を同期させることで、妨害の影響を受けずに通信やEN兵器の運用が可能となる。
つまり、相手だけを妨害しながら、自軍は一方的にEN兵器を使用できるということだ。
この戦術は世界大戦時、各国で頻繁に用いられていた。
もっとも、その分対策も数多く存在し、決して万能ではない。
バックスのENライフルも、Pジャマーによる影響を受けてはいなかった。
バサラヲとシラユキは攻撃を一時中断し、飛来する光弾の雨を回避するため機体を翻した。
◆
2機がバックスを引きつけている間に、レンゴクとツムギはさらにフレアⅢへと接近していた。
「音!ジャマーの破壊率は!?」
レンゴクのキャノンを放ちながら、烈が叫ぶ。
「25パーセント!40パーセントくらい破壊できたら大丈夫!」
通信妨害の影響で音声はノイズまみれだったが、それでも音の返答は確かに届いた。
「よし!!」
烈は力強く答える。
レンゴクのビーストキャノンや、ツムギのヒスイガンブレードから放たれるエーテル弾は、ファクターではなく、コンデンサー内エーテルを消費して放出している。
そして、消費したエーテルは、エーテル循環路を介して即座に補充される。
スキルの使用が難しい今回のような状況でも、2機はその強みを十分に発揮していた。
◆
(しっかし、全然減ってる気がしないな……)
バサラヲとシラユキは、短時間のうちに最初に現れた40機以上のバックスをすでに撃破していた。
それでも次から次へと新たな機体が現れる。
Pジャマーの影響でレーダーは妨害されており、敵がどこから出現しているのか、正確な機数がどれほどなのかも現時点では把握できない。
怜との通信も、まともに行えない状態だった。
もっとも、怜ほどの実力と判断力があれば、何も心配はいらない。
閃は、そう感じていた。
そして——
(こいつら、数が多いだけだな)
閃は冷静に分析する。
バックスは宇宙用SDだけあって、機動力も運動性能も非常に高い。
だが、元々は作業用として開発された機体だからなのか、その戦術はあまりにも単調だった。
動きが極端にパターン化されており、接近戦を仕掛けることはなく、一定距離を保ちながら射撃を繰り返す。
そのため、高い運動性能も活かし切れておらず、動きが非常に読みやすい。
閃や怜からすれば、本来ならスキルを使うまでもない相手だった。
厄介なのは、その圧倒的な物量だけである。
アメリカ軍のハート部隊が壊滅したのも、性能差ではなく、その物量に押し潰された結果だった。
(ん、弾切れ!)
左側のガトリングガンが空になり、バサラヲはそれを投げ捨てる。
そして残った右側のガトリングガンを両腕で抱え込み、なおも射撃を続けた。
閃はまだスキルを使用せず、コンデンサー動力のまま手動操縦という“ハイブリッド運用”で戦い続けていた。
◆
怜もまた、次々とバックスを破壊していた。
そして、その戦闘の中である事実に気づく。
(マザーブレインからの遠隔制御……!)
怜はバックスの頭部を狙い、《氷弾》を放っていた。
通常、SDの頭部にはブレインが搭載されている。
そのため、頭部を破壊されれば機能は著しく低下し、場合によっては完全に停止する。
無人機であれば、さらにその影響は大きい。
しかし——バックスは違った。
頭部を破壊されても、そのまま何事もなかったかのように稼働を続けている。
つまり、バックス自体にはブレインが搭載されておらず、別の場所に存在するマザーブレインによって多重遠隔制御されている可能性が極めて高かった。
バックスを確実に無力化する方法は、《氷弾》による機体の氷結、あるいは機体全体の約70パーセント以上を破壊すること。
だが、幸いなことにバックス自体の戦闘力は低い。
脅威なのは、あくまでその数だけ。
怜はちらりと閃のバサラヲへ視線を向けた。
彼もまた、バックスを次々と撃墜している。
その動きに一切の乱れはない。
その様子を見た怜は、ふっと小さく笑みを浮かべた。




