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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第22話「聖なる闘争⑤」


カカロは、なおもガラガと激しい殴り合いを続けていた。


互いに満身創痍。


それでも、一歩も退かない。


拳を交わすたび、鈍い衝撃音が王宮に響き渡る。


その一方で、戦況は大きく変わっていた。


ギシャ派の兵士の大半は、すでにリビア、ロック、ナオミによって戦闘不能となっている。


さらに、ナック部隊もオートモードのバサラヲによってすべて行動不能にされていた。


役目を終えたバサラヲは、その場で静かに待機状態へ移行している。


周囲の状況を確認したリビアは口を開いた。


「私は姫様のところへ向かう」


ロックとナオミも頷く。


「なら、俺たちはファクターのところへ」


それぞれの目的は決まっていた。


3人はすぐにその場を離れ、それぞれ駆け出していく。


その場に残った兵士たちは、誰一人として口を開かなかった。


ただ静かに、カカロとガラガによる壮絶な一騎打ちを、固唾を呑んで見守っていた。



ロックとナオミは、戦闘の痕跡を頼りに閃の行方を追っていた。


ロックが足を止める。


床には、血痕が残されていた。


「新しいな」


まだ乾ききっていない。


2人は足早に先へ進んだ。


進めば進むほど、血痕は増えていく。


壁には斬撃の跡、床には砕けた瓦礫。


激戦が繰り広げられたことは一目で分かる。


しかし、その痕跡は2人を導く道標にもなっていた。


やがて、“黒い灰”が床に散らばる場所へたどり着く。


2人は反射的に鼻と口を手で覆った。


魔獣は死亡すると、その肉体は黒い灰へと変化する。


その灰には有害物質が含まれており、適切な処理が必要とされている。


一般人が長時間吸い込めば、命に関わる危険性すらあった。


だからこそ、2人は迷わず呼吸を防いだ。


(……例の魔獣か)


ロックはギャッツから聞いていた報告を思い出す。


A拠点を襲撃した、正体不明の魔獣。


2人は黒い灰の上を素早く通り抜ける。


その先には——


勢いよく蹴破られた扉があった。


「ここだな」


ロックは小さく呟く。


2人は警戒を解かぬまま、静かに部屋へ踏み込んだ。



ナオミは部屋へ入ると、そっと照明を点けた。


そこには——


大量の血を流して倒れる閃と、胸に剣を突き立てられたまま倒れているラ・オーマの姿があった。


「ナオミはファクターを頼む」


ロックは短く指示を出した。


「了解」


ナオミは即座に返事をし、迷うことなく閃のもとへ駆け寄る。


まずは頸動脈に触れ、生存を確認する。


「生きてるか?」


ロックが尋ねる。


「生きている」


ナオミはそう答えると、すぐに止血と応急処置を始めた。


その間、ロックはラ・オーマの遺体の前へしゃがみ込む。


片膝をつき、紫色のフードを静かにめくった。


現れた素顔は、痩せた体格のスキンヘッドの男。


年齢はおそらく50代ほど。


ソランティス人ではなく、アジア系の顔立ちをしていた。


どこか僧侶を思わせる静かな風貌だった。


ラ・オーマの遺体は、この後オルフェによって回収され、身元や経歴の調査が行われる予定だった。


やがてナオミは応急処置を終え、スマカを取り出す。


救護班やオルフェの関係各所へ、手際よく状況を報告していく。


ロックはラ・オーマへ再びフードをかぶせると、静かに閃へ視線を向けた。


ラ・オーマ討伐。


それは、おそらく閃でなければ成し遂げられなかった。


ロックは胸の内で、静かに呟く。


(よくやってくれた、上矢 閃)


(アンタのことは、必ず日本へ送り届ける)


(それまで——もう少しだけ、踏ん張ってくれ)



閃がラ・オーマを討伐した直後だった。


エレシャたちの行く手を阻んでいたゾンビ兵たちが、一斉にその場へ崩れ落ちる。


まるで糸が切れた操り人形のようだった。


「な、何だ……?」


兵士が戸惑いの声を上げる。


エレシャはその光景を見た瞬間、はっと息を呑んだ。


「……!閃だわ!」


その瞳に希望が宿る。


「閃が……ラ・オーマの討伐に成功したんだわ!」


「可能性は高いですね」


リビアは冷静に周囲を見回しながら答えた。


「ですが、まだ断定はできません」


「ラ・オーマが神術を解除しただけという可能性もあります」


その判断は冷静だった。


「警戒を怠るな」


リビアは兵士たちへ鋭く指示を飛ばす。


兵士たちも気を引き締め、武器を構え直した。


ゾンビ兵は動かない。


だが、本当に終わったという保証はどこにもない。


それでも、ギシャがいると思われる場所——マリガン王妃の私室までは、あとわずかだった。



リビアの耳元に装着された小型イヤモニから通信音が鳴った。


救出された際、ナオミから手渡された通信機だ。


「こちらリビア。どうした?」


リビアは短く応答する。


通信の相手はナオミだった。


「——!!」


リビアの表情がわずかに変わる。


「……分かった」


短く返答すると、通信は切れた。


リビアはゆっくりとエレシャへ向き直る。


「エレシャ姫、ラ・オーマの死亡を確認しました」


「閃が、やってくれました」


その声は、どこか安堵に満ちていた。


「閃——!!」


エレシャは思わずその名を呼ぶ。


胸の奥から込み上げる安堵に、自然と笑みがこぼれた。


周囲の兵士たちも、その報告に歓声を上げる。


「やった!」

「閃様が……!」


張り詰めていた空気が、一気に晴れていく。


しかし、リビアは静かに続けた。


「……エレシャ姫」


「ここから先は、お一人で」


エレシャは静かに頷く。


「ええ」


その瞳に迷いはなかった。


ここから先は、誰も踏み込めない場所。


ギシャとの決着は、自らの手でつけなければならない。


兄妹としてではない。


一人の王族として。


エレシャは静かに前を向く。


その先には——


マリガン王妃の私室。


決着の時は、刻一刻と近づいていた。

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