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今度こそ僕を守って

2015年4月30日 木曜日 8時15分


「失礼します……化野です」


式見蛇と共に学校へ。彼を廊下で待たせ、職員室に入る。説教が終わると鞄を渡された。職員室を出て掲示物をぼうっと眺めている式見蛇の肩をつつく。


「あ、終わった?」


「うん……ごめんね待たせて」


「ううん、全然待ってないよ。行こ」


父に殴られて腫れた頬は髪で隠して、式見蛇と共に教室に入った。


「ぉ、勇二ちゃ~ん、おはよう」


「……おはよ、塩飽君」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて寄ってきた塩飽の横をすり抜けて席に向かうが、彼に腕を掴まれた。


「何無視してんだよハゲゾンビ」


「…………おはようって言ったじゃん」


「は? 何? 聞こえな~い。ぁ、ってかお前慰謝料持ってきた? 五千円つってたよな」


塩飽は取り巻きの二人を視線で呼び、三人並んで僕を睨んだ。怯えて声が出なくなってきたその時、机に鞄を置いていた式見蛇が僕が絡まれているのに気付いて戻ってきた。


「し、式見蛇……助けて」


昨日のように庇ってくれることを期待して震える声で呟くと、彼は三人を押しのけて僕の前に立った。


「……ど、どうしたの?」


笑顔が消え、切れ長な瞳からの鋭い眼光が僕の右目に集まった。声を震わせた気弱な話し方に反して表情は恐ろしい。


「ぁ……た、助けて……欲しい……」


何に困っているのか言えと思っているだろうとは分かるのに、カツアゲされていると言うだけのことができない。喉も舌も思い通りに動かない。


「し、塩飽っ……化野さんに何したの?」


「何もしてねぇよ……行くぞ、毒島、歌祖谷」


塩飽は式見蛇の視線から逃れるように俯き、逃げようとしたが、毒島が塩飽の肩を掴んだ。


「何ビビってんだよ塩飽、式見蛇の何がコエーんだよ、図体と顔だけだろ」


図体と顔が揃えば十分だと思うのだが、彼らにとってはそうでもないらしい。


「デカいくせしてビクビクしてるビビり野郎に何ビビってんだよ、前はよくイジってたじゃん」


「いや……マジで、マジでやめろって……離して……」


「……あー! 冷めた冷めた! 行くぞ歌祖谷!」


毒島は塩飽の足を思いっ切り蹴りつけてから歌祖谷を連れて教室を出ていった。顔を上げた塩飽は泣きそうな顔になっており、慌てて毒島達を追おうとしたが、式見蛇にシャツの襟を掴まれた。


「何したんだって聞いてるんだよ、答えろよ!」


教室中に響いた大声にクラスメイトは静まり返ってこちらを向く。


「し、式見蛇、やめて、大丈夫だから」


注目されるのが嫌いな僕は塩飽のシャツを掴んでいる式見蛇の手を引っぱった。


「何をやっているの」


じっとこちらを見つめるだけのクラスメイトの中から一人の女子生徒が歩み出た。確か三瀬川(みつせがわ)と言ったか……クラス委員長だ、日本人形のような髪型のクールビューティ。


「あ、えっと……ぁ、化野さんが塩飽に何かされてたみたいで、俺に助けてって言ってきたんだよ」


式見蛇は塩飽を離して三瀬川に向き直った。すると塩飽は机にぶつかりながら教室を走って出ていった。


「そう、分かった。でも恫喝するような真似はやめて、それも詳細が分からないうちには」


「…………すいませんでした」


三瀬川の視線が僕に向く。


「化野さん、何をされたか言える?」


「え……ぁ、あっ、あのっ……ぼ、ぼっ、僕……そのっ……」


こんな静かな教室で大勢の視線を受けながら喋るなんて無理だ。しかも「トイレに連れ込まれて殴られて脱がされて写真を撮られて金を要求されています」なんて内容だぞ? 言える訳がない。


「言えないの?」


「何にもされてないんじゃないのー?」


三瀬川の隣に派手な女子生徒が並ぶ。誰だっけコイツ……長い茶髪の派手な子だから見た目は覚えているが、名前は分からない。


「たまにいるじゃん、注目されたくて被害者ぶる奴。こんな大げさに包帯巻いてるんだもん、それくらいしそうじゃん」


「まだ分からないのにそういうことは言わないで。化野さん、どうして言えないの?」


焼けていない肌に脂汗が滲む。暑いような寒いようなむちゃくちゃな感覚に襲われ、四肢の末端が震える。


「……もうやめろよ。化野さんは嘘つくような人じゃない」


式見蛇の広い背中に隠され、安心して呼吸が整い始める。


「式見蛇君、何があったか聞かないと何も判断できない。化野さんを隠さないで」


「……もうすぐ授業始まるから、後でお願い。来たばっかで用意できてないんだ」


二人の女子生徒は席に戻った。派手な方の女の席は式見蛇の後ろだ、僕とも近い、嫌だな。



今日も板書が間に合わず、教師には誰かに写させてもらえとだけ言われた。その次の休み時間に僕はそっと隣の席の女子に話しかけた。式見蛇に借りてもよかったのだが、宿泊研修までに同性の友人を作っておきたかったのだ。


「ぁ、あの……ノート、貸して。さっきの英語の……」


地毛だろう茶髪を三つ編みにしたメガネの少女、琴平(ことひら)。彼女は快く了承し、ノートを貸してくれた。ノートに書かれた名前は「琴平 未知」読みはミチで合ってるかな? そう呼べる仲になれたらいいな。

慣れない右手で頑張って書き写していると、三瀬川が僕の席の隣に屈んで顔を覗き込んだ。


「化野さん、書きながらでいいから話してもらいたいの。朝、何があったのか」


「は、話すようなことじゃないよ……本当、大したことないんだ」


「あなたは大したことがないのに助けてと言うの?」


どうしてこんなに首を突っ込んでくるんだ、染髪してる奴とその取り巻きに絡まれていたんだぞ? どう考えても面倒事だろう、避けるべきだ。


「……式見蛇とは家が近所で、僕……体がこんなだから、色々助けてもらってて、つい……癖で」


「そう、ならその癖は早めに治して、紛らわしいから。それと、あなた復学初日に何も言わずに帰ったでしょう、ああいうのも今後気を付けて」


教師ならともかく、どうしてクラスメイトにここまで言われなきゃならないんだ。正しいよ、三瀬川は正しい、僕が悪いんだ、でも……


「……聞いてるの?」


「聞いてる……ごめん、気を付けるよ、分かってる」


「分かったならいい。怪我人だからって甘えないでね、周りの気遣いは必要だけど、あなたがそれを強要するのも当然と思うのもよくないことよ」


甘えているのか? 僕は。復学初日に殴って脱がして脅してくるような連中に絡まれて助けを求めるのは甘えなのか? いや、三瀬川は知らないのだから仕方ない、彼女の言葉が周囲からの僕の評価だ。



鬱屈とした気持ちのまま授業が始まり、つつがなく終わる。休み時間になると琴平が椅子を寄せてきた。


「数学のノートは写さんで大丈夫ですか?」


「ぁ、う、うん……平気、ありがと」


数学は英語に比べて写す文字が少ない。計算を後回しにして問題を先に写してしまえばいい。


「三瀬川さんキツいですよね、そんな気にせん方がいいですよ」


「……言ってることは正しいから」


「やから余計怖いんですって……ぁ、それと、塩飽さん達にはできれば関わらん方がいいですよ」


言われなくても分かっている、そんな無愛想な返事はせずに素直に忠告を受けよう。


「やっぱり評判悪いの?」


「評判悪い言いますか……性格悪そう言いますか」


「分かる……あ、あのさ、琴平、同級生だし敬語要らないと思うんだけど」


「あ、すみません。私入学に合わせて引っ越してきたんで……その、言葉に地域色がある言いますか…………標準語うまないんで、敬語でお願いします」


軽く謝り、敬語を了承する。方言隠しだったとは悪いことを言った。


「そっか。でも方言隠れてないよ」


「えっ……う、嘘やん。隠れてますって。どこか分かります?」


「……近畿」


「なんでなん!? ウチちゃんと敬語……!」


一人称も変えているのか。教えない方が優しかったかな?


「くっ……私も化野さんの出身当ててやりますよ、埼玉!」


「神奈川だよ。県庁所在地はちゃんと漢字だよ」


「惜しい! 首都圏言うときゃよかった……」


話しているうちにチャイムが鳴り、授業が始まった。

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