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God knows  作者: 紅亜
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花のように咲き出てはしおれ、影のように移ろい、永らうことはない

ルークは自分の目で選んだ実を一つ、また一つと主に渡していく。

主は黙々とそれを袋に詰め込んでいた。その表情は、ルークのほくほく顏とは対照的に、意気消沈している。…結局主は彼との交渉に負け、彼の言い値で売ることとなったのだ。


「そーいや、さ。もうすぐ王都に帝国軍が攻めてくるって噂…知ってるか?」


「は?知らねえよ。どこで流れてるんだ?」


「商人たちの間じゃ、結構流れてるぞ。今回プオの実を早くに収穫したのだって、多少上がりが少なかろうが戦火に巻き込まれてゼロになるよりいいってことでだしよ」


「そうか…」


「ルークも気をつけな。それと、シスターと子供たちにもよろしく伝えておいてくれ」


「分かった。ありがとよ、おっちゃん」


「おうよ」


ルークは主に別れを告げ、帰路についた。


アルディージャの街は、上空から見るとぐるりと円状に広がっている。そしてそれを囲むように高い城壁が聳え立っていた。


南には唯一王都の中と外を繋ぐ門があり、そこから王都最北にある王城へと真っ直ぐ伸びる道が、メインストリート。

そして円の中心上にあるのが、先ほどまでヴァンがいた市場がある。

更に市場を起点に、東西に真っ直ぐ貫く大通りが敷かれている。

この大通り2つによって、王都アルディージャは4つの区に別れていた。


北へ北へと進めば進むほど…要するに王城に近づくほど、建物は豪奢なそれとなり、整然とした佇まいとなる。王城近くに居を構えるのは、貴族やら裕福な商人ばかり。


だからこそ、ここ市場に来る者は必然と北を除いた東・西・南から向かってくる者しかいない。


けれども、ルークが進むのは北の方向。見事に人の波とは逆の方向を、ただ一人進んでいた。


歩みを進める彼の顔は、食べ物を手に入れたというのに険しい。彼の頭の中は、先ほど商人が言った言葉で占めていた。


…帝国の奴らが進軍する、か。噂がガゼだろうが真実だろうが、ヤバイな…と。


アルケディア王国とその西にある帝国は、現在交戦中。


戦況は五分五分で、国境以外特に戦火が広がる様子は見せていない筈だった。


にも関わらず、広がっているらしい噂。噂の真偽はともかく、その噂が存在するというだけで危うい。


その理由は三つ。


一つは、この噂が真実でなくとも第三者によって流れた憶測だった場合。その意味するところは、つまり王国の方が劣勢であるということ。

実際に王都が戦場とならなくとも、王国が負けるという可能性が濃厚というワケだ。


第二に、この噂が帝国側が流した嘘だった場合。今でさえ、王都アルディージャの食料は需要に対して供給が追いついていない。なのに、この噂を間に受けた商人たちがここへの行商を控えたら…遅かれ早かれ、市民らが飢える。


第三に、この噂が王国も認知している事実だった場合。王国は市民に知らせるというそぶりはなく、もしかし たらこのまま市民に知らせるつもりもないのかもしれない。

そんな状況で、ここが戦場となったら…まず間違いなく市民は混乱に陥るるだろう。


…最も、ここが戦場となれば市民からも被害が出るというのには言わずもがな…ではあるが。


帝国の人口は、実に五割が奴隷だという。


ここが戦場となれば、死ぬか奴隷となって連れていかれるか…その可能性が高くなる。


何にせよ、この噂が流れているということ自体…悪い方向へと向かっているということだ。


…どうする?ここから逃げ出すべき…か?


そんな考えが、頭の中をチラリと過る。けれども、そこまで考えて、彼は頭を横に振った。


“どこに行こうと、同じだ…”と。


世界には、五つの国が存在している。この王国アルケディアは大陸の丁度中心にして最も領土の小さい国。


そしてアルケディアを包み込むように北部から西側にかけて大きな領土を持つ現在アルケディアと交戦中の帝国がある。

そして同じく北部から東にかけては、これまた帝国に交戦中である、独自の文化を持つ大和という国。

大陸南と海を越えた諸島の集まりである、現在内乱が起こっているブオノス連合国。

そして北側海を越えた先にある、聖イスト教国という宗教国家が存在している。

唯一現在争いがないのは、教国のみ。

つまり、5つの国の中では教国が一番安全と言えなくもないが、閉鎖的な国であるが故に他国からの入国を認めていない。

…否、全ての国において現在戦争中であるが故、警戒も厳しいものとなっていた。

おまけに、国と国の間にある未開の地には凶暴な魔物やら凶悪な盗賊らがうようよと存在している。


つまり、どこかへ逃げようにも逃げ出すことなどできない。


暗い気持ちを引きずりつつ歩き続けていたルークは、途中、左…西の方角へと曲がる。


辺りは先ほどの光景と比べ、一つ一つの建物が低く広くで、空がよく目に映った。


ピタリ、彼はとある教会の前で止まる。


その教会は、周りの建物と比べるとみすぼらしく、そこだけポッカリと空間を切り離されているようだった。彼はそこで一息付き、気持ちを切り替えると、先ほどまでとは違う晴れやかな顔つきで近づいて行った。


重厚な色合いをした木製のドアを開ける。


ギギギギ…と、耳に障る音がするが、聞き慣れているルークは特に反応を見せない。


キョロキョロと中を見回し、中に人がいないかを確認した。

教会内部は向かって正面に、この教会の主神であるイシュア女神像が置かれており、手前側の左右にやはり木製の長椅子が並べられている。


今は戦時中ということで、何処の区域の教会もガランとしている。そんな中で、ここは北寄りという裕福な人が集まっているせいか、他と比べて参拝者が多い。

…とは言っても、一日に二・三組訪れる人がいるかいないかだが。


現に、どうやら今日も参拝者はいなかったらしい。


講堂にはただ一人、イシュア神の石像の前に座して祈るシスターが唯一人いるだけだった。


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