人生は短く、苦しみは絶えない。
「はあ…」
澄み渡るような、蒼い空。
麗らかな陽射しが地を照らし、柔らかな風が時折吹いては体を優しく包む…そんな心地よい日。
だというのに、その青年の口から漏れるのは先ほどからため息ばかりだった。
周りと見比べれば珍しい黒髪の、端正な顔立ちをした彼。年の頃は、17・18ぐらいだろうか。上等とは言えないが、割と小綺麗な身なりをしている。
「ったく、目星いものがねえな」
哀愁漂う独り言は、けれども周りは誰1人気にすることがない。むしろよくよく見れば、現在彼の周りを行き来する人たちは多かれ少なかれ、彼と同じ雰囲気を纏っていた。再び彼は、重い溜息を吐く。
…ここは、アルケディア王国の王都・アルディージャ。
現在彼がいるのはその王都の中でも中心部に位置する市場だというのに、全くもって活気がなく、むしろどの店も閑古鳥が鳴いていた。これだけ品薄であれば、それも仕方のない事なのだが。
現在、アルケディア王国は隣の国である帝国と交戦状態。そのせいで、食料品は王国軍やら貴族に最優先で回され、市場にはチラホラと商品が申し訳程度に羅列されているのみである。
ふと、青年の目にとある果実が映った。
黄色の、ゴツゴツしたそれ。
見てくれはあまり良くないが、王都近くで収穫できるため安価で、しかも栄養価の高い…まさに庶民の味方として有名なものだった。
「おっちゃん、プオの実入ってきたんだな」
「よう、ルーク」
青年…ルーク・タナトスは親しげに露店の主に声をかけた。主も顔見知りの声とあって、気さくに言葉を返す。
「ああ。丁度昨日から収穫が始まったんだよ。見た目のおかげで、貴族様たちゃプオの実だけは目をつけねえしな」
「まさに、俺たちにはプオの実様々だ」
ルークは、ジロジロと並べられたプオの実を見て品質を確かめる。
それは良い品か悪い品かを確かめるというより、これからする交渉でどれだけ安くできるかのギリギリのラインを見極める為の確認であった。
「おっちゃん、これ1個20ギルでどうだ?」
「勘弁してくれよー、ルーク。それじゃおっちゃんは首を括ることになるぞ」
「んー…じゃあ、5個で110」
「ダメだ。一個、40ギル。それ以上はまけられん」
「おっちゃん、これ昨日から収穫始まったって言ってたけど…本当は一週間ぐらい 速いんじゃねえか?まだ、熟しきってねえぞ」
「…うっ」
ルークの指摘に、主は冷や汗をかいた。
心なしか、目線が泳いでいる。目ざとい彼は、勿論見逃さない。ニヤリ、勝った…という黒い笑みを浮かべていた。




