神よ、彼らをお許しください。彼らは何をしているのか分からずにいるのです
……昔、昔。
気がついたら、ルークはそこにいた。
暗い暗い、路地の裏。
そこはお世辞でも衛生的とは言えないような、ジメジメと湿った薄汚れた場所だった。その地と同じように、薄れた格好をしている自分。
何故、そこにいるのか。それすらも分からないまま、“ただ”生きていた。
生きる目的も、明確な夢も希望も何もない。ただ“死にたくないから”ゴミ捨て場をあさって残飯を探し、何か食べるものはないかと道の端々まで探し回る毎日。
時に同じような境遇の子らと食べ物の為に争い、そして自分を利用しようとする大人たちから逃げ回る。
……アルケディアでは奴隷を禁止してはいるが、隣の帝国では実に4割が奴隷の為需要は常にあり、この国でも“商品”を求めて人買いが横行していた。または、娼館に売り出す為に大人たちは身寄りのない子どもたちを追いまわす。
そんな子供にも容赦無い大人たちに囲まれていくうちに、彼も随分…良く言えば図太い性格、ありのまま言えば何事にも無関心で意地汚いものになっていった。
いつも目はギラギラと、まるで得物を狙う本能のままに生きる肉食獣。こうして彼は、その地域に見事にそこに溶け込んでいった。
… …そんな、ある日。その日も、彼は食糧を求めて街を徘徊していた。
何の因果か、普段は何の興味を示さない彼は珍しく歩くルートを代え、王都アルケディアをじっくり回っていた。
……それが、彼の運命を大きく変えるとも知らずに。
彼が歩いていたのは、王都南西地区…所謂貧困層が多く暮らす地域であった。いつものように、店から食べ物をくすねる機会を探りつつ同時に、道端に何らか利用できるものが落ちてないかを探る。
道行く人に助けてもらえないかという甘い期待は毛ほども持っていない。同情する人物がいれば話は別だが、大抵の人間は、彼の姿を見れば関わりたくないと言わんばかりに目を逸らし逃げるように歩いていくか…はたまた汚いものを見るかのように見つめるだけである。そんな腹の足しにも何もない非生産的なものに何の意味もない。
注意深く歩いていると、良いカモを見つけた。
ぶらりぶらりとお気楽に道を歩く、その人物。
あまり派手にやらかして警邏に睨まれるのは御免だが…ここは南東地区。“奪われる方が悪い”という常識が罷り通るここでは、多少のことには目を瞑ってくれる。彼はしばらくそのカモを付かず離れずで追い、機会を待った。
そして、待ち望んだ隙が現れたその瞬間、彼はすぐさま行動に移した。けれどもそれは、ただのカモではなかった。隙を付いたヴァンの行動を見切り、逆に返り討ちに遭ってしまったのだ。
……しくじった。
ぐるりと、男の懐に入れた手を掴まれて地面に投げられたタイミングでそう後悔するも、全てが遅い。
地面に転がる彼は幾度となく蹴り上げられ、目ぼしいモノを持っていないと分かると更なる暴力を振るわれる。
大人に暴力を振るわれる、幼き子供。けれども、勿論誰も助けることはない。
南東地区の人間にとって、その光景は甘い蜜に群がって捕食された哀れな虫程度なのだから。
彼自身、このままボコボコにされた挙句、どこぞの人買いに売られると想像し……ただただ自らの愚かさを笑うばかりだった。




