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第十話 試験戦

更新遅かったうえに短いです。すみません(泣

「はっ!」

「ふん!」


 刃が間断なくぶつかり合い、無数の火花が散る。ザンとアトラスは時に踊るように、時に凄まじいほどに荒々しく、自らの武器と肉体を駆使して闘っていた。


「ほえー」

「あり得ない…、『藍』ランクと同等に戦えるなんて……」


 壁際に二人して避難していたエイミーリアとリューアの反応はそれぞれだ。エイミーリアはどこか人ならざるものを見るような目をして半ば呆然としているし、リューアは呑気にザンすごいと感心していた。

 そんな間にも酷く鈍い金属音は絶えることなく響いていて、試験場の地面はもうぼろぼろといっていいほどに抉られ、斬りつけられた跡があった。

 ザンが大きく跳躍し、アトラスの頭上を取る。脳天めがけて振り下ろされた大剣は、アトラスが真横に跳びさすった事でけたたましく地を叩くだけに終わる。お返しとばかりに繰り出された回し蹴りは、ザンが深く身を屈めたために空を切った。そしてまたザンが大剣で斬りつける。アトラスは大槍を振るう。

 遠心力を伴った槍を、ザンは大剣で揺らぐことなく受けとめた。きしりと刃が擦れ合い、耳障りな音を立てる。

 その一撃で常人だったら上半身が文字通り吹き飛ぶだろう。しかしザンはものともしていないようだ。

 微かに息が乱れてきたアトラスは冷や汗と悪寒に身を冷やしながら、喉から獣じみた唸りをゆっくりと吐き出す。

 アトラスが僅かに力を抜いた瞬間を見計らったかのように、ザンは一度剣を離し、再度ぶつける。力に押され、アトラスはたまらず後ずさった。

 それを好機と見たのか、ザンは何回も大剣で斬撃を放っていく。


「っ…!なんって、戦いにくい……」


 ザンの剣を槍の柄で器用に弾いて逸らしながら、アトラスはぼやいた。このような接近戦では大槍が思うように使えない。

 アトラスの口の端が、自嘲するように歪む。

 正直、舐めていたとしか言えない。

 完全に予想外、予想過剰の事態だ。

 ザンの剣は一撃一撃が重く、そして異常に速い。それでいながら、それぞれが確実に致命傷に至る威力を持っている。

 不意を突くように剣先が突き出され、アトラスは地を這うように伏せ、跳躍。自重と腕力をこめた大槍の一撃を、ザンは大剣を横にして受ける。ぐぐ、とザンの背が僅かに反り、膝が曲がった。

 

「! やったな…!」


 ザンは焦ることなく体を滑らかに後退させ、槍をやり過ごした。ぎぃ、とザンの口の端が歪む。


「これでもっ、『藍』ランクだから、ね!」


 アトラスは応えながら、この状態もいつまで持つものかと考えていた。

 戦いにくい、それはずっと感じている。そしてその原因は力量や技量の問題だけではないということにも、気付いていた。

 この少年は、殺気がない・・のだ。

 厄介なことだ、とアトラスは思う。

 普通、攻撃する際には多かれ少なかれ、瞬間的に殺気が放たれるものだ。そこに相手を害するという意志があるのだから、当たり前である。

 どんな玄人だろうと、無意識下に出る殺気を封じ込めるのは容易な事ではない。だからこそ、攻撃がいつどこから、どのように来るのかが分かるのだ。

 しかし――とアトラスはザンを見据える。

 最初からよくよく感覚を研ぎ澄ませているというのに、この少年からは殺気が微塵も感じられない。

 殺気どころか、凡そ害意や敵意といったものすら、ない。気があらぶっているだとか、興奮している様子もなく、ただただ、平常。

 あり得ない、とアトラスは思う。

 これが歴戦の戦士だとか、経験を積んだ老獪なる者だったら頷けるものの、自分が相対しているのはギルドに始めて登録しに来た、年若い少年。異常もいいところだ。

 まるで一流の暗殺者、いやそんなものではない。

 ふと気が向いて地面の小石でも拾い上げる――そんな気安さで、確実に命を削り取るだろう剣撃を振るってくる。

 それはアトラスにとって、やりづらい事この上ない。

 殺気が無いということは即ち、攻撃の合図が無い、対応の取りようがないと同等の事。

 気まぐれのように繰り出されるザンの剣を捌きながらも、もどかしい思いが積もっていく。

 おそらく、敵わない。

 アトラスは素直にそう思った。

 技量も、力押しでも負ける、殺気も感じ取る事が出来ない。アトラスにとっては、最早詰んだも同然だ。

 今でこそ意地で喰らいついて、拮抗しているように見えるものの、このままでは限界は見えている。

 アトラスは参ったな、と小さく呟き、


「『我は望む、迸る雷光』」


 ザンには聞こえなかった詠唱に、それでも確かな言霊が宿る。

 今何か言ったかなと顔ををしかめたザンは、アトラスの槍が瞬間的に黄金色の光を発した事に目を見張った。

 ばちばちぃ、と光が不吉に爆ぜる。

「なっ!」



 『反則』、を使うことにした。

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