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冷徹軍医の最愛嫁~無能の妻は、夫の愛に気付かない~  作者: 藤烏あや@『死に戻り公女は繰り返す世界を終わらせたい』発売中


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第十三話

「認められるはずないでしょう!」


 人前で声を荒げたことのない小夜が、初めて大声を上げた。

 その声色は侮蔑に満ちており、堪えきれない憤りを感じさせる。


「無能のあんたが選ばれたなんて、そんなこと、あってはならないのよ! 東雲様の伴侶だってそう! 異能婚だっていうなら、東雲様のお相手は私のはずでしょう!? だって私は帝都一の治癒術師なんだから!」

「っ」


 言葉に詰まった千鶴の肩に紫苑の手が乗った。

 首を振った紫苑はまるで言わなくてもいいと言っているようだ。

 口を噤んだ千鶴に小夜が追い打ちをかける。


「今回の妖毒だって私が治すはずだったのよ? なのにあんたが来たせいで台無しじゃない!」

「妖毒を治す力は薬師寺になかったはずだが……軍に虚偽の申告をしていたと?」

「こ、後天的に異能に目覚めることだってあるはずです! 千鶴だってそうでしょう!?」


 小夜が取り繕っていたはずの仮面がひとつ、またひとつと落ちていく。

 異能は後天的に目覚めることはない。

 だからこそ、千鶴は薬師寺家でいないものとされていたのだから。


「はぁ。千鶴は後天的に目覚めたわけではない。幼い頃から持っていた異能だ。幼少の頃、妖毒から救ってくれた異能の色を見誤ることはしない」

「え?」

「今も見えるだろう? 千鶴は濁りのない白。薬師寺は銀」


 閉口し三人を見ているだけだった久我が初めて口を開いた。

 それはもう白々しい口調で。


「銀、だが、その奥にこびりつく赤黒い靄は何を示しているのだろうな」

「っ!?」

「赤黒い靄を携えるものなど、答えは1つでしょう」


 軍刀を抜き構えた紫苑は、小夜へと刀身を向ける。

 刃を向けられた小夜の顔が歪む。

 じとりと憎しみの籠もった目が千鶴へと向いた。


「こんな方法で見破られるなんて、屈辱だわ」

「あやかしを取り込んでいるのか」

「えぇ。妖毒を治すにはあやかしの力が必要だったもの」

「紫苑様が妖毒に苦しんでいるのはお姉様もご存じだったはず。どうして治さなかったのですか?」


 小夜が治していれば、千鶴の異能が露呈することもなかった。

 だが小夜は妖毒を治さない道を選んだ。


「最初はそのつもりだったわ。でも妖毒で虚ろげな東雲様があんたの名前を呼ぶのを見て覚めちゃった。私のものにならない男なんて、死ねばいいのよ」

「そんな……」

「その後にあんたのせいで広がった妖毒を治して、名実ともに帝国一の治癒術師になるつもりだったわ」

「そんなくだらないことのために妖毒をばら撒いたのか」


 地を這うような声で紫苑が問う。

 紫苑に普段の優しげな雰囲気はなく、大の大人でも震え上がってしまいそうな眼力で小夜を睨んでいる。


「えぇ」

「治癒術師だというならば、どうして……」

「うるさい!」


 赤黒い靄が膨れ上がった瞬間。

 一瞬にも満たない速度で小夜へと近づいた紫苑が、青白い光を纏った軍刀を振り下ろした。

 すると糸の切れた操り人形のように小夜がその場へと倒れ込んだ。

 振り返った紫苑は一切返り血などは浴びておらず、床に伸びている小夜からもまた血は出ていない。


「討伐完了です」

「ご苦労」


 久我がぱんっと手を叩くと、今までその場にいたはずの将官たちが姿を消した。

 消えなかったのは久我、紫苑、千鶴、そして小夜だけだ。

 訳が分からず周りを見渡す千鶴を見た久我は楽しげに笑う。


「すまんな、奥方。一芝居打たせてもらった」

「えっと……?」

「ここにいた将官たちはワシの異能で作り出したまがい物だ。ただし妖毒は隔離棟から転移させた本物であるから、奥方の異能の力で浄化されておる」

「そう、なんですね……?」

「東雲軍医総監の軍刀はあやかしのみしか傷つけられん。姉君は生きておるよ」


 安心させるような声色に、強ばっていた千鶴の体から力が抜けた。

 しゃがみ込みそうになる千鶴を支えたのは、軍刀を納めた紫苑だ。

 彼は千鶴を引き寄せると、難しい顔を久我へと向ける。


「人の妻を勝手に戦力扱いしないでいただきたい。今回は上手くいったからよかったものの、二度目はありませんよ」

「わかっておるわ」

「千鶴、怖がらせてすまない」

「それは、はい、大丈夫です。ただ、説明をしていただけると嬉しいのですが……」


 いまだ倒れている小夜が気になって仕方がない。

 そわそわと意識のない小夜へと目を向ける千鶴の様子に、紫苑は久我へと視線をやった。

 すると久我がまた手を鳴らし、倒れ伏した小夜が消える。


「薬師寺の身柄は拘束したのでな。二度と会うことはないだろう。奥方、安心するといい」

「えっと……ありがとうございます……?」

「久我総司令官。それでは伝わりません」

「ふむ。ならば帰りながら説明してやるとよいだろう」

「わかりました。では僕たちはこれで失礼します。あと2週間は暇をもらいますよ」

「あぁ。ゆっくりするといい」


 紫苑はそう言うと、千鶴を抱き上げ微笑んだ。


「帰ろうか。千鶴」

「っ、はい」

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