第20話 避けられぬ戦い
「やっぱり待ち構えているか。」
俺達は大きな空間の上がる道を見つけたのだが……見上げると登った先のフロアにミノタウロスがうろついて居るのが見えたのだ。幸いこちらには気が付いてない様だった。
「あれは結構ヤバい。目覚めたばかりのリィムとポンコツで勝てるかどうか。」
おい、ポンコツって最近呼び過ぎじゃないか? 気になったが段々とそれで固定化されてないか?
「体調が万全だったら全然余裕なのですが、工夫しないと上には上がれませんね。」
リィムが真剣な表情で勝ち方を探っている様だ。取り合えず弱点が有るならそこを突くしか無いだろうが、そう都合よく有るだろうか?
「ちなみに聞くけどアレの弱点とか有ったりするのか?」
「集合型の弱点は結合の核となった急所の精霊を破壊する事。ただ場所の特定は難しいから運次第になる。私が以前出会ったキメラ型は見つけられなくて撤退しながら戦った。ちなみに弱点の詳細はレピスから。」
結局倒して無いんかい! しかも情報はレピスからかよ……弱点は弱点だが、それって運任せじゃないか? 急所に致命傷のダメージを当てるまで終わらないゲームか! むしろレピス並みの実力が無いと無理とかじゃ無いだろうな?
「だったら全部を氷らせるとかでは倒せないかしら?」
ん? 話からするとリィムはその時は居なかったのか……まぁ今する話題では無いと思ってスルーしておこう。
「試してみないと解らない。そもそも私は暗殺タイプ。リィムの様な戦い方は出来ない。」
物騒な戦闘スタイルだな。確かにあの暗器の様な氷刃はその手の精霊術だろう。初見殺しとしてうってつけの術だと思う。
「リィムの戦闘スタイルってどんなのだ?」
「私の戦い方は、設置型を主体とした罠系の精霊術です。相手を嵌める必要が有りますが、その分火力は任せてください!」
リィムがドヤ顔で胸を張る。罠型と言う事は盗賊系みたいな戦い方と言う事かな? しかし、この子のリアクションは見ていると頭を撫でたくなるものが多いなと思ってしまう。ティルだったら即座に撫でているだろう。
「リィム、ポンコツが無い胸を張るなと言ってる。」
「言って無いし、思ってもないんだが!?」
ハッキネンがからかって来やがる。リィムが復活してからコイツ性格変わって来てないか? と言うか思っても無い事を言うのは止めて欲しい。……いや、少しだけ思ったのは事実ですがね……。
「タツミさん!? 先程から酷いです! 流石に怒りますよ!」
リィムが涙目だ、結構気にしているっぽい。ヤバいな……と言うかハッキネンの野郎この状況を楽しんでやがる。からかいのレベルはティルと良い勝負じゃねぇか。
「ハッキネン、からかい過ぎだ。と言うかお前ってこんなキャラだったか?」
「冗談だったの? タツミさん、怒ってすみませんでした。」
リィムがハッキネンのからかいと知って謝って来るが、100%嘘でも無いので罪悪感が少し生まれてしまう。そしてハッキネン自身は素知らぬふりだ。
「ハッキネンは普段は大人しいのですが、たまにこうやって子供みたいにからかって来る時も有ります。しかも毒舌なので周りの人は、どこまで本気なのか解らない時も多くて……。」
あ~これは保護者側も困るような事を言うやつか。毒舌の部分は解っていたが今までは俺とティルと言う初対面が相手だったから見えていなかっただけか。
「そろそろ作戦会議。私達の時間も有限。」
この流れを作った本人が言うな!と言いたいが、また言い争いになっても時間の無駄なので同意する。
「では、リィムの力を頼りにした作戦を組むぞ。ちなみにどんな罠が有るんだ?」
まずはリィムの能力を知らないと作戦も何も無いからな……って俺が戦力になるかの方が問題な気がするが。
「私の罠は地面や壁に精霊力を込めて設置する事で発動します。火の精霊界でなければ精霊術を込めた氷塊を飛ばしての設置も出来たのですが……」
飛ばして罠設置ってチート過ぎません? まぁ今は使えないのが残念だけど……遠距離攻撃しながらトラップを好きなだけ仕掛けられるって事だよな?
「トラップの内容は設置点から氷の棘を出して貫くのと、氷柱を出して吹き飛ばすのがメインです。柱は足場にして移動にも使えますが……打ち出す時の勢いが凄いので多少のダメージも覚悟してください。」
「肝心な事、威力は込めた精霊力に比例する。」
「そうですね、後は必殺技の『紅雪月花』と言う罠も有るのですが、これは相手に一度罠を打ち込んでから、私の精霊力で具現化した槍でそこを攻撃すると発動する技が有ります。」
そう言うとリィムは投げ槍の様なシンプルな穂先が一つの直線的な氷の槍を具現化して見せてくれた。
「問題はあのミノタウロスの動き次第ですが、罠を設置して槍を打ち込む程の余裕が有るかですね。でも紅雪月花が発動すれば確実に内部から全身を凍らせる事が出来ます。」
何ですと? 必殺技とは何とそそられる響きだ。ティルのエクスプロージョンの様な物だろうか? 俺も必殺技が欲しいなぁ……
「ポンコツ、お前は基礎が確実に出来る様になってから考えろ。今回の仕事は囮だ。そもそも火力が無さ過ぎる。この前もティルじゃ無ければ戦いにもなって無い。」
「いや、分かってるけど……あんまりハッキリ言うなよ。結構気にしてるんだからな?」
相変わらず特性で心を読んで来やがる……いや、もう良いんだけど。だけど地道に心にダメージが蓄積されて行くんだが……そこも読んでいるのだろうか?
「えっと……ティルさん? と言うのはタツミさんの本来の契約精霊なのですか?」
そう言えばリィムは知らなかったか、言う機会も無かったしな。そもそもハッキネンとも契約出来たのも謎のままだ。
「そうだな、俺が精霊界に来て契約した精霊がティルだ。正式な名前はティルレート=アルセイン。属性は火だ。」
「呼び方からすると女性の名前の様に聞こえるのですが、今の時代は男性でもそういう呼び方をするのですね。」
リィムがちょっと驚いたような声で勝手に納得しているのだが……俺はティルが男だなんて一言も言ってないんだが?
「いや? ティルは女性だぞ? 何で男と思ったんだ?」
「え? 具現化した精霊は基本的に自分と同じ姿をしてますよ?」
二人の頭の上に綺麗に「?」マークが飛んだのが解った。ハッキネンだけが「あーあ、」と言う顔をしている。こいつ何か知ってるな。
「ハッキネン、何か知っているなら答えようか?」
「いや……ほら、私の口から言うのも違う。」
ハッキネンが視線を逸らしているのが解る。
もしかしてあの時にティルが言っていた「いつか話せる時が来たら話す」と言っていた内容と関係が有るのか?
「まぁ、これはティルから直接聞くしかないようだな。」
「そうですね、ハッキネンがそう言う以上、私達があれこれ考えるよりもそちらの方が良いと思います。」
戦いを前にして更に謎が増えた気分だが……今やる事は変わりない。どちらにしても生き残らなければその謎も知る由が無いのだから。
そうして、圧倒的不利な状況を覆すための作戦会議を始めた。




