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牛の言葉が頭から離れなかった。
この島に来て、いろんなことがあって、やっとこの島で生きてゆくことを決めたのに。
妻の寝顔を見ながら、妻が寝ている寝台の奥にある、あの壁に彫り込まれた言葉を思い出す。
せっかく妻を取り戻せたのに、この島から逃げ出すなんて考えたくなかった。
逃げ出すと言えば、彼はどうしただろう。ヘルヴィムのことを思い出す。
外を見ると、まだ雨が降っている。雨期はいつ終わるのだろうか。
ああ、頭痛がする。それと、どこからか猫の鳴き声がする。
僕はそのとき初めて気付いた。猫の鳴き声は何度も聞いているのに、猫の姿を全く見ていないことを。




