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「どうしても教えてくれないのか?」
シモーヌに詰め寄ると、彼女は困った顔で目をそらした。
村に戻ってすぐ、広場にいたシモーヌを捕まえて妻の居場所を尋ねたが、彼女は僕に教えてくれなかった。
「彼女の要望なの。許して」
「クソっ」
思わず声を荒げてしまった。広場にあったサボテンの形をした遊具を蹴ると、粉々に砕けた。近くにいた子供が泣いた。
「やめて」
シモーヌが強い口調で僕をたしなめた。僕は獣のように唸った後、大きくため息をついた。
「悪かった。じゃあ、コレを妻に」
ヘルヴィムから受け取った薬をシモーヌに渡した。
「コレは何?」
「記憶喪失を治療する薬だ」
「コレが?」
シモーヌが訝しげに中を透かして見る。彼女の気持ちはわかる。僕だって、こんなものいきなり渡されても困惑してしまうだろう。
「信じていいの?」
一瞬、ヘルヴィムの顔が浮かんだ。あの男を信じても良いものか――でも、これしか手がかりがないのだ。
「信じてくれ」
真っ直ぐシモーヌの目を見た。少し逡巡したように視線を揺らせた後、シモーヌは頷いた。
「わかったわ」
まるで大切な宝物を扱うように、彼女は腰につけている小さい鞄に薬の瓶を押し込んだ。
「頼む」
僕は空を見上げて、妻が戻ってきてくれることを願った。遠くに見える峰が今日も美しかった。




