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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第10章 涸轍鮒魚
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第76話 同類

 翌朝、エルーちゃんにドレスを着せてもらいアレンさんが手配してくれた馬車に乗る。


「いってらっしゃいませ、シエラ様」


 エルーちゃんに見送られる。

 シエラなのは第一王子の誤解を解くためだ。




「なんだか緊張してきました……」

「ハインリヒの時と同じようにしていれば大丈夫かと」

「いや、あの時はお茶会の帰り際に急に会いましたから……。今みたく準備しなかったから、とくに緊張もしている暇もなかったというか……」


 一応セイクラッド王にはシエラとして遠征のついでに向かうと事前に手紙で伝えているらしい。


「一応道中に起こったことは昨日セイクラッド王に伝えてありますから、下手に出てくると思いますよ」

「王子のことも、伝えたんですか?」

「ええ、きっちりと。大層頭を抱えておりましたよ」


 容赦ないな、アレンさん……。

 というか事前に話してるなら僕、行く意味あるのかな……?

 王子の誤解を解きにいくだけになってない?




 そんなこんなで到着したセイクラッド王城。

 山と一体化したような作りの王城は、聖女院とは違い縦に長いお城だ。


 受付を済ませ中に入ると魔法で動くエレベーターがあり、歴史ある外見とは違い少し近代的なお城だった。




 扉を開けると、例の御仁が仁王立ちしていた。


「おお!待っておったぞ、シエラ嬢!本当に来てくれるとは!我の嫁になる準備はできたみたいだな!」


 僕が何か言うよりも先に、怒号が鳴り響く。


「大馬鹿者!その御方を良く見よ!」


 あの怒鳴り声がセイクラッド王かな?

 アレンさんに促され、僕はウィッグを外す。


「え……そんな……」


 やっぱり、アール王子は知らなかったらしい。




「シエラ様……いやソラ様と会わせたくなかったから、お前には伝えなかったのだ。まさか神様が愛されたお方に手を出そうとしていたとは……!しばらく部屋で反省していろ!」


 セイクラッド王が護衛に「連れていけ!」と命じた時、アール王子は王に絶望ではなく()()の顔を向けていた。


「全く……お見苦しいところをお見せしました……。私はハイデンと申します」


 ハイデン王が恭しく名乗ると、王妃と王女と思わしき人がカーテシーを行う。


「妻のセルマと申します」

「娘のアリシアですわ、先程は兄が申し訳ありませんでした」




「娘はこの通り聡い子で既に婚約者もいるのですが、出来損ないの息子は婚約者もおらずあのように奇妙なことばかり……。これも私達の教育がしっかりしていなかったせいです……」

()()()()()


 全く同じように接しているなら、アリシア王女がしっかりしているのに、こんなにも差が開くことはない気がする。


「だ、大聖女さまははっきりと仰る……お恥ずかしい限りです。ささ、()()()()()()()()()()、奥でお茶の用意が御座います。是非()()()もさせていただきたく……」

「いえ、()()()()()()()()()


 僕は静かに怒りを表した。


「な、何を……」

「家族であるあなた方が、王子の悩みを聞いてあげたことはありますか?」


 あの顔は、よく分かる。

 僕と同じ、親に期待しなくなった失望の顔だ。


「あいつに悩みなんて……」

「それは聞いてあげたことがないからそう思うのでは?敢えて失礼な言い方をしますが、王女を溺愛して王子を蔑ろにしてはいませんでしたか?……いつからか王子は叱るばかりで、彼の話は頭ごなしに否定するようになったのではないですか?」

「……」


 そう言うと、皆が押し黙る。


「……沈黙(それ)が答えなら、今はあなた方よりもアール王子のことを優先させていただきます。今の王子を作ってしまったのは、他でもないあなた方かもしれませんよ?」


 僕みたいな女装変態野郎(出来損ない)が出来たのも、女装をすることで僕自身に興味を持ってくれていると勘違いさせてくれた家族のせいだ。

 実際には僕はただの金稼ぎの道具にしか見えていなかったようだけどね。


「アリシア王女のように急激に成長する人もいれば、王子のようにゆっくりと成長する人もいます。ですがそれを理由に選別をして愛情を注ぐのをやめてしまうのなら、王家はこの先もずっとあなた方の言う"出来損ない"を産み出し続けることになりますよ」


 出来損ないの僕は言いたいことだけを言うと、王子の向かった方角へと向く。


「どなたか王子の部屋へ案内を。ああ、あなた達は来ないでくださいね」




 執事さんに案内され王子の部屋まで来る。

 そこで一人の眼鏡のメイドさんがドアの前で立っているのに気付いた。


「大聖女さま!?」

「あなたは、アール王子のメイドさんですか?」

「は、はい。メイドのエドナと申します。あの……どうか殿下にお慈悲を!あのお方は、悩まれていらっしゃるのです……」


 なんだ、本当に同類かと思ったけど僕と違って理解者がいるじゃないか。

 灯台もと暗しとはこの事か。

 まあ彼の場合、根本的な問題は家族との不和だろう……。


「大丈夫ですよ、その悩みを聞きに来たのですから」

「!?」

「少し()()()をいたしますが、ご容赦くださいね」

「何を……」


 そう言うと、リカバーで鍵をかけている状態から()()()()()()()た。


()()()()()()()()()()()()()()()?」


 まるで鶴の恩返しのような言い回しに、自分で苦笑しつつ中に入った――

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