第65話 自演
劇の台本が出来上がると、僕達はそれぞれで台詞を覚え、放課後になると読みあわせをしていた。
聖徒会メンバーはクラスの出し物もあり、事務作業や聖女祭準備のトラブル対応、飾り付けの指揮、その上劇の準備をしているのでそれはもう忙しい毎日だった。
今日は多目的ホールを借りて通しでやる日だ。
シェリルさんに言われたときに嫌な予感はしていたけど、結局僕は僕役だった……。
正直自分役って、一番やりにくいよね……。
まあでも台詞の大元は第64代聖女のロサリンさんのものだから、ロサリンさん役だと思ったほうがやりやすそうだ。
「たとえ奥方様がいなくとも……貴様など私達で十分だ!」
大検を構えるシルヴィアさん役の涼花様はとてもよく似合っている。
「ええ、一気に畳み掛けますよ!」
喋ることのない魔王役がソーニャさんで、初代聖女役が意外にもお年寄りの声が得意だったミア様だ。
実はお祖母ちゃんの声をリアルで聞いたことのある僕が寮でこっそり監修したりした。
「我が主の怒りの鉄槌を受けよ!」
涼花様がそう言うと、リリエラさんが大剣に向けて雷魔法を落とす。
こちらの世界では、演劇の演出に魔法を使うのが主流らしい。
魔法込みでの演技は、見ている側としてもやっている側としても楽しい。
それに、偶然にも今年の聖徒会は魔法の属性が多様だ。
水はエルーちゃん、雷はリリエラさん、闇はライラ様、炎はソフィア会長、光は僕が使えるので、だいたいの表現はできる。
ただ演出を凝れば凝るほど、タイミングを会わせるのが難しくなるだろうけどね……。
場面が切り替わって、エルーちゃんが雪を降らせる。
僕の出番だ。
「どうして……」
安らかに眠るミア様にぽつぽつと滴る涙。
お祖母ちゃんと別れた時の幼い頃の僕を思い出す。
姉の無茶な「泣きなさい」という命令にも対応でき、これでいつでも泣くことができるような身体になってしまった。
「弔いの……祝福を……」
僕は地に魔法陣を描く。
『――命、廻り廻る焔よ…………今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
涙が地に落ちるとともに、魔方陣は消える。
『――ファイアフライ・グロウ――』
来世はきっといいものになりますように。
魔法は放てないけど、そう願いながら、別の光魔法であるたくさんのフレアを蛍火のように浮かせる。
「凄かった……流石シエラちゃんね……」
「歌手が感情をのせるあまり本当に涙するなんて話を聞いたことがありますけど、シエラさんはまさしくそれね……!私も、負けていられないわ!」
リリエラさんは僕を見て自分を鼓舞していた。
「しかし、まさかお師匠様の最上級魔法の魔法陣を映像魔法で撮影して具現化するだなんて、そんな発想が出てくるのはシエラ君くらいだよ。まるで、本物の最上級魔法のようだった……」
本物の最上級魔法だからね……。
映像魔法というのは建前で、単に僕が最上級魔法の魔方陣を展開しているだけだ。
実際に発動せず魔方陣の展開だけなら、実はそこまで魔力は消費しない。
詠唱を途中で止めたのは別に感傷に浸っていたわけではなく、詠唱を途中で切らないと本当に発動してしまうからだ……。
「この調子で、皆さん続きをやりますよ!」
「「はいっ!」」
それでも士気が上がってくれるのなら上々だ。
こうして僕達は時間の許す限り、練習に没頭していった――