閑話137 親離れ
【ディアナ・ジンデル視点】
「最近、ソフィアがよそよそしいのよ……」
リリアンナ上皇后陛下がお茶会の席で話題にあげたのは、御自身の娘についてのことてございました。
「キリエ夫人、何かご存知?」
「い、いえ。わ、私はソフィア第一女王陛下が王位に即かれてからまだそれほどお茶会はしておりませんので……」
時々呼ばれる「聖夫人会」と呼ばれる集まりですが、基本的には王家と公爵家の集いです。
公爵夫人としてはまだお若い方であるキリエ・ライマン夫人のカップを持つ手は、少し震えておりました。
彼女のその手の震えの根源は、おそらく身分だけの問題ではないでしょう。
私もそうですが、エルフの血筋であるからか、ハイエルフのお方は神聖視するように長年刷り込まれております。
王家と聖女様がお決めになられたこととはいえ、その確執がなくなったとて、人は急には変われません。
「キリエ様、あまりご緊張なさらずともよろしいのですよ。リリアンナ様はただご意見をお聞きしているだけですから」
「ディアナ様……」
元々位の低い男爵家の生まれであり一度はその身分を捨て聖女院のメイドとして働いていた私の方が、ここでは場違いでは御座います。
しかしハーフエルフの子を持ち、更にはこの中でジーナ様の妻だというだけで奇妙にも一番序列が高くなってしまっている私こそが、キリエ公爵夫人の肩の力を抜いて差し上げるべきだと思い至りました。
けれど、少しお節介でしたでしょうか……?
「反抗期かしら?」
「そういうお年はもう過ぎていらっしゃるのでは?」
「では、イヤイヤ期?」
「リリアンナ様はソフィア陛下を何歳だと思っていらっしゃるのです……?」
「あの子なんて、私にとっては赤ん坊みたいなものよ」
「赤ん坊にこの国の未来を託したのですか?」
「ディアナ様、セレーナ夫人がいじめるわ……」
「ふ、ふふ……」
セレーナ・シュライヒ公爵夫人との漫才のようなやりとりに思わず笑顔になったキリエ公爵夫人に、私は少し安堵いたしました。
「よそよそしくなられたきっかけはあるのですか?」
「最近、一緒にお風呂入ってくれないのよ」
「「……」」
まさかの返答に皆様が固まってしまうも、私達はこれくらいの進言ならばとキリエ公爵夫人を促しました。
「リ、リリアンナ様。普通は思春期になられると自然とそうなるものですよ」
「まあキリエ夫人!まさかあの娘、そんなことで私を避けるようになったの?」
「そもそも、リリアンナ様が焚き付けたのでしょう?」
「ああ、そういうことですか!ですが、どうしてセレーナ夫人がそれを?」
「義娘が教えてくださいましたわ。大晦日に散々な目に会ったと……」
「うふふ、うちの娘の痴話喧嘩に付き合わせてしまったみたいですね。それは申し訳ありませんでしたわ」
そういえば私も娘に、発情期の人への接し方を遠回しに相談されていました。
大丈夫だとは伝えましたが、気持ちが一方通行になってはいなかったようで、安心いたしました。
「うふふ、青春ですわね」
「青すぎるわよ。そんなに余裕がないものかしら……?」
この中で古株の私が「リリアンナ様の時もそうでしたよ」と申し上げたかったですが、流石に野暮だと感じて笑みを浮かべるだけにとどめました。




