第501話 婚儀
「さあ、私達も行きましょう」
「はい」
聖女院には式典が行えるように礼拝堂のような施設が存在する。
マヤ様に連れられてやってきたここで行われているのは、結婚式。
女神信仰の強いこの世界ではエリス様に誓いを立てることは共通だが、挙式は主に二通り存在する。
前世の日本で神主さんや神父さんが執り行う一般的な挙式と、神に近しい存在と言われている僕たちやシルヴィアさんなどが執り行う挙式だ。
神主さんや神父さんはエリス様に「祈る」ことで婚儀を報告するのに対し、聖女やシルヴィアさんはエリス様の「代わり」に婚儀を直接見守るというやり方になる。
だから今回のように僕たち聖女が執り行う場合、僕は女神エリス様の代理。
神父さん達が目立つ必要はないが、美の女神ともいえるエリス様は「美しく」ある必要があるため、代理である僕たちが美しさで目立つことこそ、象徴的な婚儀になると言い伝えられている。
あまり目立つようなことは好きではないけれど、そういう文化なのなら、容姿に自信は皆無だけれど仕方ない。
でも人生でそう何度も執り行わない結婚式なのだから、いつまでも忘れられない思い出にしてほしいという思いはある。
「新郎、藤十郎」
髪を後ろにまとめあげた姿は珍しく、そして普段見えない括れ部分から色気が垣間見得る。
なんというか改めて思うけど、色男だ。
「あなたはケイリーを妻とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も――これを愛し、助け、慰め、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを女神エリスに誓いますか?」
「女神エリス様と大聖女ソラ様に誓います」
代理なんだから僕に誓わなくていいよ……。
「新婦、ケイリー」
はいと相槌をうつケイリーさんから、その真面目さが伺える。
ウェディングドレスに身を包み美しさを含むも、レースから透けて見える獣人特有の耳が可愛らしさを内包しており、素敵な光景だった。
「あなたは藤十郎を夫とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も――これを愛し、助け、慰め、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを女神エリスに誓いますか?」
「はい。女神エリス様と大聖女ソラ様に誓います」
だから僕に誓わなくていいってば……。
僕はマヤさんから事前に受け取っていた互いの指環を渡される。
僕はそれに虹色の聖印を灯すと、二人に渡す。
「指環の交換を」
「ケイリー殿、この聖印に誓って、生涯幸せにすると約束しよう」
「藤十郎殿……」
「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお二人がエリス様に見守られることをどうかお祈りしましょう」
僕が祈りを捧げると、倣うように皆さんも続ける。
「誓いのキスを」
二人がキスをするタイミングで、僕は杖を取り出した。
『――命、廻り廻る焔よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
杖をトンと叩くと、地に描かれた魔方陣が浸透して消えていく。
『――ファイアフライ・グロウ――』
「わぁ……!」
礼拝堂を包むように蛍火が瞬き、まるで海の中から光が指しているかのような光景が出来上がる。
かくして、僕の親衛隊二人の結婚式は無事終了の運びとなった。




