第493話 受身
「はっ……!」
気が付くと辺りは暗く、月あかりと無数の星々の輝きだけが窓辺に届いていた。
「綺麗……」
田舎だからだろうか、星がいつもより輝いて見える。
僕は何故かパジャマに着替えていた。
「ごめんなさい。私たち、久しぶりにソラ君と会えてはしゃいでしまったみたいだわ」
「お義母さん……?」
僕は頭の上からしてくるお義母さんの声に違和感を感じて上を見上げると、僕はベッドでお義母さんに膝枕されていた。
「お、お義母さん……流石にこの年で膝枕は恥ずかしいですよ」
「そう?でもソラ君とは最近家族になったばかりで、あまり思い出がないじゃない?だから、私としてもソラ君を甘やかしたりしてあげたいの。それは多分、マークやメルヴィナ、それにこの子もそうだと思うわ」
「この子……?」
下半身がもぞもぞとして下を覗くと、エルーちゃんが僕に抱きついたように添い寝をしていた。
「エ、エルーちゃ……」
思わず大声を出しそうになる。
「そあさま……?」
花柄の寝巻き姿のエルーちゃんが、少し寝ぼけ眼をこすって起きようとする。
ちょっと寝ぼけているところを見ると、寝起きは弱いのだろうか?
そういえばいつも僕が起きるより前に起きているから、エルーちゃんが寝ている姿も寝起きも見たことがなかった。
正直、僕が見ていいのか分からないくらい、可愛らしい仕草だ。
「大丈夫、何でもないよ。いつもありがと。おやすみなさい」
「おやすみなしゃいまへ……」
僕が羽毛を被せると、またすやすやと眠りにつく。
「襲ってあげないの?」
「何言ってるんですか……」
犯罪を勧めようとしないでよ。
さっきのこと思い出しそうになったじゃないか。
今反応したら、エルーちゃんに直接伝わっちゃうんだから。
「ソラ君は、どう思ってるの?」
「僕には勿体ないくらい素敵で可愛い女の子だと思っていますよ」
「なら……」
「でも、それは私だけで決めることではないですし、何より一番、嫌われたくないんです。僕は現状以下になることが一番怖いんです」
「随分と受け身なのね」
「結局、僕は自分に自信がないんです。心の支えだったお祖母ちゃんや父とですら、僕はまともにいい関係を築けなかったんですから」
未だに僕はそれを引きずっており、だからこそ僕の人間関係は基本受け身。
アール王子や養子に取ったシェリー、セフィー、シル君なんかは例外中の例外。
同じ境遇をどうにかしてあげたかったから頑張ったものの、そのときだって自分から人間関係を変えてしまうことに手が震えていたくらいだ。
「でもね、待っているというのも、結構辛いものよ。臆病になる気持ちも分かるけれど、落ち着いたらちゃんと考えてあげて」
こういうのは、まず相手の気持ちが大事だと思うんだけど……。
「大丈夫。失敗したら、私がいつでもこうして慰めてあげるわ」
母というものは、これほど頼りがいのあるものなのだろうか。
根拠は何もないけれど、僕は母親の底知れぬ安心感と膝枕に包まれて再び眠りにつくのだった。




