第1話:婚約者候補を見抜く試験を始めましたわ
白い光。
誰かの笑い声。
「――約束ですわ」
小さな手の感触だけが、妙に鮮明で。
それ以外は、思い出そうとしても霞のように消えてしまう。
……まあ、今は関係ありませんわね。
今夜は、私の誕生日会。
そして――婚約者の選定が行われる夜でもございます。
壇上の席で両親と並び、私は広間を見渡しておりました。
煌びやかなシャンデリア。
緊張と期待に満ちた貴族たち。
音楽が流れ、祝福の空気が場を満たしていく。
「まもなく、ご令嬢のご婚約について――」
司会の声が響いた、その瞬間。
「お待ちくださいませ」
私が遮りましたわ。
会場が止まる。
当然ですわね。
今から“試験”ですもの。
「そのお話、少々お待ちいただけますかしら」
私はゆっくりと立ち上がりました。
両親は微笑んだまま、何も言いません。
――ええ、理解していらっしゃるのね。
なら問題ありませんわ。
壇上へ。
視線が一斉に集まる。
私は優雅にカーテシーをして、口を開きました。
「わたくしにふさわしい殿方は――わたくしが決めますわ」
一瞬の静寂。
そしてざわめき。
「……え?」
「今、何と……?」
聞こえなかったのかしら。
もう一度言いましょうか?
いいえ、必要ありませんわね。
伝わっておりますもの。
「本日より、試験を開始いたします」
私は微笑みました。
簡単なことですわ。
「皆様には、普段通りお過ごしいただくだけで結構ですの」
ざわめきが強くなる。
当然ですわね。
ですが――それが試験ですもの。
「誠実な方は、隠し事ができませんわ」
つまり。
「何もせずとも、すべて見えてしまいますの」
完璧ですわね。
そのとき。
一人の青年が前に出ました。
整った身なり。
自信に満ちた笑み。
いかにも“選ばれる側”といった顔ですわね。
「面白い。ならば、その試験、受けよう」
ええ。
そう言うと思いましたわ。
「では、開始ですわ」
特別なことは何も起きませんでした。
ええ、本当に。
ただ――ほんの少しだけ、皆様が“普段通り”に過ごしただけ。
それだけですのに。
使用人の一人が、皿を落としました。
カシャン、と音が響く。
私は目を細める。
「なるほど……焦りの証拠ですわね」
周囲が固まる。
ええ、当然ですわ。
別の場所では、別の令嬢が笑いを引きつらせておりました。
「……これは、動揺の表れですわ」
私は静かに頷く。
順調ですわね。
そして。
例の青年。
足元で、メイドが軽くよろめきました。
ほんの少し。
本当に、ほんの少し。
ですが――見逃しませんわ。
「……見えましたわ」
私は歩み寄りました。
静かに。
確実に。
「貴方、彼女の足を引っ掛けましたわね?」
「え?」
青年は笑顔のまま固まりました。
その一瞬が、すべての答えですわ。
「証拠は十分ですわ」
扇子を閉じる。
カツン。
「失格ですわね」
「ちょ、待っ――」
遅いですわ。
広間は静まり返っていました。
当然ですわね。
今、真実が明らかになったのですから。
私は満足げに頷きました。
「やはり誠実な方ほど、隠し事はできませんわね」
――完璧ですわ。
その後、メイドが小さく呟きました。
「あの……私、普通に転んだだけで……」
まあ。
そういうこともありますわね。
人間ですもの。
私は微笑みました。
「ご心配なく。すべて“真実”ですわ」
そして、裾を翻す。
その横に寄り添うのは侍女のエリス。
「お嬢様、素晴らしい推理でした」
私は口角を少しだけ上げながら、次の観察対象へ向かう。
「さて……次はどなたが“本性”を見せてくださるのかしら」
再び壇上に上がると私は告げる。
「皆様、今宵は踊り明かして、私を楽しませてください」




