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極道者とマリオネット  作者: 五十鈴 魔子


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05.覚醒

そのまま聖は少しの間目を瞑っていた。眠っているわけではない。ただ少し目を瞑っているだけで、外の風の音など些細な音にも反応して顔を上げるほどであった。その姿はさながら張り込みの警察官の様。そんなことを1日中繰り返していた。些細な白髪の彼女の変化も見落とさないように必死である。

外が暗くなるころ聖の腹が鳴る。流石に1日何も食べていないと空腹も感じる。部下が持ってきたカバンの方に向かって、かばんの中を適当に漁ることにした。菓子パン数種類と缶詰、コンフレーク。ある程度賞味期限が持ちそうな食べ物たちと適当な洋服と下着、そしてスポーツドリンクの類の飲み物が数本入っていた。とりあえず何も考えずにカバンの中に入っていたメロンパンを取り出して食べることにした。


ヤクザの幹部にメロンパン。少なくともこんなにも不相応なものはこの世に存在していないだろう。少なくともこの大きな手にすっぽりと収まっているメロンパンは酷くシュールである。というかそもそも、コンビニのメロンパンを食べるヤクザという存在が物珍しい。

「美味しいの、それ」

唯は白髪の彼女の点滴を取り換えるついでに、聖に問いかけた。唯はそんなに育ちがいいわけではないが、もうこの世界に入ってから暫くはコンビニのメロンパンを食べていないようだった。聖は口の中に入っているメロンパンを嚥下すると「まあ、なしではない」とだけ言って食べるのを再開した。あまりにもがつがつと勢いよく食べているので、唯はお腹が空いたようでお腹が大きな音で鳴った。

「腹減ってんだったら、そこのカバンから好きなのもってけ」先ほどのカバンを指さす。菓子パンは如何せん足が速いものが多い。クリームパンやアンパンなど、地味に内容物が生もののことが多いからだ。唯はカバンの中を覗き込むと、クリームパンを一つひょいっと持ち上げて「もーらいっ」というとそのまま病室を立ち去って行った。非常にそそっかしい女である。という過去の女はいつもそうなのだ。いつも、どんなに殺伐としているときだってそそっかしい。の割には、医術の手技だけはミスをしない。まあそもそもそんなところをミスしていたら、とっくに組をクビになって消されているだろうが…。


まあそんなことを気にしている暇はない。と聖はメロンパンの最後の一口を咀嚼すると嚥下をし、ビニール袋をぐちゃぐちゃにするとそのままゴミ箱に突っ込んだ。軽い潔癖症であったためポケットに突っ込むのは躊躇った。当たり前に、ポケットの中が砂糖でべたつくからである。砂糖でべたべたのポケットなど、考えただけで反吐が出る。

聖はまたベッドサイドに立つ。そして見下ろす。強い視線を浴びせる。早く目覚めてくれ。なんて思っても目覚めるか目覚めないかは彼女次第。そんなことを聖は理解していた。医学知識の微塵もない聖が今できることは、目の前にいる彼女の身の安全を守ることと彼女が無事目覚めることを祈ることのみであった。聖は彼女の寝顔を確認するとまた椅子に座って目を瞑ることにした。腹を少しばかり満たした聖は以前と比べれば満足げで、早く目覚めてほしいと祈るばかりであった。



暫くして、部屋に光が差す。朝日が部屋の中に差し込んできていた。それでも眩しくて聖が目覚めたのではなく、物音で目覚めた。布と布がこすれるような音。誰かの動きを感じた。唯が身の回りの世話に来たのかとはじめは思った。しかしそうではなく、窓際に人影があった。

最低限消防法を満たす程度に設置されている窓のカーテンが開いていて、窓辺に人が佇んでいた。窓辺の人影が何も声を発さずに直立不動で窓辺にいる。聖は思わず窓際に駆け寄った。そこに立っていたのは白髪の彼女であった。どうここまで歩いて行ったかは分からない。興味もないけれどそれ以上に聖には心配が勝った。つい先日道端で倒れていたような少女が、今窓際に一人で立っているなんて理解しがたかった。

聖は彼女に触れるかどうか迷った挙句結局辞めた。なんとなく触れるのは違うと思った。そもそも、女が知らない男に背後から触れられて怖くないはずがないと、聖は思っていた。それに身長だけ言えば、聖の方が彼女よりもはるかに高く、大きかった。恐れられるに決まっている。むしろ普通に自分が彼女の立場であれば怖いと思うだろう。


「なあ、お前。起きたのか」

聖は低く唸るような声で声をかけた。それでもいつもの棘のあるような攻撃的な口調ではなく、どこか丸みを帯びたような優しさがどこかに垣間見えるような声であった。その声に白髪の彼女は振り向いた。聖は目が合った気がした。表情のない、無の感情を示している白い肌に赤い瞳。白い髪の毛は朝日で綺麗に照らされていた。痩せこけていて傷だらけなのに無駄に全身が美しい。綺麗な瞳をしている。彼女はふらふらと何も言わずにそのまま振り返りつま先をベッドの方へと向けると、ベッドに向かおうとした。はたから見れば平衡感覚が狂っているようでまるで頭でっかちの赤ん坊の様であった。

聖は何も言わずに、転ばないかにだけ気を使って一歩後ろをついていくようについていった。転ぼうものなら支えてやるつもりでいた。いや、そうしなければこの様子では全身の骨がすぐにでも砕けてもおかしくはない。聖の見立てによると、聖が少しでも強い力で彼女の体に触れれば簡単に骨は砕けそうであった。


そしてしばらくして、危なっかしげな歩様で無事彼女がベッドにたどり着くと安堵したように聖は息を吐きだした。「そこでじっとしてろ」と声をかけるとそのままスマホを片手に廊下に出た。部屋の中からは特に物音はせず、静かなままであることを確認すると聖はスマホでコールを始めた。

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