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極道者とマリオネット  作者: 五十鈴 魔子


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3/3

03.投影

聖は適当にそこら辺にあった椅子を引っ張ってくると、ベッドサイドに置いてそのまま腰を下ろした。ごつごつとした手で白髪の彼女の細くやせ細った真っ白な腕を優しく拾うように掴むと掌で彼女の細い腕を包んだ。

彼女の腕の体温が低いのか、それとも聖の体温が高いのかそれは分からないが彼女の腕は少しひんやりとしていて冷えているように聖には感じた。聖はその腕を包んだまま「こいつはいつ目を覚ます」とぶっきらぼうに聖に聞く。柊は何も言わないまま腕を組んだ状態で首を横に振る。柊が首を横に振ったという事実だけで聖は何となく察した。恐らくこの様子ではどんな名医であったとしても治すことが出来ないのだろう。なんとなく察してしまった。『こいつ次第だ。こいつが目を覚ましたいと思えば目を覚ますだろう』聖は勝手に都合よくそう思い込むことにして、彼女の手を優しくベッドの上に置いた。


「今後の予定はキャンセルだ」部下に向かっていった。部下は口答えをしようとしたが、聖の鋭い視線にそんな口出しをすることは叶わず、何も言わずに言葉を飲み込み小さく頷いた。彼に今求められているのは、聖への絶対的な服従の様だった。「なあ柊、ここ泊っても構わねえよな。こいつ、俺が助けてやったんだ。目を覚ますまでいてやってもいいだろ」柊にも何も言わせない、そんな覚悟を持ったような視線を向けた。柊はその視線から少し視線を逸らすと、少し間を開けてしぶしぶ承諾の返事をした。仕方がないので柊は処置の後片付けをしている唯に必要最低限のものをそろえるようにとメールで連絡をやった。夜分遅くに女性である唯を使いにやるのは少々心が痛んだが仕方がない。

「構わない、必要なものは部下に用意させる」すぐ傍に居る部下に視線を送ると、部下は恐縮した様子で床を見つめていた。聖からの圧はただものではなかった。どうやら柊の雰囲気から察していたようだった。察しのいい男は異性にモテるというが、この察しの良さはむしろ怖いぐらいであった。モテるどころかその怖さや表情、言葉尻からむしろ異性に嫌われてしまいそうだ。


柊は再度唯にメールを送信し、行かなくてよくなった旨を伝える。まあ、相手が相手だから察してくれるだろうとなるべく簡潔に。それよりも何よりも、説明は後ですればいいが行く前にこのメールが届かないと意味がないことぐらい柊も分かっていた。

「なあ、コイツの怪我はなんのせいだ」柊は黙っていた。聖に伝えるべきか否か迷っていたのが大きいが、それ以上に柊に伝えれば今後聖がどのように動くのか分からなかったからだ。見た目だけではそこら辺のごろつきとそう変わらないが、実際のところ聖は天部組の若頭補佐であって生粋の裏社会の人間である。恐らく闇医者なんてことを裏でしている柊よりもはるかに裏の世界に浸っているだろう。

「アンタが言わなくても俺にはわかる…。怪我なんてもんは俺はアンタより遥かに見てきてる。もちろん、俺はその怪我をさせる側に回ることも多い。けどな、コイツのことは守りたい。コイツさ、アイツに似てんだよ。どこが似てんのか俺にはわからない。けど、なんか似てる。最初見たとき同じモンを感じた。だから教えてくれよ。爺さん。コイツの傷の話」椅子に座ったまま少し遠く、窓のない壁の向こうに何か見えるかのように、ずっと遠くを眺めるように目を細めて平素と比べれば少し暗く呟くような少し掠れているような声で柊に問いかけた。


「何のせいか、いや誰のせいかは私の知ったところではない。それを調べるのがお前の仕事だ。私から言えるのは…そうだな、彼女の無数の腕の傷は打撲痕と注射の跡、首のは何か鋭利な刃物で切ったような切り傷、太もものは銃創であることぐらいだね。幸い神経や太い血管には触っていないようだから生きながらえたようだけど、外れてなきゃ確実に死んでいたかもしれない」柊は懐から書類と透明な袋の中に入った銃弾を取り出した。聖に受け取るように促すと聖は何も言わずにそれを受け取った。『これを調べろ』ということだろう。聖はそれを内ポケットにしまうと柊に「サンキュー」とだけ告げると腕を組んで目の前の横たわる女を眺めはじめた。どうやらここからもう動く気は暫くはないらしい。まるで番犬のようにその場で固まっている聖を見ると柊は「何かあったら呼びなさい。ナースコールもあるし用があれば唯に番号を教えてもらうといい」と告げ、返事を待たずにそのまま部屋から出ていった。

聖はその柊の姿に目もくれず、部下が来るまでの間椅子の上でまるで地蔵のように椅子の上に固まっていた。目は眠気と戦いつつも何とか無理やり瞼を開いていた。この男は綺麗好きだったのでアルコール消毒を定期的に行ったうえでもシャワーを浴びない限りは眠れない様子であり、そのうえで目の前に自分が守りたいと考えている人間が横たわっていて無防備である限りは、ここから動けないと考えているようだった。聖は平素、他人にあまり興味を持たず他人にも執着しないような人間で、普段どのような相手であったとしても自分では手を下さず、部下をやったりうまく情報を操るなどして間接的に対処することが多かったが、そんな彼が珍しく他人に執着しここから動かないときたものだ。周囲の人間たちもこの異常な執着にうすうす気が付いていたが、本人は自覚していないようだった。

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