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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
己の身を捧げながら戦う者『士』
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共闘

 ──めちゃくちゃだな……。


 暗器の達人──ウーゴ・ウベルティ大尉は背後に広がる()から目を逸らし、嘆息していた。

 異常繁茂いじょうはんも

 森林爆発。

 極大侵食きょくだいしんしょく

 適当に思いつく単語を並べたが、これがマクシム・マルタンの能力だとしたら、恐ろしいとしか言いようがない。


 ウーゴの目の前にはぶっ倒れ、痙攣しているリオッネロ・アルジェント大尉もいた。

 大きな手で虚空を掴むような体勢のまま失神している。


 ウーゴはリオッネロを介抱することなく、隠し持ってきた道具から暗器を製作していた。

 基本的に昇任試験の武器の持ち込みはできない。

 ただし、上手く偽装して持ち込む人間はいた。

 その辺りは運営側も織り込み済みで、持ち込みの際にバレなければ良いだけ。

 ウーゴの場合、衣服に織り込んだ鉄線を使って暗器を製作している。


 試験に持ち込みが不可になったのは、以前、天馬に乗った騎士が圧勝してしまったからだ。

 今回は竜という最強の魔獣がいるのでより卑怯だ。

 持ち込み不可は必要な措置である。


 魔法使いであっても、カルメン大佐レベルに達しないと道具は必須だ。『魔女』という二つ名は伊達ではない。

 だから、武器のない剣士や戦士と比べて著しく不利ということはない。その辺りは配られる道具で調整しているようだ。

 どちらにせよ、いざという時に暗黒大陸で戦えるだけの実力がないと『士』の佐官は相応しくなかった。


 それにしても、リオッネロは起き上がらない。

 ウーゴが再び嘆息し、無理に起こすかと考えたその時、


「やぁやぁ、ウーゴ・ウベルティ大尉ではありませんか! 我こそはマーラ・モンタルド! いざ尋常に勝負!」


 古めかしい掛け声が上がった。

 馬鹿正直に名乗り上げるのは、武の名門モンタルド家のご令嬢──マーラ大尉である。

 その隣では「バカ! 不意討ちしないと!」と叱咤しているディアナ大尉の姿もある。彼女はなぜか髪が濡れていた。


「無駄だから。ウーゴ大尉は気配関知が得意よ」

「正々堂々戦う必要ありません。あそこ、リオッネロ大尉も倒れています。戦いは厳しいものです」


 言い争いをする二人。

 接近に当然気づいていたウーゴはため息をつきながら提案をする。


「……なぁ」

「はい?」「何ですか?」

「……一旦休戦しないか?」


 二人はピタリと止まる。

 おそらくは予想外の提案だとは考えていないはずだ。

 だから、彼女たちは雑談をする余裕があった。

 冷静なディアナ大尉が首肯した。


「同感です。この森ですね」

「……ああ、昇進できるのは一人だけだ。一番の難敵を排除しないと勝負にならないだろ? 共闘しようや」

「これ、ジャンマルコ特務大尉の仕業かな?」

「……知らないのか? マクシム・マルタン君。特例で参加した『竜騎士』の伴侶だよ」

「どうして『竜騎士』にこんな能力があるんです?」

「……知らないのか? だから、()()なんだよ」


 森は急速な成長を一旦止めていた。

 ただし、既に異常な密度で島の大部分を占拠している。

 おそらく森の中は既にマクシム・マルタンの領域だろう。つまり、島の大部分は彼の支配下にあると考えた方が良い。

 マクシムの能力で何ができるのか具体的には分からないが、獣の口に自ら飛び込むくらいのリスクはあるだろう。

 密な森が、ウーゴの目には要塞のように見えた。


「……本当に無茶苦茶な能力だな」

「マクシム・マルタンは『契約者』かな?」

「……いや、違う。特異能力者らしい。それこそ英雄たちと同一視すべきやからだな」


 一部の人間に現れる超能力。

 特異能力者は英雄たちの中にもいた。

 たとえば、『武道家』のような継承能力だ。

 そこまで破格ではなくとも、ピッキエーレ少佐の『敵への最短距離を潰すという能力』など『士』の中にも特異能力者は存在している。

 ただ、マクシム・マルタンは、希少な特異能力者の中でも更に選ばれた上澄み──最上級の能力であることは間違いない。

 怪物だった。


「選ばれた人間か……チッ、洒落にならない」と、ディアナ大尉は普段の優雅な態度を投げ捨てて舌打ちをしている。

 ウーゴは苦笑しながら同意する。


「……ピッキエーレ少佐はマクシム・マルタンを勝者として予想していたな」

「ピッキエーレ少佐とマクシム・マルタンって知り合いなの?」

「……マーラ大尉はもう少し情報収集すべきだろ」

「いえ、マーラだけではなく、私も知りませんでした。とにかく、ウーゴ大尉はこの森を攻略する必要があると考えているわけですね?」

「……ああ。一応、ひとつ策を考えているが、通用するかどうかは分からない」

「その策は何ですか?」

「……教える前に手を組むかどうか、だ」


 マーラ大尉とディアナ大尉は同時に即応した。


「ええ」「もう組んだつもりでした」

「……良し。あと、リオッネロ大尉も目を覚ましたら組むぞ。こんなのでも役に立つ」

「失神しているうちに排除するのも手では?」

「……俺の策は人手があればあるほど良い。ジャンマルコ特務大尉とも組めたら良かったが、会っていないよな?」

「会ってない」

「そもそも、ジャンマルコ特務大尉が組んでくれる保証はないのでは? 誰も面識ないですよね?」

「……それはそうだけどな」


 マクシム・マルタンの創り出した森は島の大部分を占めている。

 このまま進めば、逃げる以外に手はないはずだ。

 もしかしたら、特務大尉の地位にあるジャンマルコには対抗手段があるかもしれない。

 同じ特務大尉の地位にある『W・D』はかなり偏った存在だ。

 特務の地位にあるのだから偏っている可能性は高い。

 ただ、ウーゴは実のところ、マクシム・マルタンに対抗できるかどうかよりも、厄介な対抗相手としてジャンマルコを考えていた。可能であれば、捨て石として使いたかった。


 ──と、その時だった。


 それまで白目を剥いて気絶していたリオッネロ大尉がバッと飛び起きた。予備動作なし。バネのオモチャのような急な動き。

 そして、彼は周囲を確認した瞬間に叫ぶ。


「はっはっは! 我が名はリオッネロ・アルジェント! いつの間にやら囲まれていたが気にしない! 正々堂々勝負!」


 先ほどぶん殴られて気絶したことはもう記憶にないらしい。

 ウーゴ大尉はため息を吐きながら言う。


「……こいつは面倒くさいけど戦力になるから説得するぞ」

「別に私たち三人で良いのでは?」

「とりあえず、黙らせよう!」


 リオッネロ大尉の説得に、それほど時間はかからなかった。

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