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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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『魔女』の後始末

 その瞬間、カルメン・ピコットは意識を取り戻した。


「っ!?」


 カルメンは言葉にならない声を発しながら飛び起き、周囲を警戒する。

 どうやら今、彼女は病室のベッドの上らしかった。

 『士』と提携した、大きなケガなどをした際に運び込まれる病院だ。

 強い消毒液の臭い。清潔なベッド。

 ただし、カルメンは寝かされていただけで点滴などの処置もされていなかった。

 体に異常はなさそうだ。

 軟禁という言葉を想像するが、そもそも、寝る前は何をしていたか……カルメンは思い出せなかった。

 ただ、何か恐ろしいことがあったような気配に彼女は警戒を続ける。


「起きたみたいだね」


 その軽い言葉にカルメンは強い反応を返す。

 飛び起きるまではいかないが、防御用の魔法を発動させる寸前までいった。

 部屋に入ってきたのは一人の男性だった。

 よく見知った相手、カルメン大佐にとって唯一の上司だった。

 警戒を解き、カルメンは嘆息混じりに言う。


「頭領」

「ああ、『W・D』もいるよ」

「よく寝ていたぜ、カルメン大佐」


 確かにベッドの足下に近い位置に『W・D』特務大尉もいた。

 カルメンからは死角にあって見えなかった。

 この特務大尉が何らかの合図をして、『士』頭領イーサン・ガンドルフィは入室してきたのだろう。

 カルメンは訊ねる。


「あたいはどうしてここに……?」

「大佐は覚えていないのか。それとも、覚えていない振りをしているのか?」とイーサンはカルメンを無視して『W・D』に訊ねる。

「覚えてないぜ、この人は」


 イーサンは「なるほど」と頷いて説明する。


「大佐。あなたは『案山子』ハセ・ミコトに敗れてここにいるんだ。丸一日眠ったままだったよ」


 次にカルメンの脳裏に情景が蘇ってきた。

 『案山子』。ヒトガタ。自殺衝動。

 それは強い衝撃を伴っており、思わず大きな声を出してしまう。


「あ!」

「思い出したようだぜ」

「あ、あの後、あたいはどうなったのさねい」

「だから、『案山子』に敗れたところを俺たちが回収したんだぜ。イーサンが止めなかったら、あんた死んでいたよ」

「……その『案山子』ハセ・ミコトは?」


 『W・D』はチラッと視線を入口に向けた。そして、言う。


「おい、入ってきて良いぜ」

「はい……」


 おずおずと入室してきたのは『案山子』ハセ・ミコトだった。

 いや、周囲を伺うような態度から別人だと分かった。正確には別人格。

 カルメンは確かめるように呼びかける。


「ミッチェン・ミミック?」

「はい、その、はい……」


 ミッチェンは部屋に入ったは良いが、どうして良いか分からず困惑している。実際、声もか細い。

 イーサンが仕草で椅子を示すと、彼女は恐る恐る座った。

 カルメンは何が起きているのか分からず、助けを求めるようにイーサンを見る。


「頭領? 説明をお願いできますか」

「俺たちが現場に踏み込んだのは大佐が敗北した直後だった。こちらとしては平和裏に事態を収拾したかったから『案山子』と交渉を進めた。結果、協力関係に至ったわけだよ」

「ミッチェン・ミミックには自分がヒトトセ・リョウの肉体とハセ・ミコトの精神を宿していることは理解してもらったぜ」


 ミッチェンは『W・D』の説明に「はい、はい」と何度も小刻みに頷いた。

「信じられなかったですけど……」と前置いて続ける。


「でも、私には全然自覚なくて、でも、最近、寝足りないなって思っていて……」ミッチェンは目の下の隈を軽く撫でながら「どうやら私の寝ている時に動いているみたいだって、そこの名探偵犬に教えてもらいました」


 『W・D』は「犬」は不要だと抗議する。

 ミッチェンが首を竦めて口内で「ごめんなさい」と謝った。

 カルメンは呟くように言う。


「それで、協力関係に……」

「はい、私は『案山子』のこともヒトトセ・リョウのことも知らなくて、何が起きているのか知りたいんです」


 ミッチェンの瞳には切実さがあった。

 強さではなく追い込まれた人間の切実さ。

 英雄と並ぶような殺人能力があり、男性に変身することがある。

 なかなかハードな現実に立ち向かう前向きさが彼女の怯えた態度の中からも見えた。

 おそらくは『W・D』が説得したのだろうが、具体的にどうやったのかは分からなかった。


「そうなんだ……」

「で、大佐の処分についてだが――」


 カルメンはイーサンの言葉にビクンと背筋を伸ばす。


「はい」

「このまま軟禁だ。抵抗せずに大人しくして欲しい」

「えっと……?」


 カルメンが戸惑っていると『W・D』が補足する。


「獣人種のあんたは寿命で急激な老化が起きる。いや、既に起き始めているな。あと一年以内に死ぬだろう。正式な手続きであんたの罪を償わせるには短すぎる」


 『W・D』は淡々と説明を続ける。


「俺の見立てじゃ、あと二ヶ月ほどであんたは老人そのものになるぜ。既に死んだことになっているが、あんたを見てもカルメン・ピコットだとは分からなくなるだろう」

「あたい、死亡したことになっているんだ……」

「ああ。あんたが起こした一連の殺人事件については正体不明の殺人鬼がいたことにして処理させてもらうぜ。『案山子』がいたことにして、それを制圧したくらいの筋書きで良い。もう二度と起きなければどうにか処理できるだろうぜ」

「あたいが犯人という真実で処分した方が良いんじゃない?」

「無理だぜ。これから起きる『与力』との対立に口実を与えることになるぜ。ま、カルメン大佐は死ぬまでこちらの仕事を手伝うことになるが、軽い罰だろうさ」

「そうね」


 正直、カルメンは軽すぎる罰という気がした。

 実際、あのミッチェンでさえも不満そうにしている。

 メイド天国の同僚や社長を殺されたのだから当たり前だが。

 イーサンは告げる。


「あと、死後、大佐は研究用に使わせてもらう。なんといっても英雄『案山子』ハセ・ナナセの娘だからな」

「ご自由に」

「生前も人体実験として魔法研究に利用させてもらうが、それも罰だと思って欲しい」

「拷問されないだけ感謝すべきね」

「拷問しないとは言ってないぞ」


 イーサンは意地悪くそう言った。

 やはりカルメンのやったことに少し腹を立てているようだった。

 拷問をしても何か情報を得られるわけでもないし、ただの脅しにしかカルメンは感じられなかった。


「頭領、あたいを拷問して何の意味があるの?」

「……大佐は『士』を思ってのことかもしれないが、非常に迷惑だった。そのさは晴らせるだろう」

「『士』の人間は憂さ晴らしをして満足するタイプでもないでしょ」

「カルメン大佐のおかげでいろいろはかどったのも事実。そこらを加味しての判断もあるだけだぜ」

「そう……分かったわ」


 どちらにせよ、自分は負けたのだ、とカルメンは理解していた。

 義父の夢――英雄を超えることは自分はできなかったのだ。

 これから何が起きるのか分からないが、敗者の矜持きょうじとして、勝者に従うくらいの度量はあった。

 ただ、少し不満なのは勝者であるはずのミッチェン・ミミックがおどおどしていること。

 それも慣れるか、とカルメンは嘆息した。

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