無駄な探偵
マクシムはユーゴーの墜落死した殺人について手口を解き明かしていた。
それなりに自信があったので、胸を張って説明を始める。
「あのユーゴーの事件、少しだけおさらいするね」
「名探偵気取り?」
しかし、シラはいきなり冷や水をぶっかけてきた。
マクシムはうめき声をあげる。頬が熱い。
「うぐ、べ、別にかまわないだろう」
「そうですわよ、シラ。マクシムだってそういうことがしたいお年頃ですわ」
「ナタリア、全然フォローになってない。というか、絶対に冷やかしているよね」
ナタリアは「すみません」と笑いながら謝った。絶対に謝意はない。
マクシムはため息をつく。
知らないうちに肩に力が入っていたことを指摘してくれたようだ。
あまり良くないなと反省し、ソファーに体重を預けて、ゆっくりと説明を開始する。
「ユーゴーは高所から落として殺された事件だと考えられていた。でも、あの当時、竜以外に飛行物体はなかった」
「ええ、そうですわね。だから、『竜騎士』が疑われて、『W・D』様と事件を解決しようとする流れになりましたもの」
「でも、カルメン大佐が犯人だって『W・D』がすぐに解明した。ただし、その方法は不明だった。ここまではオッケー?」
ナタリアとシラが首肯した。
「でさ、思い出して欲しいんだけど、ユーゴーは殺される前に既に首の骨が折られていた。これも覚えている?」
「そうでしたわね。致命傷だったのかもしれませんが、直接の死因は墜落死ということでしたわね」
「うん、どうして首の骨を折っていたのかなって考えたんだ。で、結論から言うと動けなくさせたかったんだと思う」
首の骨が折れてしまえば、肉体的に動くことは不可能になる。
もしかしたら、その時点でユーゴーの意識はなかったのかもしれない。
シラが首を傾げる。
「それは何故?」
「ユーゴーは僕らが到着した時にはあの場にいたんだと思う。だから、動けないようにさせたかった。ユーゴーは地面に転がっていたんだよ。動いたら思い通りに殺すことができないからね」
シラが不審げに表情を歪める。何を言っているのか、と。
「いたら気づく」
「カルメン大佐はすごい魔法使いだよ。僕らが分からないような隠蔽魔法がかけられていたから気づかなかった」
「それはどうしてですか?」
「たとえば、ユーゴーから少し離れた空間を隠蔽してしまえば、痕跡は死体には残らないでしょ。空間ごと隔離する魔法を使用したんじゃないかな」
「いえ、どうしてそんなことをしたのか、という意味の問いですわ。殺すのであればそんな回りくどいことをする必要がないと思いますの」
「そう。逆に言えば、僕は回りくどいからこそ殺害方法が分かったんだよね」
「? 回りくどいから……?」
「最初に戻るけど、あれは墜落させて殺したんじゃない。逆なんだよ」
「逆?」
「地面に転がったユーゴーを真下。つまり、攻撃魔法で地下から地面を突き上げて殺したんだ」
ナタリアが驚いた表情になる。
それから納得したように頷く。
あれだけの説明で、こちらの推理が理解できたようだ。
「ああ、なるほど。位置エネルギーと運動エネルギーは等価だから……」
墜落死は高所から落ちて、地面にぶつかることで死亡する。
逆に言えば、空中落下だけでは死なない。
地面が堅く、人体は脆い。
ぶつかる衝撃で人体の器官が壊れて死ぬのだ。
見方を変えれば、地下から地面そのものを突き上げることで、墜落死と同じ衝撃をユーゴーにぶつける。
地面に横たわった状態であっても、魔法で墜落死と同じ状況を再現することも可能だとマクシムは推理した。カルメン大佐なら難しくないだろう、と。
ナタリアは少し考えた後、頷いた。
可能かどうかを頭の中で検証し直したのだろう。
「確かに間接的な攻撃魔法であれば、遺体にも魔法の痕跡は残りませんわね。衝撃そのものを突き上げる形なら墜落死とよく似た状況になると思いますわ」
「でしょ? これで墜落死の謎は解明されたと思うんだよね」
「殺害時間は車を手配したカルメン大佐なら逆算もできますものね」
「うん。隠蔽魔法もその時間に合わせて自然と解ける形なら痕跡も残らないだろうし」
「正確には残りにくいですが、ワタクシも同感ですわ。さすがですわ! マクシム!」
ナタリアが手放しで褒めてくれた。
マクシムは照れて「いやぁ」と笑う。
自信はあったが、自信があったからこそ不安もあった。
謎が解けた解放感が場を満たしていた。
そこでシラは素朴な疑問を思いついたとばかりに訊ねる。
「それで?」
「それで、とは?」
「犯人は分かってる」
「カルメン大佐だね」
「目的は?」
「多分だけど、隠蔽工作の一環。それと時間稼ぎかな」
「時間を稼いでどうする?」
「……何かをする、とか」
「何かって?」
「……たとえば、エンリコ社長とテルツァさんを殺したりする、とか、かなぁ……?」
「二人とももう殺された」
「…………」
「今の状況、何の意味がある?」
謎が解けたから何の意味があるのか、とシラは言う。
それはこちらを追及しているわけではないようだった。
今の状況で何ができるのか純粋に知りたがっていた。
まだ彼女が幼い少女であることを久々に思い出していた。
「…………」
マクシムは言葉を失う。
背中に変な汗が浮き出ている。
既にカルメン大佐は目的を達成している。
だとしたら、今更推理をして何の意味があるのだろうか?
溺れるような気分でマクシムは思いついたことを言う。
「た、たとえば、犯人であるカルメン大佐を追い詰めるとか……」
「犬、言っていた。問いただせば白状するって」
「そ、そうだね」
「それに、すごく残酷な手口」
言われてみてマクシムも気づいた。
首の骨を折って動けなくさせる。
その後、マクシムたちが来るまで放置。
──あまりにも残酷な手口だった。
殺すことと同じか、それ以上に残酷かもしれない。
解決ばかり考えていて、その件も考えていなかった。
マクシムはどうにか言葉を発する。
「もしかしたら、怨恨もあったのかもしれないけど……」
「その理由は?」
「それは分からないね……」
「やっぱり、この推理、何の意味がある?」
今更ながら『W・D』が言っていたことを思い出していた。
―─手段は適当で良い。推理なんて興味がない。
確かに、解明されても何の進展もなければ、意味もなかった。
少なくとも、エンリコ社長たちが殺される前には判明しておかないと意味がなかった。
あまりに無駄な探偵行為だった。




