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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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「え、テルツァさんが殺されたんですか?」


 電話から教えられた情報に、マクシムは耳を疑う。それは信じ難いことだった。

 ナタリアに視線を送ると、彼女も言葉を失っている。

 シラは表情の変化が少ないので分かり辛いが、眉間にわずかにしわが寄っている。彼女も動揺しているのだろう。

 電話で伝えてくれたのは『メイド天国』の呪詛蒐集能力者で生き残っている唯一の人間──ミッチェンだった。


『はい……』


 彼女は声に力がない。

 ただ、わざわざホテル住まいのマクシムたちにコンタクトを取ってきたのは、それだけ切迫しているということだろう。

 マクシムは「大丈夫ですか?」と訊ねる。


『大丈夫なわけないでしょ……』

「すみません。当たり前ですよね。これで八件目ですもんね」

『九件目よ。エンリコ社長も殺されたから』

「え……!? エンリコ社長も、殺されたんですか……」


 ナタリアたちに目配せすると二人とも驚いている。


『そうよ! あたしの目の前で殺されたわ!』


 ミッチェンはヒステリックに叫んだ。

 マクシムは絶句するしかなかった。

 状況を聞くと『案山子』が殺したとしか思えない状況。

 最早、呪詛蒐集能力に関係する人間は電話口の女性しか残っていないのか。


 大量殺人。

 恐ろしい。


 この犯人もカルメン大佐なのだろうか?

 だとしたら、犯罪を止めることに失敗したということで、それは後悔としてマクシムを襲ってきた。動悸が激しくなり、吐き気がする。

 マクシムには何もできなかったのかもしれない。

 ただ、『W・D』に任せきりで、信頼という名の思考停止にあったことは事実だった。

 こちらが言葉を失っていると、ミッチェンは言った。


『聞いてるの、あんた!?』

「は、はい。聞いてます……」

『とにかく! あたしはどうしても死にたくないの!』


 それはそうだろう。

 殺されたい人間などいない。

 自殺志願者であっても生が辛くて死にたいだけで、他者に殺されたいわけではない。


『あたし逃げるから!』

「えっ、と、逃げるってどこに?」

『分かんないけど、どこか! この街から逃げて、静かに暮らしていたら『案山子』も見逃してくれるかもしれないでしょ!』

「そ、そうですね」


 マクシムは思わず声が上擦ってしまった。

 下手な慰めや同意がミッチェンを死に追いやるかもしれない。

 そういう想像をしてしまったからだ。

 幸いにもミッチェンはマクシムの心情は気づかなかったようだ。


『そういうことだからもうあたしのことは忘れてね! ちょっと呪詛が使えるだけでどうして殺されなきゃならないのよ! あたしは何もしてない!』

「あ、すみません、最後に一つだけ」

『何よ!?』電話を切られるかと思ったが、興奮しているミッチェンはそう応じてくれた。

「会って聞きたかったんです。ヒトトセ・リョウってどんな人でしたか?」

『前も言ったでしょ! 女よ、目つきが悪くて、痩せていて、あたしと同い年くらいの陰気な女! 髪が長くて、化粧もあんまりしてないし、服装も暗い、幽霊みたいな奴! 分かった!?』


 ミッチェンはそう叫ぶと、こちらが返事をする間を与えず、電話を切ってしまった。

 マクシムは電話を指さしながら言う。


「切られちゃったよ。仕方ないけど」

「すごい剣幕でしたわね。こちらにも聞こえましたわ」

「うん、で、今から逃げるってさ」


 ある程度聞こえていたようだが、会話の内容を一から説明する。

 テルツァが駅前広場で殺された件やエンリコ社長がミッチェンの目の前で殺された件だ。

 マクシムとナタリアが言葉に困っていると、シラが率直な感想を言う。


「シラ、知ってる。『こんなところにいられるか』って雪山の山荘で言って部屋に閉じこもるオジサン」

「いや、現実的に危険だから逃げるのはアリだと思うけどね」


 殺される人が言いそうなことを口走ったなという意識はマクシムにもあったが、それだけ切迫していると考えれば笑えなかった。苦笑さえもできない。

 ナタリアが不安そうに言う。


「しかし、ミッチェン様……本当に逃げられるでしょうか?」

「殺す気ならもう殺していそうな気がするし、そもそも、『案山子』がやったかどうか分からないけどね」

「カルメン大佐ということですよね」

「うん、だとしたら、大人しくしたら殺されないと思うけど……。二重スパイの件も深く関わっていたわけでもないみたいだし」

「ですが、マクシム。テルツァ様は『案山子』に殺されると叫びながら、実際に衆人環視の中で殺されたのでしょう? 状況的には『案山子』の手口ですわ」

「魔法を使ったのかもしれないよ」

「その可能性はありますが、魔法でしたら痕跡が明白ですわ。周囲で見ていた人の中にも感知できる方はいらっしゃったかと」

「ということは呪詛、か。そっちは分かる人少ないもんね……」


 マクシムは天井を仰ぎ見ながら嘆息交じりに言う。


「もうよく分からないよ」


 謎は益々深まったということ。マクシムはため息をつくしかなかった。


「ヒトトセ・リョウも来なかったしね」

「女性、とミッチェン様はおっしゃってましたね」

「僕らの知るヒトトセ・リョウとは別人だよね、やっぱり」

「そうですわね」

「どういうことだろうね」

「分かりませんわ」


 ナタリアもため息をついた。

 実際、マクシムたちには何も分からなかった。


「ただ、僕らは『案山子』に会いたかっただけなのにね」

「そうですわね。『大魔法つかい』クラーラ・マウロ様とお会いしたいだけですのに」

「『案山子』ハセ・ミコトか。どんな人物なんだろうね」

「カルメン大佐はどうして手を汚しているのでしょうか」

「ヒトトセ・リョウも結局何者なんだろうね」

「メイド天国の方々を殺したのもカルメン大佐なのでしょうか」


 互いに疑問に思っていることを適当にぶつけていく。

 分からないことだらけだったが、殺人事件が起きていた。

 それだけは偽らざる現実だった。

 マクシムはふと思い出した疑問を口にする。


「ユーゴーは魔法を使わずにどうやって墜落死したんだろうね。竜《リトル》以外に飛行物がないってどうやったのかなぁ……」

「ワタクシ、いえ、『竜騎士』を犯人にしたいのは、やはりカルメン大佐が何かトリックを使ったからではないでしょうか」

「犯人だから意識を逸らせるためってこと?」

「そうですわ」

「ありそう。時間稼ぎってことか」

「『W・D』という名探偵がいるのです。いつかは発覚する前提で策略を立てていると考えるべきです」

「なるほど。ところで、あの時って何があったんだっけ?」


 ナタリアが「えっと」と頑張って思い出そうとしている。

 シラが代わりに言う。


「グチャって音がした。シラたち振り返った。あの男の人倒れていた」

「ああ、そうだ。音がしたんだったね」


 墜落死としか言えない、トマトを潰したような音。

 それに反応して、振り返ったらユーゴーが死亡していたのだ。


「でも、不思議だよね。どうして僕らがいる時だったんだろう」

「カルメン大佐が犯人だとしたら、そう難しい話ではありませんわ」

「? どうして?」

「あの場に行くのは伝えてました。車を手配して貰いましたから」

「あ、ホテルの人に頼んだんじゃないんだ」

「ええ。信頼できると思っていましたから」


 過去形なのが寂しい。

 しかし、あのタイミングで到着するというのが予想できたら、何か変わるだろうか?

 マクシムは考える。


 墜落死したユーゴー。

 魔法は使われていない。

 当時空を飛んでいたのは竜だけ……。


 その時、ふとマクシムの視界に入るものがあった。

 テーブルの上にある、水の入ったコップだ。


「……コップがテーブルの上にあるね」

「? そうですわね」

「これ、言い換えると、テーブルがコップを支えているってことだよね」

「……そうですわね。それが何か?」

「いや、見方を変えるとさ、主体を変えるというか、それが気になったというか……よく分からないんだけど……」


 マクシムはフッと気になることがあった。

 見方を変えると墜落死は何が変わるのだろうか? 

 高いところから落ちるから死ぬ。

 地面とぶつかることで死ぬ。

 人間の方が柔らかいから。

 つまり、それは?

 マクシムは「あ!」と叫んだ。


「逆にすれば良いのか!」

「マクシム、何か分かりましたのっ?」


 マクシムは首肯する。謎は解けた、と。


「何があったか分かったと思う。少なくとも説明はできる」

「本当ですか? それは?」

「そのまま逆(・)だったんだよ」

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