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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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『案山子』未満 その1

 総合人材派遣会社『メイド天国』

 従業員の数は正社員、パートタイムなどさまざまな形を含めると四五〇を超える人数になる。

 ただ、その中で『案山子』について知る人間はたった四人らしい。

 場所はメイド天国の応接室。

 それほど大きくないオフィスで、マクシムたちはしっかりと立派な応接室に通されていた。

 呪詛蒐集能力者ではない秘密を知る唯一の人間──社長のエンリコは元『さむらい』の人間だった。


「と言っても、私が『士』に所属していたのは二年弱。階級も一番下の少尉だったけどね」

「そうなんですね。ちなみに、辞めてしまった理由は?」

「危険過ぎるし、そもそも、実力不足って感じだね。あそこは超人揃いだったから」

「はぁ、そうですか」としかマクシムは言えなかった。

「ま、今の自分に不満があるわけじゃないからさ」

 

 自分を卑下するような自己紹介をしながらもエンリコ社長は爽やかに笑う。

 彼は四十代半ばほどの痩せた男性だった。

 武力組織にいた過去があるとは思えないほど穏やかな眼差しをしている。

 今までの人生で一度として怒ったことがなさそうな雰囲気を醸し出しており、人好きするタイプに見えた。


「じゃあ、カルメン大佐とかベニート大尉は当時は知り合いではなかったんですか?」

「いや、私がいた頃の彼女は既に中佐で、バリッバリだったよ。当時から『魔女』と呼ばれ、魔法使いとしては国内トップクラスだったね。ベニート大尉はこの仕事をしている時に知り合ったんだ」


 え、じゃあ、カルメン大佐って何歳なんだ、とマクシムは少し考えたが、特に問い返すことはしなかった。

 女性の年齢は知らない方が良い。

 マクシムは本題に入る。


「聞いているとは思うんですけど、僕ら、呪詛蒐集能力者を紹介して欲しいんです」

「ええ、聞いているよ。一人ずつ紹介するから。ちなみに、今は女性が二人、男性が一人になるから」

「皆さん知り合いというか、能力者としてつながりはあるんですか?」

「そうだな。ちょっと前までもう一人いて、その人が中心となってそれなりに交流はあったんだけどね。今はちょっと微妙かもしれない」

「その人はどうしたんですか?」


 とマクシムは問いかけながら答えを理解していた。

 多分、ナタリアも察していたと思う。シラは微妙だ。

 エンリコ社長はマクシムの予想通りの答えを言った。

 苦々しい口調だったが、穏やかなまなざしは変わらない。


()()()()んだよ。『案山子』と目される人物にね」


 だから、呪詛蒐集能力者が目撃したのか。

 だから、殺された人物を三人の能力者に殺害する動機がないと判断されたのか。

 マクシムは何が起きているのか、うっすらとだか理解していた。

 一人目を紹介される前に知っておこうと判断し、質問する。


「ちなみに、その人はどんな人だったんですか?」

「アダルジーザという若い女性だよ。彼女は『案山子』になれるほどではなかったが、かなり優秀な能力者だったね。そして、それ以上にアダルジーザはメイドさんとして優秀だった。仕事ができたし、それに性格も良かったよ。よく気が利いたから、細かい指示がなくてもクライアントの要望に応えられるタイプだった」

「そのアダルジーザさんの件で、たとえば、クライアントに反社会的な人がいて、悪い秘密を知ったから消されたとか、そういう殺される理由みたいなものって思いつきますか?」

「私は思いつかないね。それくらい彼女は上手くやっていたんだ」


 どれだけ良い人だとしても人知れず恨まれることはあるだろう。

 しかし、殺されるほど恨まれるのはそうない気がする。

 マクシムは殺されそうになるほど憎まれない限り、自分が直接的に害されない限り、そこまで踏み込めない。

 ──と、そこまで考えて、間違えているかもしれないと気づく。

 話に聞く『案山子』の域に達する能力者であれば、その思考回路が違うのだ。

 容易に殺害できる。しかも、人知れず見えないところで反撃もされない。そうなれば、人の命に対する価値観も変わってくるはずだ。

 命が軽いはずだ。

 マクシムたちが考えるよりも圧倒的に軽い。

 もしかしたら、羽虫を潰す程度に人の命も軽く、簡単に殺してしまうかもしれない。

 そうなれば、何となく気に入らない程度で殺害しているかもしれないから動機から考えるのは誤った道かもしれない。

 ただ、手段が異常なのでアリバイなどから辿ることも不可能に近い。

 危険かつ難解。

 マクシムはため息交じりにナタリアたちへ言う。


「……これはかなり厄介だね」

「そうですわね」


   +++


 まず、一人目に紹介されたのはベテランの女性だった。

 年の頃は五十歳くらいだろう。

 酷く痩せているせいか、神経質そうな外見に見える。

 彼女はテルツァと名乗った。

 テルツァは同席しているエンリコ社長へ視線を送る。


「……『案山子』について知りたいって子どもたちはこの子らですか」

「ああ。なんと『竜騎士』ご一行だよ」

「へぇ、そうですか」


 テルツァは何となく気の乗らない様子に見える。接客サービス業の人間とは思えないほど愛想がない。

 ただ、エンリコ社長は特に気にしていないから、いつもこんな感じなのだろう。

 マクシムたちが頭を下げると、彼女は特に反応を返すこともなく面倒そうに喋り始めた。


「『案山子』について知りたいなんて変な子たちね」

「よろしくお願いします」

「……『案山子』ハセ・サトリ様のことは覚えているわ。本当に子どもの頃だから記憶も曖昧だし、長い間付き合いがあったわけでもないけどね」

「そうなんですね。どんな人でしたか?」


 マクシムたちには砕けた様子でテルツァは喋った。

 印象を問われて彼女はポツリと端的に一言。


「……怖い人だった」

「そうなんですね。何か具体的な思い出とか教えて貰えますか?」

「私は直接呪詛操作について教えて貰ったの。ただ、あんまり才能がなくて、でも、そもそも、呪詛を操作できる人間が希少だから逃げられなくて、かなり厳しく教え込まれたわ」


 その時のことを思い出したのか、テルツァはブルッと身を震わせた。


「暴力を振るったり、怒ったりするわけじゃないの。ただ、何を考えているか分からなくて……それが怖かった。あんまり覚えてないけど、ハセ・ナナセはもっと凄まじい力があったみたいだけど、私にとって最強の呪詛蒐集能力者は、『案山子』といえばサトリ様になるわ」


 一応、メイド天国の三人の中で、テルツァは最も強い能力者らしいが、比較にならないほどだったようだ。

 更に強いのが英雄である『案山子』ハセ・ナナセ。上には上がいるということか。


「でも、テルツァさんも結構大きなヒトガタを作り出せるんですよね?」

「私は大人の二の腕くらいのサイズが限界よ。ちょっと人を操作できるけど、基本的にやらないし、もうずっとやってないから衰えているかもしれない」

「使わないのはどうしてですか?」

「……あなた、銃とか使ったことある? 魔法でも良いけどさ」

「いえ、使ったことありませんし、魔法使いでもないですけど……。それが何か?」

「私の能力も銃と一緒。悪用しようと思えばできるけど、基本的には使わない。理由は私利私欲のために使ったら、最悪、『士』たちに目を付けられるから。だから細心の注意が必要。サトリ様に仕込まれたのもそこになるし」

「というと」

使()()()()()()()()()という『()()()()()』よ」


 かなり理性的にコントロールされている印象をマクシムは受けた。

 ちなみに、彼女は今探している『案山子』ハセ・ミコトを知る人物ではなかった。

 その存在に対して、どう思っているのか質問するとこう答えた。


「……良かった」


 ポツリと、それは漏れ出るような一言だった。


「良かった? それはどういう意味です?」


 テルツァは慌てた様子で言い繕う。


「本当に殺しとかしているのであれば良くないことだとは思うわ。実際、知っている人も殺されているし、別に擁護しているわけではないわ。でも、そうじゃなくて、なんていうか『良かったなぁ』って」

「良かったってどういう意味ですか? 人が殺されているのに」

「怒らないでよ。私は全然『案山子』になれなかった。でも、サトリ様の後継者が、正当な後継者がいるのは良いことだと思うの。野良であっても『案山子』は『案山子』だから」

「……そういう意味ですか」

「ええ。本当に喜んでいるわけじゃなくて、安心しているわけでもなくて、どちらかというと不安だし、ただ、サトリ様(あの人)のことが残っているのだけは良かったのかもなぁって思っただけ」


 それは直接、過去の『案山子』を知っているからこその言葉だったのかもしれない。

 前代の『案山子』、ハセ・サトリは厳しくて怖い人だったのかもしれないが、弟子に嫌われるような人ではなかったようだ。

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