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七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?  作者: はまだ語録
第3部 全てのヒトガタを呪う者『案山子』
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『案山子』未満 その2

 テルツァの次に紹介された二人目は獣人種の男性だった。

 やや浅黒い肌をしており、精悍な顔つきをしている。

 獣人種は年齢不詳だが、シラから言わせると「あの人は大人」らしい。

 ユーゴーと名乗る彼はシラを見て「可愛いお嬢ちゃんっすね」と子ども扱いした。

 獣人種同士であれば大体の年齢は判別できるみたいだが、外見以外のどこで分かるのかは謎だった。


 エンリコ社長はテルツァに引き続き、最初の紹介以外は黙っている。特に言うことがないというよりも、気配を消して邪魔にならぬよう専念しているのではないかな、とマクシムは感じた。

 咳払いをしてからマクシムは訊ねる。


「えっと、あなたもこの会社で働いているということはメイドさんなんですよね」

「俺は執事でやらせてもらっているっす」

「どんな家事なんですか」

「普通に料理とか掃除もしているっすけど、自分、見ての通り獣人種なんで、力仕事の方が多いっす。ちょっと魔法も使えるし、手先も器用なんで家電の修理とか水回りの整備とかも。ま、何でも屋っす」


 なるほど、そういう需要もあるなら活躍の場も広そうだった。


「ちなみに、得意料理って何なんですか」

「鯖の味噌煮込みっす」

「さば、みそ」

「でも、獣人種と人間種って味覚が違うみたいだからちょっと自分では美味しいか分からないっすね。でも、結構好評っすよ」

「獣人種って野菜食べられないんですよね? その辺りは大丈夫なんですか」

「あ、自分はそこそこ食べられるっすよ。この辺り訓練次第っすから」

「そうなんですね」


 雑談から入ったが、そもそも、ユーゴーは疑惑の『案山子』ハセ・ミコトもヒトトセ・リョウも知らなかった。

 ただ、彼からは殺された人について話が聞けた。


「んー、正直、殺されたのはビックリしたっす」

「その割にはあんまり動揺とかしてないんですね」

「そんなことないっす。ぶっちゃけ、意味分かんないっすから。でも、仕方ないっすよね。殺されるなんて酷いっすけど、どうしようもないっすもん」

「どうしようもないとは」

「『案山子』の能力って異常でしょ。指定できたら殺せるって天災みたいなものだから避けようがないっすもん。自分も呪詛を扱えるから分かりますよ。自分との圧倒的な差が」

「伝聞だけでそんなに分かるものなんですね」

「そりゃもう。作り出せるヒトガタのサイズで明らかっすよ」


 マクシムはユーゴーから自暴自棄のニュアンスを感じ取った。

 笑顔なのだが、真の真からは笑えていない。

 殺される時は殺されるという覚悟があるわけではなく、単なる思考停止状態なのかもしれない。


「ちなみに、殺された方ってどんな方でしたか」

「アダルジーザ先輩っすか。自分より少し年下だったっすけど、キャリアは長くて頼りになる先輩だったっす」

「殺される理由とか思いつきますか?」

「んー、分かんないっすね。正直」


 でも、とユーゴーは考えながら言う。


「自分ら、呪詛蒐集ができるじゃないっすか」

「はい」

「で、弱くても『案山子』と同じ感じじゃないっすか」

「それは同じ能力者のカテゴリにあるって意味ですわよね」

「そうっすよ。だから、警戒されて殺されることもあるかもしれないっすよ。自分の正体を掴まれる前に殺してやるって」

「それは、あるかもしれませんわね……」

「呪詛から辿られる可能性を排除するというか、向こうからすればかなり自分らって格下じゃないっすか。そんな感じで足をすくわれるのって避けると思うんすよ。言っていること分かるっすか」

「はい、ワタクシは理解しましたわ」


 ユーゴーが自暴自棄なのはそういうことなのかもしれない。

 いつ殺されても仕方がない。運が悪かった。でも、それは気のせいかもしれない。考えすぎかもしれない。

 確かに『案山子』の能力はそれくらい異質であり、理不尽であった。

 ユーゴーは最後に一言。


「とにかく、自分は殺されないよう祈るばかりっすよ」

「それは、同感ですわ」

「それでも殺される時は殺されるから、この世は理不尽っす」


   +++


 三人目は二十歳前後くらいの若い女性だった。

 ミッチェンと名乗り、酷く疲れているのか目の下に濃いクマができている。

 整った顔立ちをしているのだが、それよりも見る人が不安になるような、不健康さが目につく。

 ナタリアが心配して声をかける。


「あの、お疲れに見えるのですが、大丈夫ですか?」

「……眠いだけ。話があるならサッサとお願い」

「分かりましたわ。あなたが『案山子』を名乗る女性、ヒトトセ・リョウ? ハセ・ミコトかもしれませんが、と遭遇したのですわよね。その詳しい経緯を教えていただけませんか?」


 ビクンとミッチェンは震える。

 そして、重い口をゆっくりと開いた。


「あれは仕事帰りにたまたま立ち寄ったお店、ワーキングスペースね。ちょっと書き物をしたくて、ええ、たまった書類を片づけるため。あたし、割と人気あるから忙しいの。

 で、その帰り、夜遅くなったけど、近くの公園で呪詛が集まっているから何事って思って……。ひと目で分かるくらい呪詛が異常な集まり方をしていたから危険事態だって思ったの。それで、その先で等身大のヒトガタを作り出している女を発見しちゃって……。

 そう、あいつ、全然隠れてなかったの。公園の広場で堂々と、何の衒(てら)いもなく、ヒトガタの胸を貫いたの。あれは間違いなく人を殺した瞬間だったわ」

「それがヒトトセ・リョウと名乗る女だったわけですか」

「ええ、そうよ。間違いないわ」


 そこでミッチェンは思い出すように絞り出す。


「……あの女、こっちを見て笑ったの」

「笑った? どういう意味ですか」

「言葉通りよ。向こうもあたしが呪詛蒐集能力者だと分かっていたんだと思う。で、だから何って感じで殺したんだと思うし、笑ったんだと思う」

「『案山子』同士、相通じるものがあるということですか」

「あたしは『案山子』じゃない」

「いえ、失礼。達人だからこそ分かり合える的な意味で使いましたわ」

「どちらにせよ、あたしは大した使い手じゃないから間違い。もしかしたらだけど、あえて見せたのかも」

「あえて見せた? その理由は?」

「分かんないけど、歯牙にもかけないって感じじゃない。見下されたんでしょ、あたしのことを」


 『竜騎士』になれず、劣等感を抱いていた過去のあるナタリアは「それは辛いですわね」と同情した。


 どうやら、呪詛蒐集能力をランク分けすると下記のようになるようだ。

 人を殺せるレベル(『案山子』クラス)を仮に一級に分類すると、


・ハセ・ナナセ 超一級

・ハセ・サトリ ぎりぎり一級

・テルツァ 三級

・ユーゴー 四級

・ミッチェン 五級


 くらいの分け方ができるらしい。

 ちなみに、殺されたアダルジーザも三級に該当する。

 つまり、ミッチェンは呪詛蒐集能力者としては最も下級になる。

 三級のテルツァならそれなりの汎用性はあるようだが、ミッチェンはちょっとした情報収集くらいが限界なようだ。

 だから、彼女は怒っていたし、恐れてた。

 ミッチェンが不眠になったのはその不安のためであった。


「別に見下されても構わないの。それよりも、あたしはあの女に顔を見られた。もういつ殺されてもおかしくはないわ」

「ハセ・ミコトを名乗る女性はやっぱり一流ですか」

「超一流。間違いなく英雄である『案山子』ハセ・ナナセと同じランクの使い手よ」

「…………」


 ナタリアは死の不安を抱いているミッチェンに気づき、何も言えなくなった。

 だから、マクシムが質問を引き継いだ。


「ところで、殺された方の印象をお聞かせ願えますか」

「……ただ運が悪かっただけよ」

「それはどういう意味ですか?」

「あの人が、私たちの中で最も能力的には優れていた。だから、目を付けられたんだと思う」

「それ以外に理由は思いつきませんか」

「……回答を拒否するわ。とにかく、私は大した能力もないの。もう呪詛蒐集能力は封印するわ。それなら殺されないと思うし」


 ミッチェンはハセ・ミコトに完全降伏状態だった。

 ただ、マクシムはミッチェンの考えを笑えなかった。

 もしかしたら、マクシムたちも次の瞬間殺されるかもしれない。

 それは過大過ぎるストレスだからだ。

 自死を選んでもおかしくないほどの過大なストレスのはずだ。


 それでも分かったことは多くないが、殺された人物から辿ろうとマクシムたちは決めた。

 殺された理由から『案山子』の目的が分かるかもしれない。

 それに、またヒトトセ・リョウがコンタクトを取りにくるかもしれない。

 まだまだこの事件の先は長そうだった。

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